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54:円陣との決闘-2

≪決闘相手が現れます。構えてください≫

「さて、どう言うのが来ると思う?」

「え? えーと……」

「ああうん、ちょっとした遊びみたいなものだから、真剣に考えなくても大丈夫。当たったら、ちょっと嬉しいくらいなものだから」

「あ、そうなんですね。それじゃあ、毒ガスでお願いします。ハリさん」

「なるほど。じゃあ俺は固体毒で予想っと」

 俺とノノさんはいつも通りにコロシアムに転送された。

 コロシアムのサイズは……少し狭めか?

 で、相手となる、命ある毒の円陣だが……紫色の光から出て来たのは、深緑色の魔力の塊のようだ。

 これはノノさんの予想した相手のパターンの一つ、魔力の塊が魔法陣の形を取っているだけで、実体が存在しない、と言うパターンになりそうだ。


「それではハリさん。事前の打ち合わせの通りによろしくお願いします。魔よ、命となり、刃となり、構えられた矢のように留まれ。『魔刃(マナエッジ)』」

「分かっているとも」

「ベベベ……」

 今回の決闘相手については、俺よりもノノさんの方が知識を持っている相手だ。

 そして、決闘が開始されるまでの時間で、付け焼刃になってしまうが、ノノさんは俺に命ある毒の円陣……生きた魔法陣についての知識を教えてくれた。

 なので、俺はその知識に従って構える。

 で、相手となる円陣だが……出現しきったところで、奇怪な音を立てながら、小刻みに震えている。


≪決闘を開始します≫

「飛んで行って!」

「ベエエエエェェェエェェェ!!」

 決闘開始の合図とともに全員が動き出す。

 ノノさんが放った『魔刃』が円陣の身体を構築する、規則性を持った魔力に直撃し、構成を乱す。

 円陣は自分の構成の乱れを気にした様子もなく、大量の毒々しい緑色の気体を生成して、自身の周囲に撒き始める。

 だが、構成の乱れの影響だろう、生成される気体の量に方向ごとのムラがある。

 そして、俺は強化魔法も使って、毒ガスと思しき気体に触れないように、けれど全速力で円陣へと近づいていく。


「起動せよ! 『ハリノムシロ』! からの……せいっ!」

 で、十分に接近できたところで、宙に浮かぶ円陣の真下の地面を起点に『ハリノムシロ』を起動。

 その直後に魔力を纏った棍を蹴り上げ、円陣の身体を下から叩き、そのまま円陣の身体を縦断し、突き抜ける。


「効果は……」

「ベベベベベ」

「意味が無いわけではなさそうだな」

 俺の攻撃によって、さらに構成が乱れたのだろう。

 円陣が生み出す毒ガスに、更なるムラが生まれる。

 しかし、それでも量が増える事によって、毒ガスの隙間が無くなりつつあるので、俺は横に走って、幾らか距離を取る。


「ベーノベーノ……」

「『ハリノムシロ』の効果は有り。なるほど、ノノさんの言った通りなのか」

 円陣がこちらの方を向く。

 うん、たぶんだけど、こっちの方を向いている。

 えーと、ノノさん曰く、生きた魔法陣は周囲の魔力を吸い上げて利用しているものが多い。

 なので、『ハリノムシロ』の近くに居れば、『ハリノムシロ』の魔力を吸い上げて、俺への敵意を抱く可能性が高い。

 だったか。

 推測通りで何よりである。


「ハリさん! 私は少しの時間、解析に専念します! なので、その間はお願いします!」

「ああ、分かってる!」

 でだ、ノノさん曰く、生きた魔法陣を倒すあるいは壊す方法は幾つかあるらしい。


「ベベベベベ!」

 一つ目は、生きた魔法陣を外部からの魔力によって、自己を保てないほどに破壊する事。

 つまりは魔法付きの攻撃を用いて、普通に倒すと言う手段だ。

 ただ、ノノさんの攻撃でも、俺の攻撃でも円陣の構成が幾らか乱れただけなので、円陣の中でも重要な部位を狙って乱さなければ、早期に倒す事は難しいだろう。


「おっと、毒ガスの空気砲か。まあ、範囲拡大がメインで、触れなければ、問題はなさそうか」

 二つ目は、生きた魔法陣自身とその周囲の魔力を枯渇あるいは利用できない形にしてしまう事で、消滅させる事。

 こちらは相手を餓死させるような手段になるだろうか。

 しかし、これには何かしらの特別な方法を用いなければ、コロシアム中の魔力に細工する必要があるので、楽ではない。


「せいっ!」

「ベベベベベ!」

 三つ目は円陣を解析して、解除してしまう事。

 よく分からなかったが、パソコンで言うところの終了プログラムのようなものを書き込んで起動させる感じだろうか?

 ある種の即死攻撃のようなものになるが、上手くいくかは相手の構成がノノさんが理解できる範囲であるかどうか次第。


「ふんっ!」

「ベーノベーノ」

 他にも色々と細かい方法はあるらしいが、円陣に接近し、毒ガスを避けながら、魔力を込めた棍で円陣を殴り続けている俺には覚えられなかったし、進捗を気にしていられる状態でもない。

 とにかく俺はノノさんのために時間を稼ぎ、円陣のヘイトを奪い続けるのが仕事である。

 で、そうして攻撃をしている間に気づいた。


「これ、俺に限っては毒ガスそのものを避ける必要はないな」

「ベベベベベ……」

 既に毒ガスは円陣の周囲数メートルの範囲に広がっている。

 だが、『ハリノムシロ』の範囲外に毒ガスは出て行かないし、地面から十数センチ程度の範囲も毒ガスが入れていない。

 そして、濃度が薄くとも、状況的に考えて毒ガスを幾らかは吸い込んでいる俺だが……一切の体調不良が見られない。

 理屈は不明だが、どうやら俺の魔力が毒を無害化しているらしい。


「ベエエェェェエエェェェ!」

「まあ、だからと言って完全に無力化されたわけじゃないから、気は抜けないわけだが、な!」

 ただ、毒は効かなくても、毒ガスを遠くへ飛ばすための空気砲は、俺が全力で棍を叩きつけるくらいの威力は持っているので、きっちり盾で防ぐ。

 で、それから反撃として棍を捻り突き入れ、円陣の構成を乱す。


「それに、これはこれで気を張る必要があるな……」

「ベーノベーノ……」

 さて、こうして俺と円陣、足元以外は完全に毒ガスで覆われた。

 こうなると、『ハリノムシロ』の効果時間切れはノノさんの方へ毒ガスが流れると言う状況に繋がってしまう。

 俺の身体への強化魔法の乱れは、毒ガスの影響を受けると言う状況に繋がる。

 どちらの状況に至っても、たぶん詰み。

 やはり気は抜けなさそうだ。

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