68:怠惰堕落-3
「!」
「よっ、ほいっ、せいっ!」
蜥蜴の死体が爪を振るい、突進し、噛みつき、尻尾を振るって、俺の事を攻撃しようとする。
俺はその悉くを避けるか、受け流すか、防ぐかしつつ、反撃を加えていく。
が、狼の死体や人間の死体と比べてかなり堅く、そこまで効いている感じはしない。
「魔よ、水となり、刃となり、回りつつ矢のように飛べ。『
「!?」
と、ここでノノさんの『水刃』が発動し、三日月形の水の刃が蜥蜴の死体の胴体に直撃する。
「……」
「撥水性がある感じか? 効果はありそうだけど」
が、やはり蜥蜴の死体の耐久性は他の死体よりも高いらしく、死体に深い切れ込みこそ入ったが、戦闘不能になるほどの傷は負っていないようだ。
たぶんだが、同じ場所にもう一発撃ち込むぐらいは必要になるだろう。
「ん?」
しかし、ノノさんの攻撃を受けた事で、蜥蜴の死体は僅かな時間ではあるが動きが止まっている。
ならばその間にと、俺は周囲の状況を確認。
ノノさんは事前の仕込みもあってか、まだまだ問題なし。
ヒロウクモの動きは相変わらずなし。
懸念していた巣を張り巡らせるような行為もたぶんしていない。
他の死体が動き出す様子もない。
昆虫の死体は……なんかプルプルと震えている?
「!」
「ヤ……」
「ハリさん!?」
何か来る、俺がそう思った瞬間だった。
昆虫の死体が黄土色と緑色を合わせたような色合いのガスを噴出しながら、こっちに向かって矢のような速さで飛んでくる。
しかも、その軌道はきっちり俺の背後にノノさんを捉える形で、俺には受け止める以外の選択肢がない。
なので、俺は咄嗟に盾を構え、棍を支えにし、全力で強化魔法を行い、渾身の受け止める姿勢を取った。
「!!」
「ぐうっ!?」
昆虫の死体と俺の盾が正面衝突する。
左腕の骨にヒビが入るのが分かる。
俺の周囲にガスが立ち込め、蜥蜴の死体はガスに触れないように逃げていく。
ガスは極めて臭く、何かしらの毒性を持っていると言うのも、何となくだが感じた。
「悪いな。俺にデバフは効かない」
「!?」
が、その作用の大半は魔力によるもの。
故に俺は自分の魔力の性質によって昆虫の死体のガスを弱め、右手を棍から離し、魔力を右手に集めていく。
そして、衝突の反動で空中にまだ居る昆虫の死体に向かって手を伸ばし……。
「そして厄介なんでな。無理やりにでも始末させてもらう」
「!?」
昆虫の死体の腹に手を突っ込んで、魔力を流し込む。
するとヒロウクモの糸の性質もあってか大量の魔力がいとも容易く昆虫の死体の中に流れ込み、ある程度流れ込んだところで俺は自身の魔力の性質を開放。
敵対者の吸収に対する逆浸食によって、詳しい原理は不明だが、昆虫の死体は全身が内側から切り刻まれるような形で以ってバラバラに崩れ落ちる。
これで昆虫の死体は確実に始末しただろう。
「!」
「おっと」
と、此処で再び蜥蜴の死体が来る。
いつの間にかガスも晴れている。
俺はそれを後ろに飛んで避けようとするが、魔力不足か飛ぶ距離が少し足りない。
「魔よ、水となり、球となり、矢のように飛べ。『
「!?」
「ナイスだノノさん」
だが、俺に噛みつく前にノノさんの『水球』が蜥蜴の死体に直撃。
『水刃』で付けた切れ込みから蜥蜴の死体の内側に入り込んだ『水球』は、蜥蜴の死体の中で暴れ回り、その身体を爆散させる。
うん、これで蜥蜴の死体も終わりだ。
「ハリさん! 魔力の方は大丈夫ですか!?」
「少し時間が欲しいな。でも最低限は出来るから安心してくれ」
「分かりました」
後方のノノさんから声が飛んでくる。
先程俺が使った魔力の解放は、魔力吸収能力を持つ相手に俺の魔力をワザと吸わせた上で、俺の魔法の性質を開放してダメージにすると言うものだが、俺の修練不足もあって、色々と問題が多い代物でもある。
で、特に問題なのが魔力の消費量なわけだが……まあ、まだ大丈夫だ。
ちゃんと強化魔法の分は残せているし、時間をかければ、今回の試合限定で15ポイント分の自然回復も入れているので、回復は進む。
現に先程蜥蜴の死体から受けた擦り傷は既に治っているぐらいだ。
「ファファファ……」
「さて次は蜘蛛と棘だらけの球体か?」
さて、俺たちのやり取りの間にヒロウクモも動いている。
体に付いている、普通のヒロウクモの死体と、棘だらけの球体が落とされて動き始める。
「げ……」
「これは……」
ただし、その数はこれまで違った。
ヒロウクモの死体は三体、棘だらけの球体は六個もあった。
どうやら、糸の下に幾つかの死体を隠していたらしい。
それとよく見れば、ヒロウクモの死体から棘だらけの球体に向けて糸が伸びているように見えるので、ヒロウクモの死体も死体を操るように糸が使えると言う事だろうか?
いや、そもそもとして、あの棘だらけの球体は生物なのか?
あ、うん、生物だ、よく見たら、棘の間に目玉や口のようなものが見える。
たぶんだが、ウニとか栗とかの近縁種なんだろう。
そして、この思考はそろそろ打ち切らないと拙い。
なにせだ。
「「「ファティィ!!」」」
「ま、やっぱり同時だよな」
「ハリさん! 何とか耐えてください!」
ヒロウクモの死体たちと棘だらけの球体たちが俺に向かって同時に襲い掛かってきたからだ。