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47:硫酸スライムとの決闘-1

「壊せなかったなぁ」

「壊せませんでしたねぇ」

 さて、装備の更新をしてから四日経ち、休養権を切る日がやってきた。

 この日まで俺とノノさんは無限サンドバッグ相手に訓練を重ね、あの手この手で無限サンドバッグを破壊しようとしてきた。

 が、結局無限サンドバッグは壊せなかったし、数秒間だけ表面に傷を残すのが精いっぱいだった。


「そりゃあそうだろうよ。このサンドバッグを壊せるようになれば、火力だけだが中堅の下位扱いされる代物だぞ。俺だって壊せるようになるまで数年はかかったし、今でも最低限の気合は必要なぐらいだ」

「オニオンさんでもですか……」

「それは相当ですね……」

「まあ、火力特化になるであろうノノなら、数か月で壊せるようになってもおかしくはないと思うけどね。頑張りなさい。ちなみに私も数年かかったわ」

「が、頑張ります」

「その場合、俺もそれに見合うだけの防御能力を身に付けないといけませんね」

 なお、今日はオニオンさんとドーフェさんがやってきている。

 そして、その二人をもってしても、無限サンドバッグは壊すのに苦戦するらしい。

 ノノさんが壊せるようになるのはともかく、俺が壊せるようになるまでどれだけかかる事やら……。


「さて、無限サンドバッグについてはこれくらいにしておいてだ。ノノさん」

「そうですね。ハリさん」

「「?」」

 では本題である。

 俺もノノさんもPSSを取り出すと、横倒しにした無限サンドバッグの上に置く。


「神様、仏様、閻魔様、『煉獄闘技場』の主様。決闘そのものは直ぐに決めていただきたいですが、どうか、先日のように情報収集時間もろくに取れないような状況にはなりませんように……」

 俺は二拝、二拍手、一拝の上で、PSSに向けて祈りを捧げつつ、休養権を切る。


「主たる光の神様、対為す闇の神様、従する魔の神様、火の神様、水の神様、土の神様、風の神様。そして『煉獄闘技場』の主様。どうか、私たちの願いをお聞き留めくださいませ……」

 ノノさんも何かの言葉と所作をしつつPSSに祈りを捧げ、休養権を切る。


「あー、なんと言うか……前回は悪かったな……」

「何をやったのよ。オニオン」

「フラグ立てみたいな感じだな」

「じゃあ、仕方がないわね」

 オニオンさんとドーフェさんが何か言っているが、俺もノノさんも気にせずに祈り続ける。

 そして、祈りの成果は直ぐに出た。


≪決闘が設定されました≫

「来た」

「来ましたね」

「「……」」

 まずはいつもの決闘が設定されたと言うアナウンス。


≪決闘の開始は3時間後になります≫

「セエエエェェェフ……」

「ほっ……」

「まあ、新人ならそうだよなぁ……」

「私は何も言わないでおくわ」

 続けて、決闘の開始が3時間後に設定されたと言うアナウンス。

 どうやら祈りは叶ったらしい。


「ありがとうございます。決闘頑張らせていただきます」

「ありがとうございます。精一杯戦いますね」

 と言う訳で、俺もノノさんもまずは礼を言う。

 こう言うところで礼を失すると、相手が相手なだけに失礼では済まないからだ。


「さて、問題はどんな相手と決闘をするかだな」

「そうですね。早速確認しましょう」

 では、決闘に備えた行動を始めよう。

 とは言え、3時間と言う時間と、俺たちの手持ちのポイント的に、神殿で何かを回収してくることは出来ない。

 出来る事と言えば、相手がどんな存在であるのか、どんな攻撃を仕掛けてくるのか、どんな攻め方をすればいいのか……つまりは情報収集と戦略戦術の検討である。

 それでは肝心の相手について確認してみよう。


 『PvE:ハリ・イグサ & ノノ・フローリィ VS 硫酸スライム 』


「硫酸スライムか」

「アシッドスライム、ですか」

 また俺とノノさんで、微妙に相手の名前が異なっている。

 これはもしかしなくても、所有している知識量の差によって、表示される名前に違いが出ているのだろうか。

 まあ、その辺については決闘の後、時間がある時にやればいい。

 それよりもだ。


「スライムか……面倒な相手だな」

「そうね。何が出てくるかが読めないわ」

「ああ、やっぱりそうなんですね」

「え? そうなんですか?」

 相手がスライムである点から、オニオンさん、ドーフェさんが面倒そうな表情をし、俺はやっぱりと言う表情をし、ノノさんは俺たちの表情の理由が分からないと言う顔をしている。

 うん、ノノさんにきちんと説明した方が良さそうだ。


「ノノさん、ノノさんの世界のスライムはどんなのだった?」

「そうですね……私はよく知らないですけど、色々なものを取り込み、溶かし、代わりに栄養豊富な水や土、あるいは魔力を吐き出す。けれど、とても弱くて、ちょっと魔法を浴びたり、突かれたりしても死んでしまうような弱い生物。そう言う扱いでした」

「なるほど」

 やはりと言うか、ノノさんの世界のスライムは弱いスライムであるらしい。

 だが、『煉獄闘技場』の決闘の場に出てくるようなスライムが、そんな弱い存在である事は無いだろう。

 しかし、弱くないのは確かであるが、どう強いかは分からない。

 と言うのもだ。


「ノノさん、もしかしなくても、ノノさんが思っているようなスライムとは全くの別物が出てくると思う。ただ、どんなのが出てくるかは分からない。スライムと言うのは、非常に幅広い存在だから。そうですよね。オニオンさん」

「ああそうだな。相当厄介な相手だ。手早く説明していくぞ」

 スライムは何でもありと言っても過言ではないからだ。

10/09誤字訂正

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