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46:二人での購入-4

「さて、これが訓練用のターゲット……無限サンドバッグだな」

「結構大きいですね。ハリさん」

「まあ、俺と同じくらいの大きさがあるからな」

 神殿から戻ってきた俺たちは、早速看板を糸通りの途中に設置して注意喚起をすると共に、無限サンドバッグを道の真ん中に置き、攻撃しても位置がずれないように固定する。


「固定良し。スプリングの調子も問題なし。新品だから当たり前だけど、傷の類もなし、と」

「壊れた時は何処から新しいのが出てくるんですか?」

「道への固定に使った、この下部部分から生えてくるらしい」

「なるほど」

 ちなみに、その新しいのが生えてくる下部部分だが、見た目には固定が可能なキャスターと折り畳みが可能な持ち手が付いた直径50センチほどの金属の輪と言う感じである。

 ……。

 よく考えてみたら、サンドバッグの方が派生部分で、こちらの金属の輪の方が本体なのでは?

 設定もこっちの輪の方で色々と弄れるみたいだし、ポイントを支払えばこの場での各種アップグレードも可能なようだし、収納性能向上とやらで必要な時だけサンドバッグを生やせるようにする事も可能なようだし……。

 まあいいか。


「さて、それじゃあまずは軽く俺から試してみるか」

「頑張ってください、ハリさん!」

「ああ、頑張らせてもらうよ。ノノさん」

 俺はサンドバッグから少し距離を取り、神殿で新しくした棍を構える。

 両端に付けた金属の影響で全体の重量は増しているが、地道な筋トレのおかげでむしろちょうどいい感じの重さになっている。

 また、先が割れ、二股になっている両端での突きは、俺が十全に扱えれば、二股になっているからこその強みを見せてくれることだろう。

 では、壊す事は叶わないだろうが、試していこう。


「せいっ!」

 まずは魔力を込めず、勢いもつけず、体勢を崩すような無理もしない、本当に基本の一撃。

 当然ながら、サンドバッグは少し反っただけで、傷つく事は無い。


「ん?」

「なんでしょうか?」

 そんな一撃を撃つと、サンドバッグから何かの表示が出てくる。


「ああなるほど。便利だな、これ」

「こんな機能も付いているんですね」

 どうやら、今の一撃を基準として、これからサンドバッグに与えたダメージを表示するか否かを選べるようだ。

 ちなみにログ機能もデフォルトで付いているそうだ。

 相変わらずの超技術である。


「じゃあ、オンにしてだ。改めて……ふんっ!」

 俺は改めて棍を振るっていく。

 ただの突き、体を引いて体重を乗せた突き、そこへ更に捻りも加えた突き、距離を取って助走もつけた突き。

 ただの振り下ろし、ただの振り上げ、強く踏み込んでの振り下ろし、強く踏み込んでの振り上げ、振り下ろしから勢いを生かしての追撃。

 ただの横払い、強く踏み込んでの横払い、突きから裏拳に近い挙動で以っての攻撃、棍を大きく振り回して遠心力を乗せた一撃。

 『煉獄闘技場』に来た頃の俺ならば、これだけで息が上がり、倒れそうになるような動きを、息を荒げず、可能な限り滞りなく繋げていく。


「いい感じですね。ハリさん」

「だな。どのぐらいの威力が出ているかも視覚的に分かり易いし、ただひたすらに棍を振るっているよりも、上手くいっている感じがする」

「いえその、そう言う意味ではなく……」

「ん? ああ、自分の上達具合についてもいい感じだと思うよ。褒めてくれてありがとうな。ノノさん」

「はいっ!」

 ここで一度休止。

 幾らか距離を取り、改めて棍を構え直す。

 うん、無限サンドバッグのおかげで、どういう動きなら威力が出るかが分かって、この知識は実際の決闘でも参考になるだろう。


「じゃっ、此処からは魔法込みだ。すぅ……ふんっ!」

 俺は自分の肉体と装備に魔法による強化を行う。

 俺の身体が魔力を帯び、煌めきを持つ。

 そして、この状態のまま、先ほど行った動きを再び行う。


「はあっ、はあっ、すぅ……ふぅ、いや本当に、分かり易く差が出るな……」

「そうですね。凄い差がありました」

 結果。

 魔法の有無の差がどれだけ重要であるかがよく分かった。

 ただの突きでも出てくるエフェクトの量が倍近い感じになっていたし、渾身の力を込めた一撃ならばそれ以上に強化されていた。

 ゲーム的な表現になってしまうが、どうやら、強化魔法込みの攻撃と言うのは、基本的な攻撃力に加算を行った上で、強烈な攻撃であればあるほどに強力な乗算がかかるようになっているらしい。

 そりゃあ、魔法の有無でまるで別物の攻撃になるはずである。


「しっかし……こうなると……やっぱり、強化魔法の扱いは前衛だと基本にして奥義のようになるか。もっと慣れないとな」

 うん、前衛として防ぐ立場に俺は居るのだから、魔法込みの攻撃の防ぎ方はきちんと考えないと拙そうだ。


「後、これだけ撃ち込んでも傷一つ付かないのか。とんでもないな」

「本当ですね。驚きました」

 ちなみにサンドバッグは傷一つ付いていない。

 盾として決闘の場に持ち込むことが出来ないのが、残念なぐらいの強度である。


「じゃあ次はノノさんどうぞ」

「はい、分かりました」

 で、次にノノさんが試したわけだが……。

 やはり魔法による攻撃と言うのは、俺の攻撃とは段違いであるらしい。

 ノノさんの手持ちで一番弱いであろう『水球(アクアボール)』の攻撃でも、俺の魔法込みのそれなり威力な攻撃よりも強く、最近学んでいた魔法に至っては、俺の渾身の一撃の倍は確実に出ていた。


「こ、壊れませんね……」

「ま、まあ、他の機能もあるから、高い買い物にはならないと思うけどな……」

 そして、それだけの攻撃を撃ち込んでも、無限サンドバッグの表面には僅かに傷がつく程度で、その傷もほんの数分で消えてしまった。

 これ、本当に壊せるのだろうか……。

 まあ、別に壊せなくても問題はないのだが……。

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