50:硫酸スライムとの決闘-4
本日は三話更新になっています。
こちらは二話目です。
「プルゥ!?」
ノノさんの『魔刃』が硫酸スライムの身体を切り裂き、その身体を弾けさせる。
「死んでない!」
「分かりました!」
だが、今回もやはり、核は攻撃できなかったらしい。
勝利のアナウンスもなければ、硫酸スライムの身体が力なく崩れ落ちるような姿も観測出来なかった。
だから俺はノノさんに相手の状態を伝えると共に、追撃を加えるべく一歩前に出る。
「プルアッ!」
「させるか!」
と、ここで切り裂かれた体を元に戻す反動を利用するように、硫酸スライムが硫酸の球体を撃ち出してくる。
俺は軌道に割り込んだ上で、足を止め、素早く強化魔法を展開、盾を構え、受け止める。
攻撃は相変わらず重いが……既に何度も受けた攻撃であり、爆発するような勢いで弾けるのも含めて、対処は問題なく出来る。
そして、硫酸スライムが此処で攻撃を仕掛けたのであれば、こちらにとっては絶好の反撃タイミングと言える。
「ノノさ……ん?」
だから俺はノノさんの方へ少しだけ視線を向けた。
視線を向けて……茫然とした表情で崩れ落ちていくノノさんの姿を見た。
「は?」
ノノさんの姿が消えていく。
それはつまり、ノノさんが死んで、コロシアムの外に復活した上で飛ばされたと言う事だ。
だが何故ノノさんは死んだ?
硫酸スライムの攻撃は俺が確かに受け止めて、飛沫も含めて、ノノさんの方に攻撃は飛んでいないはずだ。
しかし、ノノさんの姿があった場所の地面は、硫酸で溶かされたような状態になっている。
あの状態になっているからには、硫酸スライムが何かをしたのは間違いない。
そう、間違いない。
間違いなく、俺が認識出来ていない硫酸スライムの攻撃によって、ノノさんが声一つ上げる暇もなく殺されているのだ。
「まさか……」
そこまで思考が及んで、俺はようやく一つ思い出した。
先程のノノさんの『魔刃』による攻撃で弾け飛んだ硫酸スライムの肉体は何処に行った?
俺は弾けたとしか認識していなかったが、その大部分は上方向に飛んでいたのではないか?
その飛んで行った硫酸スライムの身体が、硫酸の雨となり降り注げば……それは実質的に槍の雨が降るようなもの。
強化魔法によって酸を防げる俺ならばまだしも、ノノさんでは確実に即死する攻撃になる。
「プルプル……」
「被弾の姿に攻撃を紛れ込ませた……だと……」
事実に気づいた俺は、スライムは何でもありだと言う言葉の意味を、今、正しく、一端だけを理解した。
硫酸スライムの知性が、俺とノノさんの防御能力を正しく理解し、それを潜り抜ける方法を閃くほどに高い事を理解させられた。
「くっ! だったら、仇を……」
「プールプール……」
俺が呆然としている間に、気が付けば硫酸スライムは遠く離れていた。
そして、俺一人ならば近寄る必要など無いと言わんばかりに、体積を減らした体をゆっくりと揺らし、自分の体の周りに硫酸の球体を幾つも浮かべている。
何かをする気なのは間違いない。
それが俺の守りを突破できるような代物である可能性も高い。
距離が近づけば、それを回避する事が難しい事も分かる。
だが、ノノさんの仇を俺が討つためには、棍による殴打が届く距離にまで近づくしかない。
故に俺は強化魔法を全力で行使しつつ、硫酸スライムに向かって駆けていく。
「プルルルルウウゥ!」
「!?」
硫酸スライムから硫酸の球体が放たれる。
だが、今回放たれたのは単発ではなく、複数の球体を細長い紐のような液体で繋げたものだった。
それだけに当たり判定も大きく、速さも相まって、俺の身体能力では回避は不可能だった。
しかし、素直に受ければ、明らかにただでは済まない攻撃でもあった。
「うおらぁ!」
だから俺は棍を正面に向かって突きだし、球体の一つを貫く。
「このま……っ!?」
そして、棍を素早く跳ね上げる事で攻撃を回避しようとし……気づく。
俺が貫いた一点を支点として、紐で繋がった他の球体がこちらに勢いよく向かっている事に。
既に回避は不可能。
故に、俺は直ぐに強化魔法を全力で発動させて、出来る限り衝撃に備えた。
「プールル」
けれど、硫酸スライムの攻撃は俺の想像をはるかに超えていた。
「なっ!?」
硫酸の紐が絡みつく。
俺の全身を絡め捕り、球体を俺の身体に叩きつける。
硫酸の球体が爆発する。
一つ二つではなく、全ての球体が同時に爆発して、あらゆる方向から衝撃が襲い掛かる。
「……」
敢えて近い現象を挙げるならば、爆縮だろうか。
俺の強化魔法による防御を上回る圧力があらゆる方向から襲い掛かり、硫酸の効果もあって、一瞬にして全身が焼け溶けていく。
だが、あまりにも圧倒的な火力であったためか、痛みも熱さも感じずに俺の身体は消失していく。
≪決闘に敗北しました。肉体の再構築後に所定の場所へと転送いたします≫
「……」
「ハリさん……」
そうして気が付けば、俺の身体は決闘の開始前に居た糸通りに戻され、道路に寝転がっていた。
そして、ノノさんが心配そうな顔で、オニオンさんが難しい顔で、ドーフェさんが額に手を当てた状態で俺の事を見ていた。