48:硫酸スライムとの決闘-2
「さて、スライムについて一言で述べてしまうなら、何でもありだ」
「何でもあり、ですか」
「ああそうだ」
オニオンさんが自分のPSSを操作し、近くの壁に幾つもの画像を投影していく。
どうやらPSSに追加出来る機能の類であるらしい。
「分かり易い所だと大きさだな。小さいのはノノの嬢ちゃんの目玉ぐらいのサイズが、大きいのだと主通りの長さと直径が等しかった奴までは検索で出てくる」
「まあ、平均的な大きさと言う意味では、私の腰から頭の高さくらいまでがいい所ね」
画像の内容は様々なスライムたちの姿だ。
その画像を大きさに絞って見ていくなら、オニオンさんの説明とドーフェさんの補足通り、大多数は人の腰から頭くらいの大きさになっているが、時々極端なサイズのスライムが混ざっても居る。
なお、サイズと戦闘能力に因果関係は存在しないらしく、俺の頭ぐらいのスライムが十数人相手に無双している動画もあれば、ビルサイズのスライムが一撃で消し飛ばされている動画も……いや、後者はこれ、相手の闘士が規格外なだけだな。
とりあえず、小さいから弱いは通じない、これだけは覚えておこう。
「倒し方に関わる範囲で重要になるのは核の仕様か。ノノの嬢ちゃんの世界のスライムは全身が核のパターンだが、この画像みたいに核があって、そこを貫かないと倒せないタイプのスライムも多い」
「オニオンさん、核が複数あったり、核がないパターンは?」
「そう言うのも時々居る。が、ハリたちが戦うレベルではまず出てくる事は無いから、今は気にしなくていいと思うぞ」
スライムの核についても様々なパターンがある。
が、俺たちのレベルだと全身が核に等しいか、核が一つしかないパターンが殆どのようだ。
ただ、核から切り離しても、飛び散った体を回収すれば元通りぐらいは想定しておいてもいい。
「能力については……今回は酸で固定して考えていいが、こっちも本来なら何でもありだな」
「あの、オニオン様。燃えているスライムも居るのは……」
「えーと、こいつはエタノルスライムだな。全身が酒で出ていて、この画像のは偶々火が燃え移っただけだな。ただ、中にはフレイムスライムやマグマスライムのように、自発的に燃える事が出来るのも居るな。本当に何でもありだから、今回のように能力が示されてない限りは決めつけない方がいい」
「な、なるほど……」
能力についても本来は様々だ。
ただ、今回はアシッドスライムあるいは硫酸スライムと言う名前なので、酸を使ってくると考えればいいだろう。
「でだ。ハリ、お前のPSSだと相手の名前は硫酸スライムになっているらしいな。硫酸ってのはどんな酸だ? 特殊な酸なら、何かしらの対処が必要になる」
「ハリ、この情報は重要よ。貴方には硫酸と言う物質についての知識がある。だからこそ、表示が変化したのでしょうから」
「分かってます。そうですね……」
そして酸は酸でも、硫酸と言う指定が入っているのだから、その性質は確実に利用してくるだろう。
と言う訳で、覚えている範囲で説明しよう。
「俺もそこまで詳しいわけではないですが、硫酸と言うのは、かなり強力な酸です。保存には特別な容器を必要としますし、岩や金属でも溶かす事が可能なはずです。人の肉や骨ぐらいなら容易に溶かせると思います」
「なるほどな。その特別な保存容器って言うのは?」
「ガラス製……だったかな? すみません、よく覚えてはいないです」
硫酸は本当に強力な酸だ。
限られた分野ではもっと強力な酸もあるだろうが、一般に広く知られている酸の中では特に強力な酸と言うイメージがある。
俺の強化魔法で守られている鎧や肌に触れた場合にどうなるかは分からないが、試さない方が無難だろう。
硫酸スライムが魔法を使えて、溶解させる能力を強化した上で攻撃を仕掛けてくる可能性はあるのだし。
「ハリ、他に何か思い出せる性質はある?」
「そうですね……。ああそうだ、ノノさん、水による攻撃は止めた方がいいかもしれない」
「水、ですか? どうしてです?」
「俺も詳しくは覚えてない。けれど、硫酸に水を入れるのは……なんだったかな、とにかく危険な行為だとされていたはず。その危険なのが硫酸スライムにとっても危険であるなら良いけれど、そうでないなら、こっちが一方的にリスクを負う事になるかも」
「なるほど……覚えておきますね。ハリさん」
ドーフェさんの言葉に俺はどうにか記憶を引っ張り出してくる。
ただ、詳しくは知らないので、使わないように勧めるのが限界だ。
硫酸が岩や金属でも溶かす事を合わせて考えると、今回のノノさんの攻撃は魔力を直接飛ばすものが主体になるだろう。
「ざっとこんなところか。後は何かあったか?」
「あ、そう言えばオニオンさん。今回のスライムはたぶん化け物枠なのでしょうけど、スライムが闘士として参加する事ってあり得ますか?」
「それか。普通にあるぞ。スライムの中には人型を取れる奴もいれば、学者並みに頭がいい奴も居るからな。俺の知り合いにも普通に居る」
「つまり、相手の知性が高い場合もある、と言う事ですね」
「そうなるな」
俺の言葉にオニオンさんが頷き、ノノさんは唾をのむ。
どうやら、ノノさんの認識を変える事には成功したようなので、この場での意味はあったようだ。
「ま、重ね重ね言うが、スライムってのは何でもありだ。何でもありである以上、ぶっちゃけた話として、出た所勝負になる。決闘の場で得た情報を基に細かい立ち回りは変えていくしかないな」
「要は決着がついたとアナウンスされない限り、気を抜いてはいけないと言う事。本当に厄介な相手だから気を付けなさい」
「分かりました」
「はい、よく覚えておきます」
これで基本的な情報のすり合わせは出来た。
その後、具体的な立ち回りをどうするかを俺とノノさんで相談し、オニオンさんとドーフェさんからもアドバイスを受け、その時はやってきた。
なお、これは余談となるが、『煉獄闘技場』におけるスライムとは、生きた液体の総称と考えるぐらいでちょうどよいらしい。