90:レイドバトル・ゴーレム-3
「いい感じだ。これなら本体の攻撃も一発くらい防げるか?」
「だといいんだがな。期待はしないでおいた方がいい」
「土を盛り上げているだけだからな。相手との相性次第だろ」
拠点に繋がる通路は祠のようなものだった。
石で出来ているが、正直に言って脆そうで、その気になれば俺でも破壊出来るだろう。
そして、その祠を囲うように地面を盛り上げる事で土塁が作られ、祠から運び出された木材によって櫓のような物が作られ、気が付けば巨大な一枚の金属板が盾のように設置され、砦の周囲に空堀が生み出されていく。
なるほど、これは確かに要塞化だ。
「セフィルーラさん。何故、こんな事を?」
「理由は幾つかあるわね。まず一つは拠点に繋がる通路が破壊されれば、その通路を利用して拠点に移動する事が出来なくなってしまう。それがどれだけ不利な事かは言わなくても分かるわね」
「なるほど。確かに出れる場所が減るのは不利ですね」
拠点から出れる場所が減るのは確実に不利だ。
出れる場所が複数あるなら、状況に応じて有利な場所から飛び出して仕掛けると言う事も可能だが、その数が減れば、最悪、敵に出待ちされる事もあるだろう。
ああいや、待った。
「あの、セフィ様。相手が拠点の中に入ってくる事はあるのですか?」
「アタシが聞く限りでは、レイドバトルの敵が拠点の中に入ってきたと言う話は聞かないわね。拠点がある場所に外から攻撃を仕掛けて、拠点ごと叩き潰された話は聞くけど」
「もう一つ。今回の相手は超大型ゴーレムですけど、あの書き方なら一体の強力な相手ですよね。こんなとりでを作る意味があるんでしょうか?」
「そこは……アタシも詳しくは知らないし、半分くらいは賭けらしいわ」
と、思っていたら、ノノさんが質問をしてくれた。
うん、それは確かに気になるところだ。
で、砦の必要性については、明確な答えが返ってこなくても、ある程度は予想が付く。
「セフィルーラさん、ノノさん、もしかしなくても超大型ゴーレムが取り巻きを召喚する可能性を考慮している感じですかね。後は放つ物が質量兵器ではなく炎や水であれば、規模や魔法によっては、防げる可能性はありますから」
「あー、うん。そんな感じそんな感じ。まあ、相手が使ってくるかは分からないから、やっぱり賭けね」
「なるほど、そう言う事なんですね。流石ですね。ハリさん」
まあ、相性が良ければ、楽に拠点を守れるようになるのだから、時間もあるのだし準備しない理由がない、と言う事だろう。
で、そんな事を考えると同時に、どうしてオニオンさんがこの砦について話をしなかったのかも分かってしまった。
「ハリさん?」
「……。いや、オニオンさんたちくらいの闘士になったら、用意しても意味がないんだろうな、と思っただけ」
「そのオニオンさんと言う人は知らないけれど、まあ、確かに何十年も闘士をやっているような人たちが中心になっているレイドバトルだと、こう言う砦は用意されないわね。馬鹿みたいな速さで飛び回り、馬鹿げた範囲を一回の攻撃で消し飛ばし、そんな規模の攻撃を受けてもケロっとしているような闘士だと、必要がないから」
「まあ、そうでしょうね」
うん、オニオンさんたちクラスの決闘だと、魔法で強化されていない土の砦など、あっても意味がないのだ。
そして、そんなレベルの決闘では100ポイント程度の資材では焼け石に水で、そう言う意味でも作る意味がないのだろう。
つまり、今の俺たちのレベルで行われるレイドバトルだからこそ、砦の建築と言う行為には意味があると言う訳だ。
「さて、そんなわけで、貴方たちが見つけた5番通路のような僻地にある通路は別として、それ以外の通路は一時間以内にこうして要塞化していく感じね」
「あれ? 5番通路はそのままなんですか?」
「元が見つかりづらい場所なら、敢えて要塞化せず、目立たない事を最大の防御にするのも一つの手段なのよ」
「あ、なるほど」
俺たちは砦の中を見て回っていく。
超大型ゴーレムが出現するであろう中心側に向けて特に防備を堅くし、同時に遠距離攻撃を撃ち込みやすいように櫓も建てられている。
側面には虎口のような、地形に従って攻めてくる相手を倒しやすいようになっている場所があり、防御能力が高そうだ。
他にも拠点からポイントを使って作られたと思しき機材が運び出され、設置されてもいく。
中には明らかに100ポイントで収まらなさそうな物も見受けられるが……複数人で支払いが出来ると言う事だろうか?
「砦についてはこんなところかしら。それでハリにノノ。貴方たちは何が出来るのかしら? それに応じて決闘開始時に二人が立っていた方がいい場所が変わるのだけど」
「そうですね……」
「私たちが出来る事と言うと……」
さて、これほどしっかりとした防衛が整っている場所において、俺たちに何が出来るだろうか?
とりあえず俺がタンク役メインである事、ノノさんが少々問題を抱えている魔法使いである事をセフィルーラさんに伝える。
それを聞いてセフィルーラさんは少し悩み……。
「うん、二人一緒に砦から攻撃を撃ち込めばいいんじゃないかしら。ハリが防御に専念すれば、ノノ以外の近くに居る人たちも攻撃に専念しやすいでしょうし」
「分かりました。では、そうさせてもらいます」
「頑張ります」
と言う意見をくれた。
そんなわけで俺たちは遠距離攻撃組に二人一組の形で加わり、これまで助言をくれたセフィルーラさんは空を飛んで砦の上空に待機する。
そして、決闘が始まる時が来た。
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