<< 前へ次へ >>  更新
51/132

51:硫酸スライムとの決闘を終えて-1

本日は三話更新になっています。

こちらは三話目です。

「ノノさん。守れなくてごめん。仇も取れなかった」

「ハリさん……。いえ、それを言うなら、私も魔法を撃った後にその場に留まり続けていたのもミスですから、お互い様です」

 俺とノノさんはまず互いに頭を下げ合う。


「その辺にしておけ。ハリ、ノノの嬢ちゃん」

「オニオンさん」

「オニオン様」

 そして、暫く経ったところで、オニオンさんが声を掛け、俺たちは二人揃ってオニオンさんの方を向く。


「俺たちの立場から見て、お前らは二人とも明らかな悪手は打ってなかったし、あの場あの場で判断できる範疇では結構いい方の動きはしていた。それで負けたなら、相手の方が単純に強かったし、立ち回りが上手かった。そう言う話だ。と言うかだ、ドーフェ」

「ええ、今回の相手であるスライムは明らかにプレデターね。相性によっては中堅下位の闘士ぐらいまでは食われるでしょうし、少なくとも今のハリとノノには荷が重い相手ね」

 で、オニオンさんもドーフェさんも仕方がないと言ってくれた。

 それも慰めと言う感じではなく、本当に仕方がないと言う空気だ。

 それにしてもだ。


「プレデター、ですか?」

「その、どういう意味でしょうか?」

 プレデターとはどういう意味だろうか?

 正直、俺の記憶を探っても、思い浮かぶのはとある有名映画のヤバい化け物と言うイメージしかない。


「そうだな……まず大前提として、『煉獄闘技場』のPvE形式で行われる決闘は、我らが主が設定するものであり、絶対に勝てない相手との決闘が組まれる事は無い。これはいいな」

「はい、以前聞いた事があります」

「その、絶対に勝てない相手との決闘が組まれる事がないって言うのが、実は曲者でな。時々だが、事前対策や情報なしで挑めば予想される勝率が1%未満になるような相手や、ガチガチに対策を組んでも勝率が50%に届くか怪しい。そんなとんでもない化け物との決闘が組まれる事がある」

「そんな組み合わせもあり得るんですね……」

「で、プレデターって言うのは、そう言うとんでもない化け物に対する呼び名の事だ。普通は負け惜しみとして言われるんだが、今回のスライムは完全にプレデターだったな」

 とりあえず、プレデター=ヤバい化け物、と言う認識で間違いは無いらしい。

 それにしても、時々、と言うのを、こんな簡単に引いてしまうとは……運がいいのか悪いのか。

 まあ、気にしないでおこう。

 それよりもだ。


「でも、相手がプレデターであっても、決闘が組まれたと言う事は、勝てる可能性はあったんですよね。どうすれば勝てたんでしょうか?」

「その辺はハリとノノの二人で、反省会をしつつ考える事ね。ただ、能力の相性については決して悪いものではなかったから、立ち回りや戦術、戦略の見直しでどうにかなる範囲だとは言っておくわ」

「なるほど。ありがとうございます。ドーフェ様」

「分かりました。ドーフェさん」

 どうすれば勝てたかは自分で考える事、か。

 言われてみれば確かなので、この後の反省会のために『煉獄闘技場』のログは回収しておく。


「どちらかと言えば俺らが言うべきはこっちだよな。反省会をして、対策を立てたとしても、次のスライムに今回の戦術が通じるかはまた別問題」

「まあ、そっちよね」

「「あ……」」

 そして気づく。

 俺の最初の相手である狼にしても、一戦目と二戦目では別個体であったように、今回の硫酸スライムにしても、次に戦う硫酸スライムが今回のと同じ個体とは限らないと言う事実に。

 で、スライムと言うのは正に何でもありの種族であるので、個体が違うならば、取ってくる戦術もまた違うと言う事で……うわぁ。


「で、これも追加で言っておくのだけど、今回の硫酸スライムが自分の手の内を全部晒しているとは限らないのよね」

「おおう……」

「それは……普通にありそうですね……」

「まあ、最後の硫酸ボーラとか、カウンターの硫酸の雨とか、あれらを最初から使わなかった知性があるのなら、他にも何かしらの隠し玉があってもおかしくはねぇな」

 しかも、あの硫酸スライム自体底が見えているかは怪しい、と。

 でも、それは納得がいく。

 あの硫酸ボーラとやらを最初に投げつけられていたら、俺は開幕で即死していたのだから。

 そして、硫酸ボーラの構成に使われていた硫酸の紐、アレとか、よくよく考えてみたら幾らでも悪用できそうな気がする。

 そう考えていくと……うん、本当にあの硫酸スライムにはまだ何かがありそうだ……。


「ま、これで分かったと思うが、プレデターについては基本勝てない。勝てたら幸運だった。負けたら仕方がない。それで流しちまった方がいい。見方によっては先々に戦うような相手の情報をいち早く知れたとも考えられるし、ポイント以外の面で利益を得た方が得策だ」

「はい、そうですね」

「分かりました」

 うん、なるほど、理解した。

 プレデターは常に最善手を撃ち続ける事でようやく勝負になる相手。

 『煉獄闘技場』の外で出会ったなら、即逃げが安定するような相手と言う事だ。

 だったら、オニオンさんの言う通り、ポイント以外の部分……知識面で利益になる場所を見出した方がいい。


「そして、遭遇すること自体が事故みたいなものだからな。悪い流れを断ち切る意味でも、反省会が終わって、色々とすっきりしたら、次の決闘に挑んでしまった方がいい」

「なるほど。ノノさん」

「はい、私たちもそうしましょう。ハリさん」

 だいぶ気持ちが晴れて来た。

 俺はそう思いつつ、反省会のためにPSSを取り出した。

勝てる確率が1%でも、50%でも、99%でも勝てる可能性がある事に変わりはないのです。

<< 前へ次へ >>目次  更新