61:魔法の性質-4
「ぐぬぬぬぬ……」
「ハリさん頑張ってください! もうちょっと、もうちょっとですよ!」
自分たちの魔法の性質を知った日から数日。
俺とノノさんは日課としている基礎訓練……俺の場合だと、強化魔法を維持しつつのランニングや体操、一通りの攻撃を無限サンドバッグ相手に試す事になるが、それらを終えた後に、自分たちの魔法の性質を生かせるようにする訓練、あるいは新しい魔法を習得するための研究を始める事にした。
で、俺の場合だと、魔法の性質を生かすのはともかく、新たな魔法の研究は……それを始める前の訓練からする必要があった。
「ぬううぅぅ……ぬぐぐぐぐ……」
「ちゃんと離れてますよ。後は完全に切り離すだけです」
それが今俺がやっているこれ。
魔法を発動するために魔力を自分の身体から切り離すための訓練である。
が、俺はこの訓練に非常に苦戦していて、今も俺の手のひらの上には魔力の球が浮かんでいるのだが、手のひらから数センチ離すのが限界であるし、手のひらと魔力の球の間には細い紐のような魔力が残っている。
「苦戦してんなぁ……ハリ」
「うっ」
「あっ」
と、此処で偶々やってきたらしいオニオンさんの声に一瞬集中が乱れ、魔力の球は散逸してしまった。
失敗である。
「はぁ、はぁ……。オニオンさんですか」
「オニオン様、練習の邪魔はしないで欲しいんですけど」
「睨むな睨むな。ちゃんとアドバイスはしてやるから」
さて、俺が今やっている訓練は何故必要なのだろうか?
言うまでもなく、新しい魔法の習得の為だ。
もっと言えば、魔法の発動の際に、予め定めた量以上の魔力を使用しない、体内の魔力まで変化させてしまわない、そう言う安全の為に必要な訓練なのである。
「ハリ。お前の場合は目的を明確にした方がいいぞ。具体的に言えば、どういう魔法が欲しいのかだな。そこをしっかりさせた方が、習得も早くなる」
「目的……ですか」
では、俺がどういう魔法を求めているかだが……。
そちらについては割と分かり易い所か。
「遠距離からノノさんを守る手段ですね」
「お前の魔法の性質的にそれは出来そうなのか?」
「出来ると思います。そう言う性質なので」
思い描くのは、結界、壁、盾、あるいは軽減フィールド的なものだろうか。
以前神殿で『ハリノカベ』と言う魔法も見ているから、習得は出来るはずだ。
やり方としては……ガラスの壁を任意の場所で展開するだとか、俺の魔法の性質から魔法に強い性質を取り出して纏わせるとかだろうか。
前者は物理も一応防げる盾に、後者は魔法限定だが一定時間効果を保つフィールドを展開する感じだろうか?
「なるほど。それで切り離す手段か。だが見た感じだと切り離すのは相応の理屈が必要そうな感じがするし、まずは手元で発動できるようにした方がいいと思うぞ」
「手元でですか」
「ノノの嬢ちゃんは生粋の魔法使いだから、飛ばすのを基本にしたくなるんだろうが、別にそこに拘る必要はねえんだよ。極端な話になるが、コロシアムの何処からでも一足飛びでノノの嬢ちゃんの下に駆け付けられるなら、遠距離発動は出来なくてもいいわけだ」
「あっ……そっか……そうですよね……」
「後はそう言う効果を持つ道具類の利用とかな。目的をきちんと見据えて、それさえ達成できればと言う思考になれば、道筋は案外自由が利くもんだぞ。覚えておけ」
「「……」」
オニオンさんの言葉に俺もノノさんも少し考える。
なるほど確かに、言われてみればそうである。
本当に極端な話になってしまうが、例え魔法を飛ばせなくても、俺にコロシアムの端から端まで一瞬で移動できるだけの強化魔法が使えるなら、どういう魔法であってもゼロ距離で発動してしまえば、魔法を飛ばせないと言う問題は解決してしまうのである。
「ノノさん」
「そうですね、ハリさん。切り替えちゃいましょう。まずはハリさんの手元で魔法を発動できるようにしましょう。もしかしたら、それをやっている間に魔力を切り離すのも上手くなるかもしれませんし」
「分かった」
と言う訳で方針転換。
まずは手元で魔法を発動できるようにしてしまおう。
防御魔法や補助魔法なら、手元で発動したとしても、魔力の使い過ぎ以外の危険性は考えなくていいだろうし。
「で、ノノの嬢ちゃん。ハリはそれでいいとして、ノノの嬢ちゃんの方は大丈夫なのか?」
「私の方は……たぶん大丈夫です。その、生前の世界とはまるで違うからこそ、出来そうですから」
「そうか、ならいいが」
ちなみにノノさんは自分の魔法の性質である自然についての研究を大きく進めている。
俺にはノノさんが何をしているのかはよく分からなかったが、これまでよりも効率が良く、威力が高い魔法が使えるようになっているらしい。
ただ、その分だけ制約と言うか、厄介な性質も加わってしまったらしいが……そこも含めて、ノノさんは研究しているようだ。
「そう言えばオニオンさん。今日の用事はアドバイスだけですか?」
「いいや、他にも用事はあるぞ」
さて、俺たちの魔法についてはこれぐらいにしておくとしてだ。
オニオンさんには別に何か用事があるらしい。
「ハリ、ノノの嬢ちゃん。お前たちの次の決闘の相手が既に決まってる。その件について、色々と連絡がある」
「「!?」」
ただ、その用事の内容は俺たちにとっては予想だにしないものだった。