79:イテバレ-1
「こうして見ると、これまでの自分が如何に見えていなかったのかがよく分かるな……」
「本当ですね。ハリさん」
新たな決闘の形式が解放されると共に、観察能力と反応能力の底上げを図った翌日。
俺とノノさんの訓練はちょっとした変化を見せる事になった。
「でも、とても綺麗だとも思います」
「まあ、そうだな。混沌としているのに、調和がとれている。これを一言で述べるなら、やっぱり綺麗になりそうだ」
具体的には体力つくりと連携の強化を兼ねて、俺がノノさんを背負った状態で走り回ると言う事はこれまでにもやっていたのだが、そのルートが決まったものではなく、これまでに行った事がないルートを優先して走るようになった。
その結果として見えたのは……まあ、色々なものだ。
まず、各個人の魔力の違いと言うのが見えるようになった。
『煉獄闘技場』の仕様もあってか、本当に微かな差ではあるのだが、違いが確かに見えるようになったのだ。
今横を通り過ぎたドワーフっぽい人は火属性であるらしく、熱と炎を思わせるような魔力を纏っていると感じた。
俺たちを後ろから追い抜いて行った半魚人は水属性であるらしく、湿り気と清涼感を併せ持つような魔力を纏っていた。
遠くの方には特に属性は感じないが、とにかく強大だと感じるような魔力があった。
他にも一人一人僅かずつにだが魔力の性質が異なり、異なる性質の魔力が触れ合う事で微かな歪みが生じ、けれど絶対的な存在である『煉獄闘技場』の主の力によって歪みは即座に是正され、混沌にして調和の華とでも言うべき美しくも圧倒的な力量差を思わせる綺麗な光景が見えるようになったのだ。
他にも、これまでは見えなかったであろう細さの魔力の糸が見えるようになったり、衣服や建物に込められている魔力やギミックの類が何となく感じ取れたりと、観察能力の底上げは既に十分すぎるほどに効果を上げていた。
「おっと」
「キャッ!?」
と、ここで不意に糸通りの方から火の玉が飛んできたので、強化魔法をかけた棍で叩き落とす。
火の玉が飛び散り、ノノさんが驚きの声を上げ、周囲の人々はこちらを一瞥した後、糸通りの方を見る。
「す、すみません! 誤射しました!」
「次からは気を付けてくれよ」
「は、はい!!」
糸通りから現れたのは、『煉獄闘技場』に来たばかりの俺たちと似たような服装の青年。
どうやら新人闘士のようだ。
そして、その後ろにはオニオンさんほどではないが、俺たちよりは強そうな闘士が現れ、こちらに頭を下げている。
うん、本当にただの誤射であったらしい。
早速、ベテランが新人に指導をしている、怒るような形ではなく諭す形でだが。
「ノノさん、大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です。驚きましたけど」
俺はノノさんの状態を確認した上で、再び走り始める。
「それにしても今のハリさん、凄かったですね。あの火球はかなりの速さだったのに、普通に反応できてました」
「ああその事か。たぶん、反応能力の底上げが効いているんだろうな。不意ではあったけど、普通に間に合うと感じた」
今の火の玉に反応できた理由は言わずもがな。
反応能力の底上げをしたからだ。
たぶんだが、今の俺なら生前の世界の一般的な銃くらいなら、引き金を引かれたのを認識してから動く事も可能だろう。
まあ、認識出来るだけで、実際に行動が間に合うかはまた別の話になるだろうけど。
「なるほど。でも、私も同じだけ強化をしているはずなんですけど、間に合う感じがしなかったんですよね。これは……」
「うーん、そこは基礎能力の差、なんだろうな。たぶんだけど、観察能力についてはノノさんの方が優れているんじゃないか? さっきから時々俺が気にしていないものも気づいているように見えるし」
「うーん、そうかもしれませんね。オニオン様も前にそのような事を言っていた気がしますし」
「そうそう」
それにしてもノノさんは今の攻撃への反応は間に合わないと感じていたのか。
ふうむ、その内今みたいなのが攻撃として飛んでくる事も考えたら、やっぱり何処かで不意打ち全般に自動かつ確実に対処できるような何かは欲しいかもしれない。
「おっと、此処は……」
「軽食のお店が並んでいますね。凄くいい匂いがします」
「だな。何か買っていくか? ノノさん」
「はい、そうしましょう。ハリさん」
と、ここで俺たちは色んな軽食屋が軒を連ねている通りに出た。
どうやら、以前に見かけた服屋が集まっているエリアと同じで、軽食を食べたい人のために敢えて一か所に集まっているようだ。
売られているものは……サンドイッチ、おにぎり、焼き鳥、フライドポテト、ハンバーガー、プロテインドリンク、何かの豆、たい焼き、ドラゴン焼き、虫の佃煮、タピオカ……いや違う、何かの卵入りジュースだ、これ。
うん、アレだ、ちゃんと商品説明を見ないと、見た目がそっくりなだけの全くの別物だったりするぞ、これ。
フライドポテトだってカットの形状ごとに何件も店が連なっているのだと思っていたが、よく見てみたら、俺の知っているフライドポテト、紫色の芋を揚げたもの、手足が生えて跳ねまわる芋を揚げたもの、怪しげな機械からビームが出て容器入りのフライドポテトが形成されるもの、何でもありだ、これ。
「あ、ドラゴン焼き美味いな。中身の餡の正体が肉っぽいとしか分からないけど」
「本当ですね。とても美味しいです。中身は……蜥蜴のお肉っぽい気はします」
そんなわけで、結局俺たちは所謂
肉汁たっぷりで、見た目こそたい焼きの亜種だが、中身は肉まんっぽい商品は中々の美味しさだった。
また、飲み物として炭酸系っぽい飲料を飲み、こちらは俺を懐かしさを感じ、ノノさんは未知の体験だったのか、とても驚いているようだった。
とりあえず、この軽食屋が連なる通りの事はしっかりと記憶しておこう。
小腹が空いた時に重宝しそうだ。
「さて、それじゃあ訓練再開だな」
「はい、分かりました」
そうして少し腹を満たしたい俺たちは再び走り出し……。
「ん? このお店は……」
「ハリさん?」
一件の服屋に目が留まった。