49:硫酸スライムとの決闘-3
唐突ですが、本日は三話更新になっています。
こちらは一話目です。
「「……」」
俺とノノさんがコロシアムに転送される。
コロシアムのサイズや様子は前回から変わりなし。
この時点で、相手のサイズが規格外である可能性は切っていいだろう。
≪決闘相手が現れます。構えてください≫
「それじゃあ、予定通りに」
「はい、ハリさん」
紫色の光が集まっていく。
プリン型とでも言うべき形を形成し、実体化すると緑がかった色の物体が現れてくる。
硫酸には本来ならば色はないはずなのだが、イメージの問題だろうか?
まあ、目視できる方がありがたいので、気にしないでおこう。
サイズについては、俺とノノさんの身長の間くらいで、一般的なサイズと言える。
地面との接触面からは焼けるような音がして、微かに煙が上がっているように見えるので、酸の能力は既に発動しているようだ。
そして最後に、テカリのある体に守られる形で、どちらかと言えば赤っぽい感じのある球体が中心部に現れる。
たぶん、あの球体が核だろうが……小さいな、俺の握り拳と同じか、それ以下ぐらいだろうか。
「……」
とりあえずだが、目に見える範囲では妙な能力や特徴を有さない、酸による攻撃が行えるだけのスライム、そう判断していい感じではあるか。
俺はそんな事を思いつつ、魔力を棍の先、二股に割れている部分の間に集め、地面と接触させると言う準備をしておく。
「魔よ、命となり、矢となり、構えられた矢のように留まれ。『
ノノさんも魔法を詠唱。
緑色に輝く魔力の矢を出現させ、杖の先近くの空中に浮かせる。
「プルプル……」
硫酸スライムは……プルプルとゆっくりと揺れている。
核と思しき位置も揺れるのに合わせて、ゆっくりと動いている。
思考や認識を読み取る事は……うん、無理。
俺には全く分からない。
分からないので、オニオンさんの言う通り、出た所勝負で挑むしかないだろう。
≪決闘を開始します≫
「起動せよ! 『ハリノムシロ』」
「飛んで行って!」
決闘開始のアナウンスが響く。
と同時に、俺は『ハリノムシロ』を起動し、周囲の地面に無数のガラス片を出現させる。
また、ノノさんは硫酸スライムに杖を向けて矢を飛ばす。
「プルッ!?」
硫酸スライムにノノさんの矢が突き刺さり、突き抜ける。
だが、核は貫けなかったらしく、体の一部を吹き飛ばしただけだ。
「プルル……ッ!?」
「ノノさん!」
「はい、急いで次を用意します!」
攻撃を受けた硫酸スライムはこちらに襲い掛かるべく、俺たちの方へと這い寄ろうとする。
しかし、その動きは『ハリノムシロ』の領域に入ろうとした瞬間に止まり、領域の外へと素早く這い出る。
俺はノノさんを促しつつ、一歩前に出て、その間に今の硫酸スライムの動きについて考える。
「ああなるほど。これが相性って奴か」
で、直ぐに理屈は分かった。
俺の『ハリノムシロ』はガラス片を出現させる。
硫酸はガラスは溶かせない。
故に『ハリノムシロ』の領域は、硫酸スライムにとっては『ハリノムシロ』の効力もあって、絶対に入っていたくない領域になるらしい。
となれば……俺が魔法を発動している状態であれば、硫酸スライムに触れる事は可能であるかもしれない。
覚えておこう。
そして、これが正しいのであれば、強化魔法は常に最低限の出力は保てるようにしておくべきだ。
「ハリさん。行きます! 魔よ、命となり、刃となり、回りつつ矢のように飛べ。『
「プルルルゥ……」
俺が強化魔法の強度をコントロールする後ろで、ノノさんが緑色に輝く刃を生み出し、回転させながら飛ばす。
飛んで行った刃は硫酸スライムに直撃したが……やはり核には当たっていない。
二度目となると、ノノさんのコントロールの問題と言うより、硫酸スライムの側が体全体では避けられないので、核だけは避けられるように何かをしていると考えた方が良さそうか。
で、攻撃を受けた硫酸スライムは切られた部分を結合させつつ、震え続け……
「プルアッ!」
「っ!」
唐突に自分の体の一部をこちらに向かって飛ばしてきた。
見る限りでは魔力を含むそれは、真っすぐにノノさんの方へと向かっている。
「させるか!」
なので俺は一歩前に出て、強化魔法を全開にし、盾を構え、真正面から受け止める。
「ぐうっ!?」
「ハリさん!?」
「だい……丈夫だ!」
重い。
どうやら硫酸スライムの攻撃は、ノノさんの『水球』と同じかそれ以上の威力を持っているようだ。
おまけにただの物理攻撃ではなく、酸による溶解作用を持つと共に、着弾時に爆発したかのように激しく飛び散るように設定されているらしい。
幸いにして酸の溶解作用については俺の推測通りに、俺の強化魔法なら防げるらしい。
だが、爆発する方は拙い。
硫酸が飛び散った先の地面は大きな焼ける音、独特の臭気、大量の熱を伴いながら、あっという間に溶け、窪みを作っている。
これがノノさんの方に飛んで行ったら、ノノさんは一たまりもないだろう。
「ノノさんは常に俺を遮蔽物に使えるようにしてくれ! 俺はもっと確実に受け止めるために、もう少し前に出る!」
「わ、分かりました!」
「……。プルアッ!」
俺は三歩分前に出る。
その間にも硫酸スライムは再び硫酸の球体を撃ち出してくるが、それはもう一度俺が盾を構え、正面から受け止める事によって、無事に防ぐ。
そうして、硫酸スライムの攻撃に割り込めるし、攻撃を防いでもノノさんの場所にまで硫酸は届かない、ノノさんも攻撃後すぐに俺の陰へと入り込める位置にまで移動した。
俺の攻撃を硫酸スライムに届かせることは出来ないが、まずまずの位置だろう。
「魔よ、命となり、刃となり、回りつつ矢のように飛べ。『
「プルゥ!?」
そして、このタイミングでノノさんの放った『魔刃』が硫酸スライムへと襲い掛かった。