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82:イテバレ-4

「ど、どうでしょうか? ハリさん、サミ様」

 サミさんの渡した衣装に着替えたノノさんが戻ってくる。


「「……」」

「あの……」

 その衣装に近いものを生前の知識の範囲内で語るならば、ディアンドルになるだろうか。

 青を主体とした色合いに、植物をイメージしたであろう刺繍が、銀色の髪に紫色の目を持つノノさんにとても良く似合っている。

 しっかりとした作りのブーツ、一見すると無地に見えるスカーフ、首から提げられている金色の飾りについても同様。

 元々の持ち物である杖と指輪との調和も良く取れている。

 なお、スカートの丈については踝までしっかりと隠れる長いものであり、胸元も開いたりはしない、貞淑なものである。


「えーと……」

 此処で俺とサミさんは一瞬だけ視線を交わす。

 やはりほぼ初対面であり、深いやり取りは出来ない。

 だが最低限は伝わった。


『サミさん。最高のお仕事ですね。今後もお世話になります』

『ハリはん。是非とも今後とも頼むで。ウチはこのために生きているんやから』


 うん、間違いなく、今後もノノさんの防具については、此処『イテバレ』で購入しよう。

 最低でもデザインについては此処を頼るべきだ。

 では、サミさんとのやり取りはこれぐらいにしておいてだ。


「コホン。ノノさん」

「は、はい。どこかおかしいでしょうか?」

「いや、そんな事は無い。とてもよく似合っている。思わず見惚れて、声が出なくなってしまっただけだから」

「本当ですか!?」

「本当だとも。うん、凄く可愛い」

「ありがとうございます! ハリさん!」

 俺は素直にノノさんを褒めた。

 当然だ。

 万人が認める事実として、今のノノさんはとても可愛らしい。

 高原に咲く一輪の花のような可愛らしさを持ち、存分に周囲へとばらまいている。

 これを褒めず、愛でず、讃えずにいられようか? いや、いられない!


「ふふふ、気に入ってもらえたようで何よりや」

「はい、とても気に入りました。大切にさせてもらいますね。サミ様」

「せやな。大切に、けれど箪笥の奥底にしまうんやなくて、きっちり活躍させてあげてーな。その方が服として嬉しいのはウチが保証したる」

 サミさんもとても喜んでいる。

 それはまあそうだろう。

 ほぼ間違いなく、彼女はノノさんのような可愛らしい女性のために衣装を作る事を生きがいとしている。

 その生きがいが満たされている状態で嬉しくないなんてことは、あり得ないだろう。


「さて、手直しは……必要なさそうやね。流石はウチや」

「そうですね。サイズはぴったりですし、なんだか安心感もあります」

「色々と魔法による強化も積んどるからねぇ。下手な金属鎧よりも丈夫やで」

「そうなんですか!?」

 それにしても、これまでの言動、それに財布としか思っていなかったPSSにメッセージを残す力、サミ・タチバと言う名前……もしかしなくても彼女が鋏の付喪神かなにかだろうか?

 うんまあ、仮に付喪神でも問題はないか。

 性格面に問題はなく、『煉獄闘技場』の基準から考えれば、自由に動くためのボディさえ用意できれば、付喪神もまた人間扱いになるのだろうし。


「あ、サミさん。今後の為にこちらのお店に連絡するためのアドレスを聞いてもいいですか?」

「勿論や。喜んで教えるでー」

 とりあえず『イテバレ』のアドレスは入手。

 PSSに保存しておき、今後新しいノノさんの衣装を手にしたい時は、事前連絡をした上で訪れる事が可能になった。

 後は……そうだな。


「それと、一応ですが、ノノさんの服にかかっている力について聞かせてください。ノノさんのパートナーとして、知っておくべき事なので」

「ん、勿論や」

「パートナー……えへへ……」

 俺はサミさんにノノさんの服の能力について尋ねる事にした。

 で、その説明をまとめるのであればだ。


 名称はハイシープディアンドルセット。

 使っている生地や繊維はとある世界に生息する羊の魔物のものであり、対物理耐性に優れると共に、周囲の気温の変化に対しても強いらしい。

 具体的な防御力としては、俺が全力で強化魔法を使ったのより少し弱いくらいだろうか。

 強化魔法無し、ただ身に着けるだけで、それだけの防御力が得られるのだから、とても優秀な防具と言える事だろう。

 と言うか、俺が今身に着けている金属製の防具よりもたぶん頑丈だし、布地の無い顔面などにも防御効果が及ぶとの事なので、明らかに格上だ。

 また、欠点らしい欠点は特になし。

 強いて言うならば、攻撃面での強化は無い事かもしれないが、この今の俺たちには分不相応ではないかと思ってしまうような防御力に攻撃強化まで乗せるのは、いくら何でも高望みと言うものだろう。


「と、せや。ノノはんだけに贈るのもアレやから。ハリはんにはこれを贈っておくわ」

「と、いいんですか?」

「ええでええで。代わりに今後もよろしゅうな」

「ええ、それは勿論です」

 と、ここで俺はサミさんから一枚のフード付きのマントを貰う。

 こちらもノノさんのものと同じ素材で出来ており、身に着けるだけで僅かではあるが全身に守りの効果があるようだ。

 ちなみに黒っぽい色で、基本的に無地のマントだが、一目見て上質だと分かるものであり、よく見ればノノさんの服にあるものに似た刺繍が施されている。

 こんな物を受け取ったなら……無様な姿は今後見せられない事だろう。


「良かったですね。ハリさん」

「ああそうだな」

 そして早速着用。

 うん、適度な重さとしなやかさで、背後からくる攻撃に対してとても効果的だろう。


「今日はありがとうございました。サミさん」

「ありがとうございました。サミ様。この服、大切にしますね」

「こっちこそありがとうな。ノノはん、ハリはん。二人の活躍を祈っとるで」

 そうして全員が満足する中で、俺とノノさんは『イテバレ』を後にした。

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