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55:円陣との決闘-3

「ベエエエェェェエ!」

「ふんっ!」

 円陣が毒ガスの空気砲を放ち、俺は盾でそれを防ぐ。

 空気砲の勢いは相応にあり、体勢次第では吹き飛ばされる事もあるだろうが、足裏の強化魔法が地面との間でスパイクのような役割を果たしているらしく、俺の身体は小揺るぎもしない。


「せいっ!」

「ベベベベベ……」

 そして、強化魔法を込めた棍による攻撃で反撃。

 円陣の構成を少しだけ乱す。

 この攻撃の効果がどの程度になるのかは俺の知識では分からないが、無駄と言う事は無いだろう。


「……。やっぱり、少しずつ修復はされている気がするな」

 さて、此処までの戦いで、円陣……命ある毒の円陣の能力はだいたい分かったと思う。

 体は魔力そのもので、魔法が関わらない純粋物理攻撃は無効な、生きた魔法陣。

 攻撃手段は毒ガスの生成と空気砲。

 毒の効果は不明だが、空気砲の威力はそれなりで、二つの攻撃を組み合わせる事でかなりの遠距離にまで毒ガスを届かせることが出来る。

 で、理屈は不明だが、俺の魔力の作用によって毒の無害化は可能で、『ハリノムシロ』の効果範囲内から範囲外へは何故か毒ガスが移動しない。

 たぶん、その辺は俺が知らない何かがあるのだろうし、今は不利になる事ではないので、気にしないでおく。

 とりあえず、俺の強化魔法、『ハリノムシロ』が緩まない限りは、幾らでも耐久は出来るだろう。


「ベーノベーノ」

 だが、耐久出来るだけだ。

 俺の攻撃力では円陣を倒すことは出来ない。

 さっきから何度も攻撃しているが、構成の一部を揺るがせることは出来ても、揺らいだ構成は暫く経つと元に戻ってしまう。


「さてノノさんは……」

「ハリさん! 仕掛けます!」

「分かった!」

 どうやらノノさんによる相手の解析が済んだらしい。

 円陣が向いていない方からノノさんの声が聞こえてくる。


「魔よ、土となり、柔らかい球となり、緩やかに飛んで……留まれ『土球(ソイルボール)』」

「ベノ!?」

 ノノさんが居る方から『土球』が飛んでくる。

 速度は控え目だが、その量は多い……いや、敢えて押し固めず、ふんわりとした土になっているようだ。

 そんな土が円陣に向けて降り注ぎ、小山のようになる。

 円陣の身体の構築を殆ど阻害せず、すり抜けているようにも見えるそれは、地面に落ちても消える様子を見せない。

 どうやら、魔法で作った土に周囲の普通の土を混ぜ合わせたり、魔法そのものの調整で長時間その場にあり続けるようにしたりするなどの工夫が施されているようだ。


「ハリさん! 展開してください!」

「起動せよ! 『ハリノムシロ』!」

 そこへ展開して欲しいと言うノノさんの言葉。

 俺の手札でわざわざ展開する必要があるものなど一つしかない。

 だから俺はノノさんが魔法によって積み上げた土の小山に棍の先端を突き刺し、『ハリノムシロ』を発動する。

 その結果は劇的なものだった。


「ベノオオオオオオオオオオォォォォォ!?」

 土の小山に無数のガラス片が混ざる。

 小山の周囲の毒ガスが無害化されると共に、円陣がどうしてか悲鳴のような音を上げ始め、その構成が大きく乱されていく。

 そして、毒ガスの無害化範囲も広がっていき、毒ガスによって狭まっていた視界が開けていく。


「行きます。魔よ、命となり、一字含む矢となり、矢のように飛んで、墨を撃て。『魔矢(マナボルト)』」

 そのタイミングでノノさんが『魔矢』を撃つ。

 ただし、普段の『魔矢』よりも一回り小さいように見えたし、雰囲気も妙なものを感じるものだ。

 で、放たれた『魔矢』は円陣の中心からほんの少しずれた場所を打ち抜き、そこに魔力を残す。


「ーーーーーーーーーーーー!?」

「いっ!?」

「っう!?」

 その瞬間、円陣が上げていた悲鳴が、さらに大きく、悲壮なものに変わった。

 円陣全体の構成が原形を留めないほどに崩れていき、電子回路がスパークするかのように、妙な煌めきを放ってもいる。


「ハリさん! トドメを! 中心です!」

「分かっ……たああぁっ!」

「!?」

 このまま放置すればどうなるか分からない。

 そう思いつつ、俺はノノさんの指示に従って、振り上げた棍に込められるだけの魔力を込めた上で、全力の振り下ろしをする。

 狙ったのは、それまで円陣の中心があった場所。

 そこには気が付けば深緑色の球体があった。

 棍とぶつかったそれには、これまでの円陣を攻撃した時にはなかった手応えがあり、何かを打ち砕いたと言う感触もあった。


「……」

 たぶん倒した。

 俺はそう思いつつも、その場から離れ、円陣が居た場所からノノさんが立つ場所への射線上に立ち、盾を構える。


「……」

 ノノさんもノノさんで俺に近づきつつ、円陣の状態を確認している。


≪決闘に勝利しました≫

「ふぅ……」

「ほっ……」

 そうして無事に勝利のアナウンスが告げられ、俺もノノさんも体から少し力を抜き、張り詰めていた気を少しだけ緩めた。


「ありがとうノノさん。何をやったのかはよく分からなかったけど、おかげで勝てた」

「ありがとうございます。ハリさん。ハリさんが時間を稼いでくれたおかげで、無事に勝てました」

 俺はノノさんに向けて手を伸ばし、ノノさんは手を重ねると笑顔で微笑む。


≪肉体の再構築後に所定の場所へと転送いたします≫

 そして俺たちは光と共に、元の場所へと戻された。

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