53:円陣との決闘-1
「えーと、ノノさん、体調の方は?」
「復活を挟んだからか、むしろ調子がいいくらいですね。ハリさんは大丈夫ですか? その……」
「俺も問題ない。死んだのも初めてじゃないし、硫酸スライムの攻撃力が高すぎて、痛いとか感じる暇もなかったから」
「ハリさんもそうだったんですね。私もです」
さて、次の決闘相手は決まった。
時間もある。
なので、早速情報収集と事前の打ち合わせをしよう。
打ち合わせ後に神殿へ行く時間はあるかもしれないが……ポイントの都合もあるので、そちらは現時点で既に無理だと思っておこう。
「と、話を戻して、時間が問題ないなら、次の決闘相手について調べよう」
「あ、はい、そうですね」
「えーと、まず決闘相手の名前についてだけど、俺の方だと、命ある毒の円陣、と言う名前になっている。ノノさんの方では?」
「私の方では、ベノリビィマジサクル、と言う名前になっていますね」
「なるほど」
また名前が違う。
たぶん、俺とノノさんで保有する知識に差があるからだろう。
「じゃあまずはPSSで調べてみようか」
「はい、分かりました」
しかし、どう言う差のためにこんな名前になったのかも全く分からないので、まずは名前から探れるだけ探ってしまおう。
「んー……」
だから探って……
「えーと……」
探って……
「「……」」
探ってみたのだが……。
「ナンダコレ」
「えーと、ここがこうで、これがこうで……でも、えーと……」
正直な感想を言おう。
訳が分からない。
「絡繰穿山甲と言うメカが出てきた時点で、俺の認識する生命の範囲外から決闘相手が出てくるのは分かるんだが、うーん……」
検索して出て来たのは、名前の通りの存在。
様々な効果と形態の毒を扱う円陣だ。
何を言っているのだと思うかもしれないが、本当にその通りなのだ。
本当に、何かしらの規則性を以って描かれたであろう円陣……人によっては魔法陣とでも呼称しそうなものが、毒を使って、決闘相手の闘士と戦っているのだ。
これはもう、こういうものとして、認識するしかないと言う事だろうか。
「毒を使う事についてはまあいい」
命ある毒の円陣の攻撃方法は毒だ。
毒の形態は様々で、気体である毒ガス、液体である毒液、固体である毒の結晶など、個体によって毒の状態は異なるし、それらをどうやって扱うかも個体によって異なる。
調べた限りでは、単純な毒ガスの放出、液体を水鉄砲のように放つ、固形化した毒を銛のように撃ち込む、放った後の毒を急速に気化させて爆発のような現象を起こす、他にも色々と使い方があって何でもありに近い。
が、その扱い方は見た限りでは、よほど高位の個体でなければ、一個体につき三通りぐらいが限界であるように思える。
「強さについては……まあ、毒消しを持たない俺たちの前に出てくるなら、即死クラスではなさそうか」
毒の効果についても様々だ。
体調不良を覚える程度のものから、数秒触れただけで全身が腐り落ちて死ぬようなものまであるし、麻痺、睡眠、火傷、凍傷、などなど、俺が思い描くような毒から少しずれているように思える、少し変わったものも含まれるようだ。
ただこちらも、よほど高位の個体でなければ、一個体につき一種類であるようだ。
「金属や砂で出来ているのはそれでもまだ理解が及ぶが……」
で、問題は円陣が何で出来ているかだ。
金属のパーツが組み合わさって、そう言う存在になっているのは分かる。
砂が独りでに動いて、円陣を組むのも、スライムを見た後なので納得は行く。
しかし……壁に描かれた円陣が壁の中を動き回るだとか、毒ガスが円陣の形になって体を構築しているだとか、本当にただ空中に円陣が描かれているだとか、こう言うのはどう理解すればいいのだろうか。
いや、いっそ細かい理解は放棄してしまえばいいのかもしれないが、それでも、どうやれば倒せるのかがまるで分からないと言うのは、困った話である。
「あの、ハリさん。たぶんですけど、これは名前の通りだと思います」
「名前の通り?」
「はい、名前の通りに、次の相手は生きた魔法陣なんだと思います」
「んー? あー……ごめん、ノノさん、そもそも魔法陣がどういう物かから説明して。生前に縁がないから、まるで分からない」
「え? あっ。はい、分かりました。説明しますね。ハリさん」
ノノさんが俺に対して、魔法陣とはどのようなものかを説明してくれる。
その説明によれば、魔法陣と言うのは、魔法の発動を補助するもの、あるいは条件を満たせば勝手に魔法を発動するものであるらしい。
では、生きた魔法陣とは?
「私は詳しくないですし、世界の違いもありますから、どうすればこんな事が出来るのかは分かりません。でもたぶんですけど、生物の機能の一部を組み込んだ魔法陣、そう捉えるのが正しいと思います」
「だから自律行動をする?」
「はい。そしてたぶんですけど、元々居た世界では自分を増やしたり、同族と一緒になって大きな体を作ったり、他の生きた魔法陣を襲って食べたりと、色々な事が出来ていたんだと思います」
「なるほど……」
本当にそのままの意味で、生きている魔法陣、でいいらしい。
うーん、いっその事、肉眼でも容易に見える単細胞生物と言うかプランクトンと言うか、そう言う風に捉えれば、俺の認識としては楽になるのかもしれない。
「それでハリさん。対策の方も、その、少しだけ思いついたので、お願いできますか?」
「勿論。俺に出来る事ならなんなりとだ」
さて、これまでのやり取りで分かる通り、ノノさんには魔法陣の知識がある。
だから、対策の方も思いついたらしい。
俺はノノさんからその対策を聞いて……頷いた。
そして、決闘の時が来た。