88:レイドバトル・ゴーレム-1
≪転送が完了しました。敵が出現するのは1時間後です≫
「あ、ヤバいな、これ」
「そうですね。思っていた以上に広いです」
レイドバトル開始の時刻となり、装備を整えた俺たちはレイドバトルに転送された。
転送されたのだが……うん、事前に思っていた以上の風景がそこには広がっていた。
「平原……いや、盆地に近いか?」
「草丈は低いから視界は悪くないですけど、本当に広いですね」
そこは地平線が見えそうなほどに広い草原。
ただ、決闘場所の内外を分ける境界として山が用いられているらしく、正面は1キロメートル以上先に丘が、後ろは直ぐに木々に覆われた斜面になっている。
時刻は一応夜のようだが、強く煌めく満月の明かりによって、曇り空くらいには周囲が見えている。
「しかし、密集してスタートでなかったのは想定外だなぁ。おかげでオニオンさんに教わった通りに動けない」
「そうですね。でも、遠くから見ても強いと分かる方も居るぐらいですから、私とハリさんは弱い方なのかもしれません」
「ん? そうなのか? ノノさんの目でそう見えるなら、じゃあ、俺たちは弱い側だと思ってよさそうだな」
そんな舞台に一万人超の闘士はバラバラの初期位置で転送されたらしく、人影はまばらだ。
ただ、周囲の状況を確認するために俺の肩に登ったノノさんが見る限り、遠目でも俺たちより強いと感じる闘士が居るようだ。
距離があってもなおそう感じるような闘士が居るなら、一先ず俺たちは弱い側だと考えていいだろう。
「さて、そうなると何をやるかだが……」
『全員に通達する!』
「ん?」
「これは……頭の中に直接ですね」
と、ここで不意に俺の頭の中に直接声が響いてくる。
どうやらテレパシーあるいは念話と呼ばれるような魔法を用いている誰かが居るようだ。
言葉の内容とノノさんの反応からして、この場に居る全員に言葉を伝えていると思ってもよさそうだし……たぶんだが、この声の人物が指示役かな?
とりあえず続きを待とう。
『我の名前はトラペスーピ・ンッカ。今聞いてもらっている通り、任意の相手に声を届ける魔法を持っている。範囲はこの戦場の全域、聴覚とは別に声を届けるため、戦闘の邪魔にならない形で、声を届ける事が出来る』
「ほー」
「凄いですね」
ふむふむ、トラペスーピ・ンッカさんか。
ちなみに声の感じからしてたぶん男性である。
『さて本題だが、今回のレイドバトルについての打ち合わせをしたいと思っているので、何かしらの意見、この場についての情報、指示役としての自信がある人物が居れば、我の居る場所に来て欲しい。場所については、今から赤い光を上げるので、それを目印にしてほしい』
「……。うん、やっぱり俺たちはサポート役だな。少なくとも主役じゃないのは確かだ」
「そうですね。絶対に私たちはメインじゃないです」
赤い光が1キロメートルほど離れた場所で上がり、十分な高さにまで上がった後、赤い光の柱となって留まり続けている。
うん、専門の魔法を持っているにしても、アレが可能なだけの魔力を有している時点で、俺たちよりも格上っぽい。
『では、我らの勝利の為に各々が最善を尽くす事を期待している』
「ハリさん。私たちはどうしましょうか」
「そうだなぁ……」
では、明確に裏方に回るべきだと自覚したならば、何をするべきだろうか?
今回の決闘についての意見?
初めてのレイドバトルなのに、そんなものがあるわけない。
この場の情報?
現状では持っていない。
指示役としての自信?
ノノさんがしたいと言うならともかく、俺には無理だ。
となると……
「情報収集かな。敵である超大型ゴーレムとやらが出現するまで一時間。オニオンさんの話の通りなら、長期戦に備えて色々な設備があるはずだし、それを探すのが第一だと思う。それと……」
「私の魔法への影響ですね。普段のコロシアムとは地形が全くの別物ですから」
「だな。と言うか、此処まで違うと、俺の『ハリノムシロ』なんかも影響を受けそうだ」
現状やるべきは情報収集になるだろう。
ノノさんは魔法の性質が自然であるために、全力を出す場合には必ず周囲の環境の影響を受ける事になる。
そして、普段のコロシアムは乾いた地面の環境だが、今俺たちが居るのはノノさんの膝ぐらいまで丈のある草が生え揃った草原。
確実に普段とは違う魔法になる事だろう。
俺の魔法にしても……無影響だとは思わない方がいいはずだ。
なので、その辺の確認はしておきたい。
「とりあえずは、斜面の中で出っ張り、塔っぽくなっている岩に向かってみるか」
「そうですね。そうしましょうか」
だが、それ以上に確認するべきはやはり施設の類だろう。
何処かに何かしらは有って、それを有効利用出来れば、それだけ決闘が楽になるはずだ。
「これが施設ってやつみたいだな」
「そうみたいですね」
そうして探すこと数分。
俺たちは山の斜面から出ている岩の陰に、洞窟のようなものを見つける。
だが、壁や天井は剥き出しの岩であるのに、床は見事なコンクリ張りである時点で天然ものと言うか、偶然の生成物ではなく、誰か……『煉獄闘技場』の主が生み出したものである事は明らかだった。
なので俺たちは洞窟の中に入っていき、天井に照明が付いた通路を抜け、大きな機械が置かれている広間のような部屋に辿り着いた。