56:円陣との決闘を終えて-1
「と、戻ってきたみたいだな」
「そうみたいですね」
自宅前の糸通りに戻ってきた俺たちは、自分たちの身体や装備に問題がない事を一応確かめると、早速いつも通りの作業をPSSで行っていく。
「ノノさん。今回のポイントは? 俺は40ポイントだった」
「私は43ポイントですね。その、ハリさんより少し多く貰えてしまいました」
「いや、それについてはノノさんの決闘中の動きや指示出しを考えれば当然だから」
「そういうものでしょうか?」
「そういうものです」
今回はノノさんの方がポイントを多く貰えているらしい。
それにしても前回の勝利となる絡繰穿山甲の時に貰えたポイントから、15ポイントぐらいは増えているのか……でも、決闘の難易度と言うか、苦戦具合で言えば、今回の方が圧倒的に楽だったようにも思える。
うーん、命ある毒の円陣が魔法無しでは倒す事が不可能であると断言していい事と、俺もノノさんも絡繰穿山甲と決闘した頃と比較して、強化魔法と新魔法で大幅に強化されている事が、ポイント増加と主観的な難易度低下の大きな要因かなぁ。
まあ、この辺についてはそれぐらいにしておいてだ。
「それじゃあ、サウザーブさんの店に行って、そこでお茶でも飲みながら反省会と行こうか」
「はい、分かりました。ハリさん」
自分たちの決闘のログを落ち着いて見返してみるとしよう。
■■■■■
「はい、注文の紅茶だ。この一杯だけでなく、二杯分のお替りもあるから、忘れないように」
「ありがとうございます。サウザーブさん」
「ありがとうございます。サウザーブ様」
「ふふふ、ごゆっくり。ハリ君、ノノ君」
はい、と言う訳で、俺たちは糸通りを出て直ぐのカフェ『カコカティ』にやってきた。
ただ前回と違って、座る席はカフェの奥の方のテーブル席で、仕切りによって他の席からは見えないようになっている席だ。
サウザーブさん曰く、静かに、少人数で過ごしたい人向けであると同時に、何かしらの話し合いも出来る席とのことで、今の俺たちにとってはとても都合のいい席である。
なお、席の使用料と香り高くも飲みやすい、明らかに上質な紅茶三杯で1ポイントであり、非常にリーズナブルである。
「さて反省会だけど……」
それでは反省会を始めよう。
「今回は反省と言うよりは、ノノさんが何をしたかの説明が欲しい所かな。俺の知識不足や語彙不足で理解しきれない部分もあるかもしれないけれど、それでもどうしてアレで命ある毒の円陣が倒せたのかや、ノノさんが何を考えていたのかを教えて欲しい」
「分かりました。ハリさん」
まあ、今回の決闘で振り返るべきは、自分たちがミスしたと感じる場所よりも、何故ああなったのかについてだが。
「まずそうですね……ハリさんの期待を裏切るような事になってしまいますけど、私もベノリビィマジサクル……あの生きた魔法陣がどういう原理で動いていたのかまでは分からないんです」
「ふむふむ」
ノノさん曰く、命ある毒の円陣を構成していた魔法陣の構成様式や使われている文字などはノノさんの知るものではなく、恐らくは全く別の世界のものであったらしい。
そのため、円陣について正確に知る事は出来なかった。
だが、実際に起きている現象から、円陣が魔力を吸い上げている事、吸い上げた魔力を触れたものに悪影響を与える毒の魔力に変えていた事、空気を動かす事で自分の魔力の影響範囲を広げていた事、毒ガスと本体を切り離した上で完全に破壊しなければ再生しうる事、そう言った要素は読み取れたらしい。
「ごめん、話を遮るようだけど、毒の魔力ってことは、あの毒ガスみたいに見えたのは全部魔力だったと言う事?」
「はい、そうです。そうですけど、それがどうかしたんですか? ハリさん」
「ああいや、ちょっとな……」
俺はちょっと目を逸らす。
それにしても毒の魔力か……。
いやでも、よくよく考えてみたら、円陣が放っていたのが物理的にそこに存在している毒ガスだった場合、幾ら俺の魔力の謎作用で無害化しようとも、酸素とかが補給されるわけではないし、あの状況下で俺が窒息しなかったと言う事は、あの毒ガスは本当に魔力だったのだろう。
確かにその方が納得は行く。
「えーと、話を続けますね」
ノノさんの話が続く。
さて、相手がやっていることは分かった。
そして、ノノさんにも詳しい理屈は不明だが、『ハリノムシロ』と俺自身の挙動から、俺の魔力は円陣の力では変換出来ないか、出来ても何かしらの異常を生じると考えたらしい。
そこでノノさんが土を積み上げる事で、俺の魔力の謎作用範囲に円陣が入るようにし、大規模な不具合を起こさせたらしい。
「で、そのタイミングなら、相手の守りが薄くなると判断したので、適当な文字を書き加えて、全体を一時的におかしくしたんです」
「ああなるほど。なんとなく分かった」
どうやら、そこへ続いたノノさんの『魔矢』による攻撃は、パソコンやスマホで例えるなら、再起動や正規の終了に関わる部分に適当なプログラムを書き加えるものであったらしい。
うん、そんな事をされたら、そりゃあ止まる。
あの円陣は言ってしまえば超巨大で膨大で精密なプログラムの塊だった。
そんなプログラムの根っこに近い部分に、基本のプロトコルから違うのに排除も読み込みも出来ない別のプログラムを叩き込まれたのだから、止まらない方がむしろおかしい。
「でも、それだけだと何時かは戻って来そうだったので……ハリさんに最後の一撃を頼んだんです」
「なるほどなぁ……」
そして、最後の一撃によって、ハード面から叩き壊されて完全沈黙、と。
こうして見ると、案外魔法陣もプログラムも近しい面があるのかもしれない。
いや、どちらも精密なものと言う括りの中にあるのだから、当然の事かもしれないのだけれど。
「さて、これでノノさんが何をしたのかは分かった。そうなると、次はどうすればもっと楽に勝てたのかを話し合ってみようか」
「そうですね、ハリさん」
それでは、改良点を考えていくとしよう。
10/11誤字訂正