63:次の決闘の前に-2
「ヒロウクモ・
「ファティーグモ・
次の決闘相手の名前はヒロウクモ、あるいはファティーグモと言うらしい。
そして、ただのヒロウクモではなく、
ちなみにこのデータを持ってきてくれたオニオンさんだが、既にこの場を去っている。
「ノノさん」
「はい、ハリさんの思っている通り、私が居た世界の魔物だと思います」
さて、この名前で思い出すのは、しばらく前にオニオンさんが戦っていた
アレもノノさんが居た世界の魔物であり、しかも純粋なそれではなく、何か混ざっているような個体だった。
となれば、このヒロウクモも何かが混ざっていると考えていいだろう。
まあ、その考えが正しいかどうかは、この先のデータを見れば直ぐに分かるのだろうけど。
「さて姿は……なんだこれ?」
「えーと……?」
次に姿だが……複数枚の写真があるようだ。
一枚目の写真は、大量の白い糸が集まって雲のようになり、その雲のところどころに、まるで飾られるように乾燥した蜘蛛の死骸や、ミイラ化した他の生物の死骸がくっついている。
二枚目の写真は、目も含めて全身が真っ黒で巨大な、けれど少し傷ついている蜘蛛の写真だが、こちらにも飾りのように体のところどころに宝石がくっついている。
三枚目の写真は、二枚目の写真の蜘蛛が両断され、両断した当人の他、数人の人間が死骸を検分しているようなものだった。
まあ、流れは分かる。
一枚目が普段の姿、二枚目が蜘蛛のような大量の糸を取り払った後の姿、三枚目が討伐された後の姿、と言うところなのだろう。
「ノノさんの世界って写真はあるの?」
「いいえ、ないです。遠くの出来事や、過去の出来事を見るための魔法などはありますけど、これはそう言うのとは違うように思えます」
「なるほど。信者の目を借りた、とかかな」
「ハリさん?」
写真の出所もなんとなく分かった。
うん、出来なくはないはずだ。
だから、写真がある事は良い。
そして、こいつが次の決闘相手になるのも分かる。
忘れがちだが、『煉獄闘技場』は死後の世界であるのだし、死者が送り込まれてくるのなら、それは自然な事だ。
また、死後の世界にまで残るような呪いをかける存在の諦めがいいはずもない。
つまり、こいつはノノさんを狙って送り込まれた死者……刺客だと判断していい。
「能力まできちんと見た方がいいな。ノノさん、普通のヒロウクモがどういう生物なのか教えて貰っても?」
「あ、はい。分かりました」
なるほど、細かい事情までは分からないが、ノノさんを支援する側としては負けられない決闘だ。
相手を調子に乗らせる意味などないのだから。
「ファティーグモは粘着性のある糸を様々な用途に使う蜘蛛なんです。具体的には、狩猟、織物、飾りつけ、本当に色々ですね」
「ふむふむ」
「ファティーグモの糸はとても絡まり易く、丈夫でもあります。魔物となったファティーグモの糸ともなれば、魔法無しでは絶対に切れないとされるほどです。また、きちんと処理すれば、非常に上質な糸になるそうです」
「なるほど」
「それで特徴……になるんですかね? ファティーグモには、狩った獲物の一部を自分の身体に張り付けて、力を誇示する特徴があるんです」
「それは興味深いな。そうなると、今回のヒロウクモはかなりの実力者になるのか」
ノノさんがヒロウクモについて説明してくれる中、俺はデータについても読み込んでいく。
と言うのも、通常のヒロウクモについての簡単な説明も載っていたからだ。
で、二つの説明を合わせて考えると、今回の決闘相手であるヒロウクモは通常個体よりも巨大で、その巨体によって人間を含む様々な動物を狩った、強力な個体になるのだろう。
「はい、その筈です。ただ……」
「ただ?」
「私の知る限り、ファティーグモは同族を襲わないはずなんです。けれど、この写真のファティーグモは同族の死体を飾り付けています。だからおかしいなって」
「偶々同族の死体に遭遇して飾り付けたとかは?」
「あり得ないです。自分で狩った獲物でないと、飾る価値がないと判断していると言う話を何処かで聞いた事がありますから」
「ふうむ……」
そして、それ以上に異常な個体でもあるようだ。
同族襲いか、同族の死体を飾ったか、どちらにせよ普通のヒロウクモではしない行動をしている。
……。
だからこその怠惰堕落か?
それと、炎精巨人と同じで、妙なものが加えられた結果でもあるのか?
まあ、続きを読めば……ああいや、そう言う事は書かれていないな。
しかし、重要で必要な情報は書かれている。
「このヒロウクモの糸には、触れたものの体力と魔力を吸い取る力が含まれている、か」
「それに死体を操る事が出来るとも書かれていますね」
「厄介だな。相手がどんな状態で現れるかは分からないが……少なくとも一筋縄でいかない事だけは確かになった」
「そうなりますね」
相手はこちらの力を吸収する力を持つと共に、本体は一体であるが、複数体の死体を使役して襲い掛かってくる可能性が出て来た。
どちらについても対策は必須だろう。
「残りのデータは……まあ、参考にはなるか」
「そうですね。そのまま応用することは出来ませんけど」
残りのデータは、どうやって現世で打ち倒したかについて。
弱点などを探り出すのには使えそうか。
そして、これだけのデータと100ポイントがあれば、対策は十分に出来る……とは思う。
「後は裏事情だな。知っているであろう相手に聞いてみようか」
「はい、そうですね」
しかし、まだ分かっていない事もある。
裏事情と言うか、相手の黒幕辺りについてだ。
その辺の情報もあれば、きっと勝率はさらに高くなるだろう。
「それじゃあ切ろう」
「はい、ハリさん」
だから俺とノノさんは一緒に面会チケットを切って、その場から姿を消した。
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