91:レイドバトル・ゴーレム-4
≪決闘相手が現れます。構えてください≫
「っ!?」
「ハリさん、これって……」
「ああうん、分かってはいたがとんでもないな……」
レイドバトルの舞台に転送されて一時間。
アナウンスと共に、敵が出現すると予測されていたポイントに紫色の光が集まっていく。
だが、その量とサイズがとんでもない。
まるで紫色の巨大な光の塔が出現したかのようなのだ。
「全員、構えを取れ!」
「何が出てきても気圧されんじゃねぇぞ!」
「お前らぁ! 覚悟はいいかぁ!!」
紫色の光の中から決闘相手である超大型ゴーレムが現れ始める。
それに合わせるように、俺たちが居る簡易砦も含めて、そこら中から鬨の声が聞こえ、魔法の詠唱が始まり、魔力が高まっていく。
それを見て俺は盾と体に込める魔力の量を増やし、ノノさんも『
「ゴオオォォゴオオォォ……」
『全員に通達! 敵のサイズは約200メートル。材質は石だが、魔力を含む』
超大型ゴーレムは……やはりデカい。
全体的なシルエットとしては、全身鎧を身に着けた普通の人のそれ。
トラペスーピさんの言葉通り、身長200メートル近く。
体を構築しているのも石なのは間違いないが、その巨大さゆえにか掴もうと思えば掴めるとっかかりは多いし、コケや草、蔓なんかも結構な量で生えている。
サイズがサイズなので俺には無理だろうが、人によっては体をよじ登る事も出来るかもしれない。
で、超大型ゴーレムだが……俺たちの方を向いて現れている。
顔と思しき部分で赤く光っている目のようなものがこちらに向けている。
とは言え、俺たちが居る場所と超大型ゴーレムの間には100メートル以上の距離があるのだが。
≪レイドバトルを開始します≫
『戦闘開始! 各員、全力を尽くせ!』
「「「ウオオオオオオオオオォォォォォッッ!!」」」
「ノノさん」
「一応撃ち込みます。飛んで行って!!」
レイドバトルが始まった。
近接戦闘を専門とする闘士たちが超大型ゴーレムに向かって駆けていく。
空を飛ぶセフィルーラさんたちも一斉に向かっていく。
魔法を構えていた面々は飛距離を優先とした魔法を撃ち込んでいく。
撃ち込まれた魔法によって爆発が起き、その後に近接攻撃持ちが超大型ゴーレムに肉薄しようとしたのだ。
「ゴオオオオォォォッ」
「「「!?」」」
が、遠距離攻撃など効いていないと言わんばかりに、超大型ゴーレムは重低音を発しながら腕を振るい、振り下ろし、軌道上に居た飛行能力持ちの闘士と振り下ろした先に居た闘士たちをまとめて叩き潰す。
その威力はすさまじく、100メートル以上は間違いなく離れているのに、それでもなお俺たちが居る砦まで地響きと轟音が伝わってくるほどだった。
潰された闘士たちがどうなったかなど考えるまでもないし、直撃しなくても余波だけで致命傷になっている可能性もあるだろう。
「手を緩めるなぁ! 押せ! 押せぇ!!」
「撃てるだけ撃ち込んでいけ! 肉壁が何時までも居ると思うなよ!」
「ヒャッハアアァァッ!! 大盤振る舞いだぁ!!」
「あー、いやまあ、そうなんだろうけどさぁ……」
「魔よ、命となり、矢となり、鋭く長く飛んで。『
だが、この程度はレイドバトルに慣れている面々にとっては想定の範疇であるらしい。
次から次へと超大型ゴーレムの胸に向かって攻撃が乱れ飛んでいく。
また、近接攻撃組も、直ぐに立ち上がると、脚や地面に叩きつけられた腕への集中攻撃を行っていく。
なるほど、遠距離組は超大型ゴーレムの体力と魔力を減らすために、近接組は超大型ゴーレムの攻撃能力と機動力を削ぐ方向で動いているのか。
同士討ちを防ぐためにも、適切な役割分担だと思う。
まあ、完全に同士討ちを防げているわけでもないが。
『全員に通達! 敵の手首、足首に開口部を確認。何かしらの射出能力を有するものと考えられる。各自留意するように』
「開口部……ああ、なるほど。確かに……っ!?」
トラペスーピさんの言葉を受けて、現状だとやる事がない俺は超大型ゴーレムの手足を確認してみる。
うん、確かに言われた場所に膨らみがあって、そこから何かを外に出せそうになっている。
そう思っていたら超大型ゴーレムは腕を引き戻し、振りかぶり、横に振る。
今さっき言及があった開口部から球形の何かを射出しながら。
「ノノさん伏せろ!」
「はいっ!」
俺は直ぐにノノさんの前に出て、全力で強化魔法を発動し、盾を構え、その盾から延ばすように魔力も盾状に放出する。
「「「っ!?」」」
直後、超大型ゴーレムから射出された何かが一つ、俺の魔力に触れ、僅かな減速の後に着弾。
運悪く着弾地点に居た闘士を粉砕しながら、“着地”した。
そう、着地したのだ。
「ミミミ……」
『全員に通達! 敵射出物は小型ゴーレム! 近くに居るものが対処せよ!!』
「ノノさん大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
超大型ゴーレムが放ったのは、直径1メートルの球体に八本の脚と腕を兼用できそうなアームを付けた、本体に比べれば小型だが、小型と言うには少々大きすぎるゴーレムだった。
「ミニゴォ!」
「ぐっ……まずっ……」
「俺が対処します!」
「ハリさん! 援護します!」
小型ゴーレムは周囲に居た闘士に襲い掛かろうとし、俺はそこへと割り込んで砦の外に自分ごと小型ゴーレムを落とした。
そして落下中に見た。
砦とその周囲には、十数体の小型ゴーレムが居るようだった。