60:魔法の性質-3
「さて、俺の生前の世界の食べ物を扱っている所か……」
「サウザーブ様に色々とお話されてましたよね。私、食べてみたいです」
「そうか。じゃあ、ちょっと探してみるか」
場所は少し変わって、神殿から少し離れた中通り。
俺とノノさんは適当なベンチに腰掛け、何処か別の地区で行われているらしい水中での決闘の音を聞きつつ、PSSで検索をする。
それにしても、俺の生前の世界の食べ物か……折角だから、ノノさんの為にも俺の生前の世界だからこそ、と言う感じの食べ物を見つけたいな。
そうなると、素材を生かしたとか、限られた種類の素材からとか、物資がない中でとか、あらゆるものが合成できますがとか、そう言うのからずれた物……うーん、世界中から素材を集め、調理法を集め、電気・ガス・水道と言ったインフラの安定が前提であり、大量生産されている食べ物になるかな。
で、そう考えていくとだ……。
「カレー、ラーメン、ハンバーガー、パフェ、ピザ、寿司、牛丼……近代創作料理は生前の俺とは縁がないし、お上品なのもいいけれど、やっぱり多少ジャンクよりな感じの商品の方が今の状況にマッチしてるかなぁ……」
「
「え? ああ、翻訳対象外なのか。ジャンクフードって言ってな。高カロリー、高塩分だが、他の栄養素が少なくて、食べ過ぎると体に良くないって食べ物の事。それの略称がジャンクなんだ。まあ、あまり良い言葉ではないかな」
「なるほど」
「で、確かに食べ過ぎると不健康な商品だけど、適量なら問題ないし、『煉獄闘技場』ならその辺は無視しても問題ないから、折角と言う事でちょっとな」
「そう言う食べ物もあるんですね。不思議です」
「まあ、ある意味、俺が生きていた時代だからこその食べ物ではあるかな」
えーと、うん、色々とあるな。
なお、先ほど俺が挙げた商品の中には、ジャンクフードでないものも多く含まれているが、その辺の説明はまた今度でいいか。
と言うか、『煉獄闘技場』だと、寿司と言う名前で、栄養価はジャンクで、味はハンバーガー、食感はピザぐらいまでは普通にありそうだし、気を付けて探さないと『これじゃない!』と言う事になりかねないな、これ。
「おっ、あったな。割と近所だ」
「良かったですね、ハリさん」
「ああ」
と言う訳で探す事十数分。
俺の知るカレーと同じものを出してくれるっぽい店を見つけた。
最悪、AMOL地区内にそういう店がない事も覚悟していたのだが、あって何よりだ。
ちなみに神殿で頼まないのは、そういう気分でないのと、一食1ポイントで色々と割高だからである。
後、一応言っておくが、カレーはジャンクフードのくくりには入らない。
「それじゃあ行ってみようか。折角だから奢らせてくれ、ノノさん」
「えと……分かりました。ハリさん」
その後俺たちはPSSで探し出したカレー屋に移動。
そこは様々な種類のカレーを出しているお店であり、『カコカティ』と同じく特別な効果のカレーも出しているようだった。
が、今回の俺たちは普通のカレーを楽しみにしていると言う事で、1ポイントで普通のカレーライスと飲み物のセットを購入し、食べる。
「少しピリッとしていて、でも美味しいですね。ハリさん」
「そうだな。これぞカレーライスって味だ」
本当に普通のカレーライスだった。
茶色のドロッとしたスープに、様々な香辛料が溶け込んだ、少し辛く、刺激がありつつも、甘みと旨味が良く溶け込んだ味。
その味が良く染み込んだ肉、芋、玉ねぎ、人参は程よく柔らかく、噛む度に幸せになる。
そして、それらと一緒に米を食べると……うーん、堪らない。
懐かしく、美味しく、安心する、本当に幸せな味だ。
「……」
「ノノさん?」
「その、ハリさん。ハリさんの世界では、このカレーライスと言うのは、どう言う料理だったんですか?」
「ん? んー……」
と、不意にノノさんが俺にカレーライスに尋ねてくる。
どういう料理だったのか、か。
「俺が生きていた頃の立ち位置と言う話なら、家庭の味でもあり、大衆の味でもあり、プロの味でもある。と言う感じだな。懐が広い料理だったから、幾らでもアレンジが利かせられる料理だった」
「ふむふむ」
「歴史と言う話だと……結構複雑な話になるな。カレーライスの基になった料理は別の国が発祥で、間にさらに別の国を挟んだ上で、俺が生前居た国に入ってきていたはず。それぞれの食材の発祥についても、世界中の国に源流があったはずだ。そう言う意味では、グローバルと言うか、世界中の自然をかき集めてまとめ上げるような料理になるのかもな」
「なるほど。だからこんな味がするんですね……」
改めて考えてみると、結構トンデモな来歴をしている気がするなぁ。
俺は専門家ではないし、聞きかじった程度の知識しかないが、それでも、それぞれの来歴を辿ったら、世界一周ぐらいは普通にしている料理だったんだな、カレーライス。
うん、生前の世界が如何に豊かだったのかがよく分かる気がする。
「……」
「何か掴めた感じか? ノノさん」
「そう、ですね。たぶん何かを掴めたような気がします。自然をまとめたら、どれほど凄い力になるのか、と言うのを感じたような気もします」
「なら良かった」
そして、ノノさんにとっても、良いものになったらしい。
何かを感じ取ったようだ。
「折角だし、ちょっとこのスープカレー6種盛りとか頼んでみるか。すみませーん!」
「え、ハリさん!?」
「大丈夫。俺が食べたいだけだから。ノノさんも少し食べる?」
「えーと……それじゃあ、少しだけ」
「分かった。すみません、小皿も一つお願いします!」
なお、その後頼んだスープカレー6種(1ポイント)を食べたノノさんは、カレーと言う食べ物が持つ懐の異常な広さにとても驚いているようだった。
ふふふ、本当に何でもありだからなぁ、カレーって。
とりあえず色々と満足した一日だった。