6:始まりの決闘を終えて-1
本日六話目になります。
明日以降は基本的に毎日12時更新になりますので、よろしくお願いします。
「ふぅ……」
元の小部屋に戻された俺はベッドに腰かけ、息を吐く。
狼との戦いで傷ついた身体は元通りに戻っており、痛みも違和感もない。
『煉獄闘技場』と呼ばれる此処が死後の世界とは言え、とんでもない技術である。
「次の決闘は……アナウンスがないと言う事はまだ設定されていないのか」
貫頭衣の腰紐を戻し、ナイフを鞘に納めた俺は、部屋の中を改めて見てみる。
外へつながっていそうな扉は相変わらずロックされている。
ホログラムは表示されたままで、次の決闘関係の場所は空欄。
11桁の数字は少しずつ減っているが、残りの数字からして気にする必要はまだ薄そうだ。
そして、ポイント表記だが……『ハリ・イグサ:100ポイント』になっている。
どうやら決闘に勝利したことで、何に使うかは分からないが、ポイントとやらが与えられたらしい。
「一回寝るか」
とりあえず現状ではやる事がなさそうだし、狼との決闘で死力を尽くしたからか、非常に疲れている。
俺はベッドに横になって眠る事にした。
なお、照明はどうすればいいのかと思っていたら、ベッドに横になると同時に照明は勝手に消された。
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「ふわっ……」
さて、ホログラムの11桁の数字からすれば、7時間くらいは寝ただろうか?
俺は目覚め、ベッドに腰かける。
とりあえず疲れは取れた感じがある。
「さて、これからどうすればいいんだろうな?」
で、考えるのはこれからの事だが……いや、本当にどうすればいいのだろうか?
この部屋、どうにも俺が念じれば、照明の点灯、トイレに繋がる扉の出現、コップ一杯分の水、と言う事は出来るようなのだが、部屋の外に出る事は出来ないし、それ以上に問題な事として食事がとれない。
ぶっちゃけ、腹が減って、かなりヤバい。
≪食事の時間になりました。ランク1の食糧配給を行います≫
「おっ」
どうやら流石に食事なしではないらしい。
死後の世界で、死んでも復活してはいるが、それでも空腹感と言うのはとてもつらいものであるので、ありがたい。
「……」
と、その食事を見るまでは思っていた。
「ええっ……」
それは簡単に述べれば、食事と言う行為、あるいはこの物質の原料となった全てのもの、またはこれまでの人類の歴史全て、それらに対する冒涜であった。
まず見た目はくすんだ虹色であり、何故か色合いは揺らめいていて、視点を一点に保っても揺らぎ続けている。
形状は直方体であり、何かしらの粒を押し固めて作ったと言う雰囲気はある。
匂いは青臭いと同時に油臭く、薬品臭くもあり、腐敗臭も伴う、いっそ健康的な排泄物の方がまだ良い匂いだろう。
触ってみれば不自然に柔らかく、何かの液体が染み出て、音として聞き取れないが何かしらの震えを伴っている。
「これは……これは……食べていいものなのか?」
はっきり言って食べ物とは思えない。
ランク1の食糧配給と言っていたので、これが最下級の食事なのだろうが、これを食べたいとは思わない。
だが……だが……俺の腹は空腹を訴えている。
何かでそれを埋めなければいけないのも、確かな事だった。
「な、南無三!」
ある意味では狼との決闘以上の覚悟をした上で俺はそれを口に含み……不快感しか覚えさせない食感と口と喉を経由して鼻へと伝わる臭気を感じ取り、吐き気を覚え、それでもこの食べ物と呼ぶのもおこがましい何かの原料となったものたちへの贖罪だけを支えとして飲み込んだ。
「……。なんとしてでも食環境は改善しよう」
食べ終わると自然と涙が零れ落ちてきた。
きっとこの先、不快感と言う意味ではこれ以上の苦難はないのだろうなと、思ってしまった。
とりあえず食環境はなんとしてでも改善しよう。
あのポイントとやらが何に使えるのかは分からないが、使えると信じよう。
でなければ心が折れそうだった。
≪決闘が設定されました。決闘の開始は30時間後になります≫
「ん?」
どうやら、決闘が設定されたらしい。
ホログラムに『PvE:ハリ・イグサ VS 大蜥蜴 』と言う文字が出てきている。
大蜥蜴……巨大な蜥蜴あるいはコモドオオトカゲのような生物と言う事だろうか?
とりあえず30時間と言う事は、俺の感覚としては明日になる。
「まさかとは思うが、それまでこの部屋に缶詰め……」
≪正式な闘士になると共に、次回の決闘が設定されたことを祝して、ハリ・イグサ、貴方に外出権を与えます≫
「それは流石に無かったか」
決闘開始までどうすればいいのかと思ったが、扉のロックが外れるような音がした。
どうやら部屋の外に出れるようになったらしい。
恐らくだが、部屋の外で次回の決闘のための準備をしろ、と言う事なのだろう。
≪また、此処『
「アドバイザー?」
アドバイザー……アドバイスをしてくれる人物と言う事か。
なるほど、部屋の外では本当に色々な事が出来るらしい。
だから、アドバイザーを付けて、最低限の事は教えるとか、そんな流れなのだろう。
≪アドバイザーの名前はオニオン・オガ・マスルロド・キドー。既に部屋の外に居ます。合流してください≫
「ほー、お前がハリ・イグサって奴か?」
「へ?」
いったいどんなアドバイザーなのだろうか?
そんなことを思っていた俺に、扉の方から声がかけられた。
扉は既に開かれていて、そこから厳めしい顔の男性がこちらを覗いていた。
その男性は人間ではなく、真っ赤な肌と額から生える二本の角を持った、鬼としか称しようのない見た目の男性だった。