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83:ゴブリンとの決闘-1

「うん、いい感じだな」

 サミさんのお店、『イテバレ』で防具を貰った俺とノノさんは、その後も訓練を重ねて行った。

 その結果として、俺はマントを付けた状態での立ち回りに慣れると共に、ノノさんもハイシープディアンドルセットを着た状態での動きにだいぶ慣れた。

 具体的に言えば、俺はマントに強化魔法を纏わせる際に、強化魔法の強度や性質を弄る事によって、軽い攻撃を容易に弾ける堅さを持たせることも、勢いのある攻撃を柔らかさを利用する事で絡め取って和らげる事も出来るようになった。

 うん、俺自身の努力もあるが、サミさんの作った防具が着用者の魔力に良く馴染んでくれるからこその技術だ。

 本当にいいものを貰った。


「ノノさんは?」

「はい、私も大丈夫です。ハリさん」

 また、ここ数日の訓練には防御面の訓練だけでなく、攻撃面の訓練も含まれている。

 俺は単純に強化魔法の出力を上げる事に成功したし、硝子あるいは玻璃の性質を生かした魔法も、一つだけだが使い物になるようにはなった。

 なお、『ハリノムシロ』についてはまた弄れそうにない。

 そしてノノさんは……俺の魔法に合わせた自然の性質を生かした魔法も存在するし、他にも幾つか新しい魔法の考案もしているようだ。

 ただ、魔法の成功率はまだそこまで高くないらしく、今使うならば失敗しても問題ない状況で、と言う事になっている。


「よし、それじゃあ休養権を切ろうか」

「はい、挑みましょう」

 では、この数日の成果を試す意味でも決闘に挑むとしよう。

 と言う訳で、俺とノノさんは休養権を解除。

 続けて、PvP出場権、決闘人数制限解除権、レイドバトル解除権、これら新しく得た三つの権利も有効にする。

 こちらについては、結局のところ挑んでみなければどんなものか分からないと言うことで、有効にしてみたのだ。


≪決闘が設定されました≫

≪決闘の開始は1時間後になります≫

「来たか」

「来ましたね」

 決闘の日時が決まったと言うアナウンスが流れた。

 いつもながらに仕事が早い。


「さて、相手は誰だ?」

「えーと……」

 では、相手を確認してみよう。


 『PvE:ハリ・イグサ & ノノ・フローリィ VS ゴブリン13体 』


「多いわ!?」

「ええっ……」

 どうやら今回は『煉獄闘技場』が用意した相手のようだ。

 が、相手の数がとんでもない。

 13体って……こっちが二人なのに対して13人って……人数差がいくら何でも酷くないか?

 ああいやでも、俺とノノさんの二人だけでも対処できるからこそ決闘は設定されているのだし、そう考えたら相手が13人でも、個々の実力はそこまででもないのか?

 うーん、分からない……とりあえずゴブリンと言うのが、どういう存在なのか調べてみるか。


「ゴブリンゴブリン……」

「先日のドラゴン焼きのお店の店主さんもゴブリンですよね」

「だな。だから闘士として認められている個体も居るわけだが、大半の個体は闘士じゃなくてモンスター扱いになるみたいだな」

「どうしてそうなっているんでしょうか?」

 ゴブリン、同義語と言うか、近い存在を表す言葉としては小鬼、緑小鬼、矮鬼、ミドリハダカザル、色々とあるようだ。

 大まかな分類としては人型の生物とされるが、知能は基本的には低く、道具の扱いは原始的なレベル、魔法の扱いも苦手としている。

 が、一部例外個体も居るので、油断はできない。

 性格は基本的に冷酷で残忍、臆病で利己的、つまり自分より弱い敵を甚振る事を好む性質があるようだ。

 が、こちらについても当然例外がある。

 どうやら先日のドラゴン焼きの店主は色んな意味で例外の存在のようだ。


「えーと、闘士とそれ以外を分ける点か……明言はされていないみたいだな。でも、前に『煉獄闘技場』の主が言っていた事は関係がありそうだ」

「『強者が弱者を虐げる事は許さない』、でしたっけ」

「そうそう」

 では、何処を基準として闘士とモンスターに分けられるのだろうか?

 明確な基準はない。

 と言うか、俺たち闘士視点からは窺えないようになっている。

 だが、以前に『煉獄闘技場』の主が言っていた『強者が弱者を虐げる事は許さない』と言うルールの影響は大きそうだ。

 もしかしたらだが、勝敗が決まった後に甚振るような振る舞いをする者は、どれほど高い知性を有していても、『煉獄闘技場』の主にとっては人間ではなくモンスターでしかない、と言う事なのかもしれない。


「ふうむ……」

 さて、基準についてはこれぐらいにしておいて、今はゴブリン対策についてだ。

 ただまあ……。


「やっぱり細かい部分は出た所勝負になりそうだなぁ」

「そうですね。相手がどんな武器を使ってくるかも分からない。どれほどの知性を持っているかも分からない。どんな魔法を使えるかも分からない。どんな連携をしてくるのかも分からない。相手の人数以外には分からない事だらけですものね」

「ああ。まあ、知性が低ければ押し一辺倒になりそうな気はするけど、それだって確定ではないからな。数を減らす事を優先しつつも、相手の出方を見て対処するしかないか」

「そうなるかもしれませんね」

 楽に勝てる可能性はそんなに高くなさそうだ。

 そんな事を考えている間に、俺たちはコロシアムへと転送された。

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