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8:部屋の外へ-2

「なんと言いますか……凄いですね。オニオンさん」

「まあ、とんでもないのは確かだな。俺はここで50年間闘士として生活しているが、未だに訳の分からんと言うか、どう表現すればいいのかも分からない人間には遭遇するからな」

 フリーズ状態から復帰した俺はオニオンさんの先導で目的地とやらに移動していく。

 そんな俺たちの横を紐のような体の人間が通り過ぎていく。


「さて、道すがら説明するべき事は説明していくぞ」

「はい」

「俺たちが今向かっているのは神殿と言う施設だ。神殿では、自分が手に入れたポイントを様々な物品や権利に変える事が出来る」

「物品や権利?」

「そうだ。俺やそこら辺を歩いている連中を見れば分かるが、ハリとは身に着けているものがまるで別物だろう? ああ言う武器や防具の入手、それ以外にもまあ、神殿では色々と手に入る。此処でどういう生活を送るにせよ、神殿の世話にならない道は無いと断言してもいいぞ」

「なるほど」

 オニオンさんの言う通り、道行く人の服装と言うか装備品は俺とはかなり異なる。

 今の俺が身に着けているのが、麻布の貫頭衣に紐のサンダル、ナイフと言う、人によってはみすぼらしさも感じるものであるのに対して、オニオンさんは上半身こそ裸だが、虎柄のズボンは見るからに質が良いものである。

 他の人たちも全身金属鎧であったり、絹っぽい生地のローブであったり、サイバーな感じのする全身スーツであったり、古式ゆかしいメイド服であったりと、質も種類も実に多様なものである。

 オニオンさんの言う通りなら、そう言う衣服や、今は殆ど見かけないが武器の類も神殿と言う場所では手に入るらしい。

 いや、エルフや妖精のようなファンタジーな種族が居るのなら魔法も手に入るかもしれないし、アンドロイドのような種族が居るのならSF技術の粋のような何かが手に入る可能性もあるのかもしれない。

 他にも色々と手に入るようだし、それは確かに重要な施設になりそうだ。


「ま、詳しい事は向こうについてからだな。次に説明するべきは……此処の基本的な構造か」

「基本的な構造?」

「ああそうだ。あらゆる世界から死者が集まるから、この世界にはとんでもない数の人間が居る。昔、酒の肴に聞いた話だと……数万の数万の数万だとか確実に居るらしい」

「数万の……ん?」

 それはもしかして数万の三乗と言う事だろうか?

 そうなると……まさか、京の単位の人間が居ると言う事だろうか?

 ああいや、計算がおかしいか?

 とにかく、もはや想像が及ばない数字なので、とんでもない数の人間が居るとだけ思っておこう。


「当然そんな数の人間を一か所にだけ収めるのは無理がある。と言う訳で、闘技場と神殿の二つを中心とする形で、この世界は相応の数の地域に分けられている」

「な、なるほど」

 きっと、その地域とやらも、数万どころではない数に分けられているのだろう。

 なんとなくだが、そんな気がする。


「そして、その一つ一つの地域だが、基本的な構造はどこの地域でも同じだ」

 そう言うと、オニオンさんは手で二つの丸を作る。

 で、そこからのオニオンさんの説明をまとめるとこういう事になるらしい。


・闘技場と神殿の間には、主通り、と呼ばれるその地域で一番太い道がある。

・闘技場、神殿、主通りからは、大通り、と呼ばれる少し細くなった道があらゆる方向に伸びている。

・大通り同士の間には、中通り、と呼ばれる更に細くなった道が梁のように伸ばされている。

・中通りからは、小通り、と呼ばれる道が網の目のように張り巡らされていて、今俺たちが居るのが此処らしい。

・また、小通りからは、糸通り、何て呼ばれる、俺の部屋から出た直後のような本当に細い道が細かく伸びているそうだ。


 でまあ、これが全て平面上で解決するのなら、まだ分かり易いのだが……。


「ちなみにだ。あそこで見えている通路で分かるように、ものが落ちる方向とやらを弄っているらしくてな。あらゆる方向ってのは、本当にあらゆる方向だ」

「迷子になりそうだ……」

「その辺の対策も含めて神殿には一度行くべきだと俺からは言っておく」

 どうやら重力を平然と操れるだけの技術があるらしく、オニオンさんが指さした先では上下逆さまになった人が普通に歩いているし、平地が続く感覚で前後左右上下に向かって道は伸びているし、建物も建てられている。

 オニオンさんが否定しなかったことからも分かるが、対策なしでは普通に迷子になってしまうようだ。

 とりあえず俺にはもう自分の部屋に戻るための道が分からない。


「なんにせよ、そんな構造になってはいるからな。広い道路に向かうように動いていけば、とりあえず神殿か闘技場、そのどちらかにはたどり着けるはずだ。これは覚えておいて損はない」

「分かりました」

 さて、そんな会話をしている間に、俺たちは小通りから中通りに、中通りから大通りへと移動していく。

 そして俺たちが出た大通りは神殿から伸びているものであったらしく、遠目に見ても大きく、立派で、周囲の建物と一切通路が繋がっていない、巨大な建造物が視界に入った。


「彼岸花に龍のモチーフの紋章が見えるな。アレが神殿の紋章だ。こっちも覚えておくと便利だな」

 その建物の壁には、六枚の花弁を持つ立派な彼岸花と、その内側で輪を描く東洋龍に似た生物が描かれている。

 此処は死後の世界であるし、もしかしてあの紋章の生物がそのまま『煉獄闘技場』と言う世界を作った神様だったりするのだろうか?

 だとしたら……とんでもない力を持っている神様と言う事になりそうな気がする。


「さ、行くぞハリ。目的地はもう直ぐそこだ」

「はい、分かりました」

 そんな神様が作り上げた、そして祀られているのかもしれない神殿。

 いったい中はどうなっているのだろうか?

 俺はそんなことを思いつつ、オニオンさんの後を付いて行き……。


「お、オニオンさん!?」

「あ? あー……よし、中で合流だ! お前の居場所はこっちで分かるから、とりあえず個室に入って、じっとしておけ!」

「わ、分かりましたああぁぁ……」

 神殿の入り口近くで、同じ顔をした女性たちで構成されている数十人規模の集団に流されて、オニオンさんとはぐれながら神殿の中へと入る事になってしまった。

09/04文章改稿

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