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69:怠惰堕落-4

「すうぅ……」

 俺を取り囲むように襲い掛かってくる合計九の死体。

 それらは統制が取れているらしく、等間隔かつ同時に俺へと攻撃が当たるように襲い掛かってきている。

 さて、これにどう対応するべきか?

 そんなものは決まっている。


「せいっ!」

「「「!?」」」

 自分から突っ込んでいく。

 走りながら棍を振り下ろし、ヒロウクモの死体を地面に押し付け、そのまま駆け抜ける。

 後ろで棘球体たちがぶつかり合う音がするが、俺はそちらに目をやりつつ横に跳ぶ。


「「ファティ!?」」

 直後、俺が居た場所を二体のヒロウクモの死体が通り抜け、更にもう一歩跳んだところで、先ほど地面に叩きつけたヒロウクモの死体が飛び掛かって通り抜ける。

 で、普通ならばここで方向転換してヒロウクモの死体に攻撃を仕掛けるところだが、俺はさらに駆けていく。

 すると、ヒロウクモの死体たちと同じように棘球体たちが飛び込んでくるが……。


「っ、と、やっぱり……そう軽くはないな!」

 俺が居た場所だけでなく、俺の進路上にも飛んできている。

 だから俺は盾と棍で棘球体を凌ぎつつ、駆ける。

 ヒロウクモの死体たちも既に次の攻撃に移り始めている。


「「「ファティイィ!!」」」

「と、せい、ぐっ、ふんっ!」

 駆ける、駆ける、駆ける。

 同時ではなく継続的に襲い掛かってくるヒロウクモの死体と棘球体を躱し、避け、弾き、逸らし、多少の擦り傷は負いつつも自然回復で治し、ひたすらに移動を続けて、攻撃を凌ぎ続ける。

 理由は単純明快。

 一対多数の基本は囲まれないようにする、二方向から同時に攻撃されないようにするだからだ。


「「!!」」

「舐めるな!」

 だから、棍を振り下ろして棘球体を叩き落す。

 盾で殴って棘球体を弾く。

 突きでヒロウクモの死体を吹き飛ばす。

 蹴りで棘球体を空中に跳ね上げる。

 それでも二方向から同時に襲われたならば……タイミングを合わせ、棍の両端で同時に相手を打てるようにして怯ませる。

 棍で敵を叩きつつ地面を突いて飛び上がり、棍を投げて着地狩りを先に潰し、着地と同時に転がって棍を回収する。


「すぅ、はぁっ、すっ、ぜいっ、ふんぬっ!」

 生前の俺では絶対に出来ない動きだ。

 けれど、『煉獄闘技場』に来てから鍛え、反射能力も底上げしている今の俺ならば可能な動きである。

 だから俺は駆け続ける。

 そして、俺がこうして時間を稼いだのであればだ。


「魔よ、水となり、矢となり、鋭く飛んで射貫け! 『水矢(アクアボルト)』!」

「!?」

 ノノさんの魔法の準備が整い、水の矢が飛び、ヒロウクモの死体を破壊する事が出来る。

 それも一本飛ばすだけではない。


「「ファティ!?」」

「ハリさん!」

「助かった!」

 二本三本と同時に水の矢が飛び、棘に隠された中身を射貫かれた棘球体たちも動きを鈍らせる。


「そらよっと!」

「「!?」」

 折角なので更に追撃。

 動きを止めた棘球体を棍でフルスイングし、ヒロウクモの死体にぶつけ、粉砕する。

 ノノさんも攻撃を次々に仕掛けていき、死体を仕留めていく。


「ふぅ……ノノさん! 大丈夫か!?」

「大丈夫です! 魔力は直ぐに回復できます!」

 こうして全ての死体の始末は完了した。

 俺を始末してからノノさんをいたぶろうと言う堕落の邪神の嗜好もあっての事だろうが、終始攻撃の狙いが俺だったおかげで、だいぶ楽だったな。

 で、未だに巣の下に隠れているヒロウクモ・怠惰堕落はそれでも自分が動くよりは死体を動かして楽をしたいらしく、バラバラになった死体がピクピクと動いているが、その内諦めたのか、動きを止めていく。

 俺はその間に自分とノノさんの状態をチェック。

 俺については、自然回復が仕事をしてくれたのか、全身完全に傷なし。

 装備についても問題なし。

 多少の体力消耗と呼吸の乱れはあるが、それぐらいだ。

 ノノさんは流石に魔法を使い過ぎたのか、杖を支えにしているが、以前購入した魔力回復薬も使用して、魔力の回復を急いでいる。

 傷は当然ながらなし。


「さて、次は本体だな」

「そうですね。でも、どうしましょうか?」

「……」

 俺は改めて棍を構える。

 回復を終えたノノさんも杖を構える。

 ヒロウクモは大量の糸の下でじっとしている。

 ヒロウクモを倒すためには、この大量の糸をどうにかする必要があるが、ヒロウクモの糸は最初に確認した通りに魔力による攻撃を吸収する性質がある。

 また、物理攻撃や斬撃を伴う魔法を用いても、糸に粘着性があるために、そう易々と切ることは出来ないだろう。


「れ……っ!?」

 とは言え、それは想定通り。

 だから、事前に準備したアレを使おうと提案したところで気づく。


「ハリさん!?」

「……」

「ちっ……糸か……」

 いつの間にか大量の糸が俺の身体に絡まっている。

 一本一本はよほど注意しなければ見えないほどに細い糸だが、それが何十……いや、何百と絡みつく事によって、俺の動きを止めていた。

 この量……なるほど、ヒロウクモの死体たちと戦っている間に、巻き付けられていたか。


「ファファファ……」

 ヒロウクモが笑っているように思える。

 馬鹿な獲物が巣にかかったと喜んでいる。

 ああなるほど、確かにそうだ。

 俺は身動きが取れないし、糸の性質上、少しずつ魔力も体力も吸われている。

 一般的には詰んでいる状態だろう。


「ま、想定内だが。ノノさん! 例のアレを!」

「分かり……ました!」

 が、今回の俺たちには事前対策をする時間があった。

 事前資料もあって、相手が蜘蛛である以上は糸を使ってくる事は容易に想像できた。

 蜘蛛の糸が厄介であるなど当然の事。

 故にノノさんは例のアレを……ヒロウクモの糸対策として準備したものを投げ、投げられたそれは空中でノノさんの魔法によって撃ち抜かれて中身をばらまいた。


「?」

「さ、覚悟しろよ。生前に対策するのも面倒くさがったせいで狩られたグータラ蜘蛛さんよ」

 ばらまかれたそれは光を受けて、独特の反射をする。

 俺、ヒロウクモ、地面に触れたそれは独特のぬめりを持っている。

 それは、独特の臭気を伴っている。


「それなり以上に熱く、それ以上に痛いからな!」

「!?」

 それは……神殿で入手してきた特製の油は、俺、周囲の地面、そしてヒロウクモを巻き込むように、一気に燃え上がった。

作者は本日2回目のワクチン接種になります。

その為、明日以降の感想返信が滞る可能性があります。

予めご了承ください。

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