<< 前へ次へ >>  更新
81/132

81:イテバレ-3

「休養権。そんなものがあったんか。知らんかったわ」

「そ、そうなんですか」

 さて、その後ノノさんが自分のPSSを見せながらサミさんに説明する事になったのだが……まあ、色々と欠けていた。

 休養権は勿論の事、PSSは財布としか思っていなかったし、食べ物アップグレードについても自分で調べて分かった事であったらしい。

 流石に魔法行使権は知っていたが……いや、これ、いくら何でも酷くないか?


「あのサミさん、俺たちは闘士になって一か月ほどの若輩者ですが、この件については闘士になった直後に先輩の闘士の方のアドバイスで、最初に取得しました。そして、その方の話だと、新人闘士にはアドバイス役の闘士がほぼ確実につくようでした。サミさんの場合はどうだったんですか?」

「んー……確かに最初の決闘を終えた直後にアドバイザーゆう人がやってきたなぁ。けど、アイツはゴチャゴチャとまくし立てて、まるで役に立たなかったで。あまりにもウザかったから、何とか生きてた頃の力を使えるようにならんかと自分で魔法行使権を得た直後に首をちょん切ってしもたぐらいやし」

「そ、そうですか……」

「そんな事が……」

 なるほど、事情は分かった。

 どうやらサミさんのアドバイザーとしてやってきた人物は、アドバイザーとして不適格であったか、サミさんとの相性が絶望的に悪かったようだ。

 しかし、魔法行使権を得た直後、新人も新人だった頃に、恐らくは不意打ちだったのだろうけど先輩闘士を殺しているとは……やはりサミさんはかなりの実力者と見てよさそうな気がするな。


「しかし、みんな休みなく決闘しているものかと思っていたんやけど、違ったんやなぁ……まあ、損したわけやないから、別にええか」

「あはは……そうですね」

「そ、そうかもしれませんね」

 そして、その実力者が何年も実戦で戦い続け……店を持てるほどに勝ちを重ねている。

 控え目に見てもとんでもない事では?


「うーん、ちょっと待っててもらってもええか? ぴーえすえす、て言うのは無くてもええんやけど、休養権については今取ってきてまうわ」

「今取って?」

「此処から神殿までは結構あると思うのですけど……」

「ん? ああ、いちいち神殿に行くのは面倒やから、ウチのお店の中に神殿の交換所を設置してあるんや。便利やで。お客さんの身体に合わせたリサイズとかも簡単に出来るしなぁ」

「「……」」

 訂正、控え目に見なくてもとんでも無かった。

 便利な施設と言う事で、以前ちょっと検索してみたが、自宅に置ける神殿と言うのは、かなりの量の機能制限をかけてもなお、馬鹿みたいなポイントを要求されたはずである。

 それがお店の中にあるとは……うん、サミさんのとんでもなさがよく分かる。


「取ってきたわ。ありがとうな。ノノはん、ハリはん。おかげでこれまでよりも服作りに専念できそうや」

「それは良かったです」

「だな」

 まあ、サミさんのとんでもなさについては、深く考えないでおこう。

 後、ついでに購入してきたのか、サミさんが腰に提げている剣が変わっている事についてもだ。


「さて、そんな良い事を教えてくれた二人には、お礼をせなアカンな」

「え、そんな。私たちはお礼を言われるような事を……」

「してるから安心せえ。実際、大変やったんや。どんなに長くても三日に一度は決闘で精神を限界まで追い詰めるような戦いをしていたからなぁ。いやぁ、ウチは布を切るための鋏やのに……と、これはアレやな」

「は、はあ……」

 さて、サミさんは俺たちにお礼をしたいらしい。

 俺についてはほぼ横で見ていたぐらいだから貰うのは微妙だが、ノノさんは何かを貰ってもいいと思う。

 が、ノノさんはこの程度ではと遠慮するつもりの顔をしている。

 ただ、サミさんの表情はなんとしてでも渡すと言うと言う顔をしているし……。


「ノノさん、此処は素直に受け取ってあげた方がいい。サミさんは本当に感謝しているようだから」

「そうなんですか?」

「そうそう」

「せやせや」

 と言う訳で、俺はノノさんに受け取る事を促し、同時にサミさんとアイコンタクトをする。

 流石に今出会ったばかりなので、深いやり取りは出来ない。

 出来ないが、それでも通じる事はあった。


『こんな感じでどうでしょうか? あ、性能はそれなりで構いませんから、ノノさんに似合う衣装一式をお願い出来ますか? とてもよく似合うと思うんですよ』

『良いアシストや。あ、その求めは喜んで受けさせてもらうで。これほどに可愛らしい少女の為なら、全力までは出さないけれど、相応の品は喜んで出させてもらうわ』


 と言う感じである。

 なお、最高品でないのは、そこまでの事をしていない自覚はあるし、サミさんもこちらに無暗に圧をかけるのは望んでいないと考えての事である。


「それじゃあ、よろしくお願いします。サミ様」

 そしてノノさんが頷き、俺とサミさんはノノさんが見えない場所でガッツポーズをする。


「? どうしたんですか? ハリさん、サミ様」

「ん? 何もないと思うが?」

「何もあらへんよー」

 サミさんが少しの間ノノさんを見つめてから、店の中を少し歩いて回る。

 で、幾らかの時間ゴソゴソとした後、暫く経った後にこちらの方へと歩いてくる。

 その手には、靴と帽子も含めた上下一式の衣装が乗っている。

 アレの価格は……うん、確か200ポイントはしたはず。


「うん、これなら似合いそうや。サイズ合わせもあるし、ちょっと着てみてーな。ノノはん」

「これは……はいっ! 喜んで着させてもらいますね」

 と言う訳でノノさんは更衣室に向かった。


「「……」」

 その隙に俺は無言でサミさんに支払い状態のPSSを渡し、サミさんは俺のPSSから20ポイントだけ受け取った。

 で、俺の手元に戻ったPSSにはこんなメッセージが。


『今後とも御贔屓に。5割引きまでは次回以降も検討するで』


 無言で握手を交わしたのは言うまでもない。

<< 前へ次へ >>目次  更新