92:レイドバトル・ゴーレム-5
「ミニゴォ!」
「っ、と、せいっ!」
着地と同時に俺の目の前にいる小型ゴーレムが襲い掛かってくる。
四本の脚で地面をしっかりと掴み、四本の腕を伸ばして殴り、払い、掴みを狙ってくる。
こうなると拙いのは掴みなので、俺は冷静に小型ゴーレムのどの手が開かれているかを確認して、開かれている手は避けて、残りは棍と盾で防ぎ、時間を稼ぐ。
そう、時間を稼げばいい。
今回のレイドバトルならそれで十分だ。
「ミンゴォ!」
「おっと」
それでも念のために、小型ゴーレムの攻撃を避けた俺は全力の一撃を小型ゴーレムの球体部分に加えてみる。
うん、駄目だ。
まるでビクともしない。
で、時間稼ぎをするのであれば、本音としては『ハリノムシロ』を使いたいところだが……うん、環境的に止めておこう。
砦に居る他の闘士たちの足元までガラス片が散らばって、邪魔する事になってしまう。
「ミミミゴゴゴ!!」
「あっぶなぁ!?」
と、此処で小型ゴーレムが八本の腕にして脚を車輪のように回して突っ込んでくる。
そして、突っ込んできて俺の近くにまで来たら、今度は体を横回転させて、周囲を薙ぎ払ってくる。
上手く跳べたので避けられたが、状況次第では今のは厄介そうだ。
後、今更ではあるが、こいつはどうやって周囲を知覚しているんだ?
見た限りでは目も耳も無いように思えるのだが……魔力や熱源とかか?
「ハリさん!」
「分かった!」
「ミゴォ!?」
ノノさんの声がすると同時に俺はその場から飛び退く。
直後、砦に居るノノさんの他、近距離中距離くらいの遠隔攻撃を得意とする闘士たちが動き、小型ゴーレムに向けて魔力の矢、物理的な矢、爆発、氷塊、岩塊、その他諸々エトセトラが降り注ぐ。
その攻撃の嵐に小型ゴーレムの八本の腕は容易にへし折れ、球体の身体にも深い傷跡が刻まれていく。
同じことが砦の周囲と言うか、他の小型ゴーレムが居る場所でも行われているのだろう、そこら中で爆音と爆炎が上がっている。
「……。アレで完全破壊にならないのか」
だが恐ろしい事に、あれほどの攻撃を受けてもなお小型ゴーレムの胴体は原形を残している。
深い傷が刻まれ、身動きは一切していないのだが、それでも魔力は保有し続けているようだった。
「ゴオオオオォォォォッ!!」
超大型ゴーレムが咆哮を上げ、両腕も上げている。
近距離攻撃を仕掛け……いや違う!?
「ハリさん!」
「全員伏せろぉ!!」
超大型ゴーレムの咆哮には魔力が含まれていた。
その咆哮に反応する形で、小型ゴーレムの魔力が動き出していた。
その動きは……まるで爆発する直前の爆弾のように思えた。
「『ガラスノクモ』!」
だから俺は周囲に注意を叫び、反射的に盾を構え、腰を落としつつ、強化魔法を発動しつつ、残った魔力を『ガラスノクモ』として目の前の小型ゴーレムに向かって放っていた。
「「「!?」」」
爆音が響く。
目の前からじゃない、目の前以外の戦場中からだ。
地響きが、衝撃波が、伝わってきて、俺は俺の意思に関わらずその場に転がされる。
「はぁはぁ……くそっ……」
衝撃が収まると同時に俺は立ち上がり、周囲を警戒する。
『ガラスノクモ』に包まれた小型ゴーレムは、ガラス片が内側から全身の表皮を貫いたような姿になって、完全に機能を停止している。
だが、爆発はしていない。
その予兆も見られない。
どうやら生き延びたようだ。
「っ! ノノさん!」
「はいっ! 生きてます! ハリさん! こっちです!!」
俺はノノさんに呼び掛ける。
すると直ぐに返事があって、ノノさんとその周囲に居た闘士たちが起き上がって、生存を伝える。
見た限り怪我らしい怪我も見えないので、どうやら俺たちが居る辺りの被害は軽微で済ませることが出来たようだ。
『全員に通達! 敵射出物である小型ゴーレムは、超大型ゴーレムの命令によって自爆する事が可能! 行動を停止させた後は速やかに吹き飛ばすか離れるなどして、安全を確保するように! また、本体への攻撃よりも負傷者の救助を優先せよ! 急げ!!』
トラペスーピさんの声が響き渡る。
俺は砦の壁を登らせてもらう事で中に戻り、内部の状況を確認。
砦の中で何体か爆発したようだが、通路は無事であり、負傷者の救助と治療は既に始まっているようだ。
「おいアンタ。アンタの魔力で包んだゴーレムが爆発してないのはアンタの魔法のおかげか?」
「え、あ、はい。そうです」
と、此処で上から支援してくれていた闘士の一人が俺に話しかけてくる。
槍と杖を兼用できそうな武器を持っている。
「よし。じゃあ聞くが、効果時間はどれぐらいだ? 遠目で見た感じだと完全停止しているように見えるが、術者じゃないこっちには判断が付かないんだ」
「あー、その辺はちょっと分からないです。俺もまだ出来るようになったばかりなんで。ただ、俺の目で見る限り、完全に自爆するための機構は破壊されているんで、回収の類はしても大丈夫だと思います」
「そうか。おい誰か! 技術者系の連中を呼んで来い! あそこの不発弾を回収してバラすぞ!!」
「「「イエッサー!!」」」
俺の答えを聞いた闘士の人は周囲に声を掛けてから砦を跳び降り、自爆できなかった小型ゴーレムを複数人で担ぎ上げると、何処かへと持ち去っていく。
たぶんだが、安全圏に持って行って、そこで解体、内部構造を確かめる事で、敵の弱点などを探り出すのだろう。
当然ながら俺が役立てるような仕事ではないので、彼らに任せた方がいい。
「ハリさん、体の調子は大丈夫ですか?」
「まだまだ大丈夫だ。ノノさんは?」
「私も大丈夫です」
俺とノノさんは改めてお互いの状態を確認。
まだまだ大丈夫と。
で、前線は……超大型ゴーレムが相変わらず暴れ回っている。
また、遠距離には飛ばさず、近距離に小型ゴーレムをバラ撒いている姿も見える。
それを前線組は暴れ回る事で、砦組は遠距離攻撃を仕掛ける事で対処している、と。
うーん、この状況で次にまた自爆命令の咆哮が来たら前線組は全員消し飛ぶのではないだろうか。
「ゴレムウゥ!」
「「!?」」
『っ!? 全ての砦に通達!』
と、思っていたら、急に超大型ゴーレムが四つん這いになった。
そして、両手首、両足首、口、背中の計六か所から、大量の小型ゴーレムを溢れ出させた。
津波のようなそれは逃げ遅れた前線の闘士を飲み込みながら、こっちに向かってくる。
『小型ゴーレムの総数はおよそ1000! 全力で迎撃せよ!!』
「ノノさん! 俺の背中に!」
「はいっ!!」
どうやら相手は前線どころか戦場全域を吹き飛ばすつもりであるようだった。
俺はどのタイミングでこの砦を放棄して、別の何かに移るかを考えつつ、盾を構えた。
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