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84:ゴブリンとの決闘-2

≪決闘相手が現れます。構えてください≫

「「……」」

 コロシアムに転送された俺とノノさんは直ぐに武器を構える。

 さて、コロシアムの状況は……障害物になるようなものが一切ないもので、直径10メートルちょっととだいぶ狭い。

 だが、これほど狭いなら『ハリノムシロ』は何処で発動してもほぼ確実に相手を巻き込めるだろう。


「「「ゴブゴブゴブ……」」」

 紫色の光が集まり、今回の決闘相手となるゴブリン13体が姿を現す。

 で、そのゴブリンの姿だが……身長は俺の腰程度であり、皮膚は緑色、額には小さな角が二本生えている。

 身に着けている衣服は腰布一枚あるいは全身を覆うようなボロ布。

 手にしているものは個体ごとに異なっていて、斧持ちが4、槍持ちが4、盾持ちが2、弓持ちが2、杖持ちが1、いずれの装備品も木と石を組み合わせたようなものであり、作りは粗い。

 うーん、たぶんだが、杖持ちは指揮官兼魔法使いだな、他の個体よりも魔力の扱いに慣れているように思える。


「ゴブゥ……ブブブゥ」

「ゴブゴブ……」

「リブブ……」

「ハリさん……」

「……」

 まあ、その辺は良いか。

 それよりも俺が気にするべきは、奴らが浮かべているのがとても嗜虐的かつ特有の興奮を伴うものである事。

 そして、その視線の大部分がノノさんに向けられている事だろう。


「はぁ……」

「ハリさん?」

 ……。

 念のために確認はしてあるが、『煉獄闘技場』ではそう言う事は出来ないようになっている。

 そう言う状態になった時点で戦闘不能扱いとなり、被害を受けそうになった者は敗北者として闘技場の外に出され、被害を与えようとした者は闘士として認められない者として処分されるそうだ。

 が、それは体の安全が確保されているだけで、心の安全が確保されているわけではない。

 また、奴らは闘士ではなくモンスターであり、そんな事情を知るはずもない。

 だから、そう言う事を獣の本能のままに狙う事だろう。


「おい、雑魚共」

 許しがたい。


「「「ゴブ?」」」

 故に……


「死ぬ覚悟は良いか?」

 全力で叩き潰す。

 そのような展開は決して許さない。

 最大限の強化魔法を展開し、粘り気を持った魔法発動の余波を周囲へとばらまき、その余波に大量の殺意を乗せる。


「「「!?」」」

「ハリさん!?」

 その殺意にゴブリンたちは恐れ戦いたのか、身を強張らせ、震わせる。


「……。ハリさん、初手で仕掛けて下さい。でも、その後は私の守りをお願いします」

「ああ、分かってる。これは半分以上フリだから、安心してくれ」

 俺はゴブリンたちの怯えを理解した上で、棍を構える。

 ノノさんも俺の陰で一つの魔法を準備する。

 ゴブリンたちも怯えながら、それぞれの装備を構える。


≪決闘を開始します≫

 そうして決闘開始のアナウンスが響く。


「くたばれ」

 と同時に俺は全速力でゴブリンの一体に接近。

 呆けている斧持ちゴブリンに向けて棍を振り下ろし、頭蓋も、その下の貧相な体も粉砕して、地面に接触した棍が轟音と砂ぼこりを巻き上げる。


「起動せよ。『ハリノムシロ』」

 加えて『ハリノムシロ』を発動。

 ゴブリンたちの敵意を俺へと向けると共に、コロシアム中の地面にガラス片を出現させる。


「「「ゴ、ゴブウウゥゥ!!」」」

 怯えている割にはゴブリンたちの反応は早かった。

 斧、槍、弓矢が俺に向けられ、攻撃を仕掛けてくるし、盾持ちは俺と杖持ちの間に入って盾を構えている。

 それぞれの装備とゴブリン自身の魔力を見る限り、そのまま攻撃を受けても大したダメージにはならないだろうし、盾を無理やり撃ち破る事も出来るだろう。

 だが、幾つかの理由から俺はその場から飛び退き、更には棍と強化魔法を利用して高く跳び上がる。

 理由の一つは、素直に殴られる趣味はないし、俺が認識出来ない何かが含まれている可能性を考えての事だ。

 もう一つの理由は……今来る。


「魔よ、水となり、波となり、路にあるもの飲み進み、我が敵の命もまた飲め。『水波(アクアウェイブ)』」

「「「!?」」」

 ノノさんが杖を振る。

 するとそれに合わせて大量の水が生成され、ノノさんの一歩前を始点として、扇状に大量の水が広がっていく。

 だが、ただ広がっていくだけではない。

 ノノさんの魔法の性質によるものだろう。

 広がっていく水は進む度にコロシアムの地面を飲み込んで茶色くなっていき、俺の『ハリノムシロ』のガラス片を飲み込んで煌めき、それらが含む力を利用する事で水そのものも増えていく。


「「「ゴブウウゥゥゥ!?」」」

 そうして、まるで津波のようになった大量の水はゴブリンたちを飲み込み、ゴブリンたちの装備品も、ゴブリンたちの身体も粉砕していく。


「よっと」

 これがノノさんの新しい魔法、波の魔法。

 見ての通りの範囲攻撃であり、俺の『ハリノムシロ』と組み合わさる事によって、元来控えめな威力を大幅に増強する事にも成功している一撃である。


「ノノさん。体調は?」

「問題ありません。必要ならもう一度撃てます」

 俺は『ハリノムシロ』を再起動した上で、ノノさんの下に駆け寄り、盾を構える。

 ゴブリンたちに動きはない。

 死体になったか、気絶したか、死んだふりをしているかは分からない。

 ただ、勝利のアナウンスがないので、全滅をさせていない事は確かだ。

 が、何をする気であっても、俺たちとゴブリンの間には10メートル近い距離があり、奴らの実力では俺たちに何も悟らせずに行動する事は不可能だろう。


「ゴブアアアァァァッ!」

 と、ここで死体の中から現れた杖持ちが咆哮を上げつつ杖を振るい、杖の先端から火球を生み出して射出する。


「ハリさん」

「分かってる」

 俺はそれを見て一歩前に出ると、強化魔法を発動した盾で火球を殴りつけて粉砕。

 そのまま更に前に進んで、大量の魔力を放出。

 それによってゴブリンたちの死体と次の魔法を使おうとしていた杖持ちの体を覆う。


「ギッ!?」

 それだけで杖持ちが放とうとしていた火球は霧散し、息が出来ないかのように首を抑える。

 この現象は言うまでもなく俺の魔法の性質によるものであり、俺の魔力の支配下にある空間では、俺よりも魔法の制御能力が低い敵は魔法の発動が難しくなり、魔力の回復も迂闊には出来なくなるようなのだ。

 今俺の目の前にいる杖持ちのように。


「魔よ、土となり、矢となり、早く鋭く飛べ。『土矢(ソイルボルト)』」

 そこへノノさんの土の矢が放たれ、飛ぶ途中で俺の魔力を巻き込むことで土の矢は水晶の矢となり、杖持ちの頭を粉砕した。


≪決闘に勝利しました≫

「よし勝ったな」

「ですね」

 そして勝利のアナウンスが告げられ、俺たちは光と共に元の場所へと転送された。

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