52:硫酸スライムとの決闘を終えて-2
「「……」」
さて、反省会の最初として、まずは硫酸スライムとの決闘のログを一通り見てみたのだが……。
「このカウンター、どう対処すればいいんでしょうか……」
自分たちを仕留めた攻撃の凶悪さが改めてよく分かった。
ノノさんを仕留めたカウンターは、本当に上手い具合に攻撃を喰らったかのように偽装した上で、的確に硫酸を撃ち出している。
見た限りでは、射出から着弾までおよそ三秒ほどかかっているが、地味に範囲も広く、ノノさんが攻撃の時に立っていた場所から半径2メートルくらいは範囲内になっている。
これは知っていても、避けるのは難しそうだ。
「この硫酸ボーラもどうすればいいんだろうなぁ……」
俺を仕留めた硫酸ボーラは、やはり受けては駄目な攻撃だ。
球体に触れても紐に触れても、その一点を支点として相手に絡みつき、ゼロ距離で爆縮するように球体が爆発するので、触れたら確実に死ぬ。
だが避けるのも、決闘の時に感じた通り難しそうだし……いや、どうすればいいんだろうか、これは。
「「うーん……」」
「自分たちが倒された攻撃だけ見ているんじゃ反省会にならねえから、気を付けろよ」
「あ、はい」
「分かりました」
とりあえず他の部分も見て行こうか。
「初動については……まあ、あの状況じゃアレ以上は無いよな」
「そうですね。ハリさんは『ハリノムシロ』を撃つべきでしたし、私も様子見の意味でも魔法を撃つ場面でしたから」
初動は問題ない。
ちなみに、少し頑張って検索してみたら、硫酸スライムに水の魔法を撃ち込んだ結果として、コロシアム全域を覆いつくすような大規模な爆発が発生、壊滅した動画が見つかった。
どうやら、硫酸スライムに触れたタイミングで水魔法が蒸発、気化し、爆発が生じたようだ。
これを知らなかったら……まあ、初動で壊滅していた事だろう。
「問題はその後か。んー……いっそ硫酸スライムに近づいて、『ハリノムシロ』を撃つべきだったか?」
「あ、そうすれば、その場から大きく動き回る事は無くなるかもしれませんね」
「そうそう」
問題はその後か。
俺は硫酸スライムの攻撃を防ぐことに専念していたが、いっそあそこで近づくのはありだったかもしれない。
それで領域の中心部付近に硫酸スライムが居るように『ハリノムシロ』を撃てれば、硫酸スライムのヘイトは俺に向かい続けていただろうし、ガラス片で傷つく事を硫酸スライムが嫌がれば、その場へ強制的に留まらせることが出来たはずだ。
「それで、そうやって動きを封じれば私の魔法も……いっそ、私もハリさんと一緒に接近するべきだったかもしれませんね。そうすれば、反撃もハリさんが防げたかもしれませんし」
「かもなぁ。そもそも相手の回避能力を上回って魔法を撃ち込み、一撃で核を破壊し、勝利。と言う可能性もあったかもしれない」
この流れなら、確かにノノさんも俺と一緒に接近した方が、勝ち目は強くなるかもしれない。
「ただそうなると問題は硫酸ボーラの方だけど……ノノさん、土の魔法で生み出した土と、硫酸スライムの硫酸が接触した場合って一瞬で溶かされると思う?」
「分かりません。けれど無抵抗で溶かされると言う事は無いと思います」
「じゃあ、硫酸ボーラの時はノノさんが何かしらの魔法で撃ち落とすか、俺が棍を投げて囮にするか、そのどちらかが正解だったのかもしれない」
「私がそこまで素早く魔法を使えるかは分かりませんけど、確かにそうかもしれませんね」
そして、硫酸ボーラへの対処も、ワンチャンあったかもしれない。
なるほど、初動の後こそが勝負の流れを決めた部分だったのかもしれない。
と言うか、こうなると硫酸スライムの奴、まさかとは思うが、ノノさんと言う遠距離攻撃の使い手が居なくなったからこそ、硫酸ボーラを撃ってきたのか?
無いとは言えないのが怖い所だ。
「で、ノノさんは硫酸スライムに隠し玉と言うか切り札の類はあったと思う?」
「思います。その硫酸ボーラと言うのを使う時に出している、細長い紐のような酸ですけど、あれで色々と出来るような気がします」
「だよなぁ……」
で、どうすれば勝てたかもしれないかは分かったが、じゃあ勝てるかと言われたら……実に怪しい。
硫酸スライムの硫酸の紐、アレは確実に他にも使い方がある。
鞭のように撃ち出して切り裂いたり、網のように張り巡らせたり、他にもたぶん使い方がある。
それと球体と線が作れるのなら、他にも色々と作れそうであるし……本当に底が知れない。
「なるほど、これがプレデターか。確かに勝てない方が普通だなぁ……」
「本当ですね。今の私たちだと、どうしても相手が油断してくれているとか、対処できるような攻撃をしてくれるとか、そう言うのを期待するしかないです」
うん、オニオンさんの言っていた事がよく分かる。
現状の俺たちでは不利な運ゲーに持ち込むのがやっとだ。
仮に根本的な対策を取るなら……今使える手札をもっと強化するのは当然として、ノノさんの周囲に常時張っておけるような障壁や結界の類や、単純な反応速度や反射速度の向上、攻撃や危機の予知、そう言った力が欲しい所だろうか。
本当にプレデター、まるで獲物の抵抗など気にもしない絶対的な捕食者のようだ。
「よし、切り替えていこう。次の決闘に挑もう。ノノさん」
「そうですね。ハリさん」
だからこそ俺もノノさんも割り切った。
割り切って、休養権を切った。
≪決闘が設定されました≫
≪決闘の開始は12時間後になります≫
「ほぼ明日ですねー」
「明日だなー」
割り切った結果として、次の決闘は明日になったようだった。
決闘の組み合わせは……。
『PvE:ハリ・イグサ & ノノ・フローリィ VS 命ある毒の円陣 』
と言うものだった。
いやあの、円陣って……どういう事だ?