45:二人での購入-3
「さて、残すは趣味……と言うよりは、訓練や決闘には直接関わらない部分か」
俺とノノさんの強化はとりあえず完了した。
この状態で明日から四日間訓練と調整を重ねた後、次の決闘に挑むことになるだろう。
だが、折角神殿に来たのだから、他にもやれる事はやっておくべきだ。
「えーと、必要なんでしょうか? その、少しでも多く貯めておく、と言うのもありだと思うんですけど」
「必要だとも。オニオンさんはこの分野の事を趣味と称したけれど、実際には効率的で質の高い休息を取るための投資とも言えるからな。多少極端な例えかもしれないが、石の上に直接寝そべるのと、ある程度の厚みのある藁の上で寝るのと、休息のためにしっかりと作られたベッドの上で寝るのじゃ、起きた後の身体の状態が全くの別物になるからな」
「なるほど……」
「そんなわけで、ポイントがないなら後回しになるけれど、そうでないなら衣食住はある程度は充実させておいた方が、訓練と決闘、どっちにもいい影響があるって事だな」
まずは衣食住の改良。
メリットについては言わずもがな。
寝具一つにしても、冗談抜きに訓練の効率などが変わってくるので、予算があるならアップグレードは考えておくべきだろう。
「問題はどれから手を付けるべきかだけど……」
では、具体的にどう変えていくかを考えよう。
「食事は……大丈夫ですよね」
「そうだな。大丈夫だと思う。今の食事は毎日食べても飽きが来ないぐらいだから。仮に少し良いものや違うものが食べたくなったら、PSSでAMOL地区内にある飲食店を探して食べに行くか、素材を買って調理……するには厨房の用意が必要だから厳しいか。まあ、とにかく普段の食事のアップグレードはしなくても大丈夫だと思う」
「じゃあそれ以外からですね」
食事は現状不満はない。
それに次のランクに上げるのに必要なポイントは6ポイント。
趣味の財布に入れたポイントがそれだけでなくなってしまう。
そう言う意味でも、今は手を出す分野ではないだろう。
「衣服は正直欲しい。『煉獄闘技場』内は謎の技術のおかげで常に清潔だけど、今は着た切り雀だし」
「キタキリスズメ?」
「ん? ああ、珍しく翻訳の対象外になったのか。衣服に替えがなくて、同じ服を着続けているって事。どうしてか俺の世界だとそこに雀まで付いてくるんだよな。たぶん、何かしらの民話、伝承の影響何だろうけど」
「なるほど」
次に衣服。
うん、ぶっちゃけ欲しい。
と言うのもだ。
「まあ、話を戻して。替えの衣服については欲しいんだよな。今後装備が充実していくと、訓練と決闘の時以外に身に着けるには嵩張ったり、重かったりで問題になりそうだし、なにより眠りづらいから」
「それは……分かりますね。私の服なら大丈夫ですけど、ハリさんが身に着けているのは鎧ですもんね」
「そうそう」
シンプルに寝づらいのである。
いやまあ、寝る時は外せばいいと言えばその通りなのだが、外したら外したで、他に身に着けるものがないので、部屋の外には出られないような状態なのだ。
「えーと、随分と安いな」
「一式で1ポイント。確かに安いですね」
と言う訳で検索。
丈夫でシンプルなデザイン、上下のインナー、Tシャツ、ズボンと言う一式、材質にはそこまで拘らず、という条件で調べてみた。
結果、4つの衣服で一式となる形で、一式1ポイント。
実に安い。
部屋着としては勿論の事、外出着としても使えそうなレベルでこの値段は本当に安いと思う。
「住関係でいいのがなければ、これを3セットくらい購入しようかな……。使いまわせば、普段着にはとりあえず困らなくなる」
「そ、そうですか」
えーと、お気に入りと言うかブックマーク機能と言うか……あったあった、これで別なものを見て回った後、直ぐに戻ってこれる。
「さて、残すは住関係か。ノノさんは何か思いつく?」
「そうですね……あ、少し前に話した、訓練に使う目標や、私たちの部屋の前の糸通りの私有地化とかはどうでしょうか?」
「ああ、それがあったか。じゃあまずはそれを検索してみよう」
では次、住関係。
まずはノノさんが求めた訓練用のターゲットと、部屋の前の私有地化と言うか……ある意味だと部屋の範囲の拡大か。
「ターゲットは使い捨てなら1ダースで1ポイント。無限式なら1体で12ポイントか」
「使い捨ては分かりますけど、無限式と言うのは?」
「えーと……壊れる度に新しいのが出てくるらしい。ああなるほど、新しいのが出てくるまでにかかる時間を長くすれば、それだけ購入にかかる費用が抑えられるらしい。一回の再生に一日なら3ポイントだそうだ」
「だったら無限式のが良さそうですね」
「だな」
さて、訓練用のターゲット。
俺が今見ているのは身長180センチの人型ターゲット……と言うか、持ち運びがしやすいように底部分に色々と付いたサンドバッグと言う感じだ。
まあ、これを購入するなら、1日1体でいいから、無限に出てくる方がお得だろう。
36回壊せば元が取れる計算であるし。
ちなみに、きちんと人間の形をしたもの、特定のモンスターの形をしたもの、反撃や自立行動を取るものなど、色々とアップグレードできる項目があり、そちらに手を出すと、当然ながら値段も跳ね上がっていく。
「後は糸通りの占有、優先権の獲得、ミーティングに使えそうな新しい部屋……」
「……」
「この先訓練中の看板」
「これでいいと思います。ハリさん」
「だなぁ……」
続けて住居の範囲拡大に関わるような事柄についてだが……はい、高い、無理。
当然なのかもしれないが、自分だけのスペースと言うものは、非常に高くつくらしい。
優先権に抑えるとか、他にも色々と安くなりそうな条件は付けてみたが、今の俺たちに手が出るようなものではなかった。
今の俺たちが手を出せるのは、1ポイントで購入できる『この先訓練中の看板』ぐらいなものだ。
なお、この看板に拘束力強制力の類はなく、見た人間に注意を促すだけである。
『煉獄闘技場』公式のものなので、元が何処の世界の住民に対しても意味が通じるようになっているようだが。
「ま、もっと広い部屋だとか、その辺の夢についてはもっと余裕が出来てから叶える事にしようか。ノノさん」
「そうですね。そうしましょう。その時は一緒にポイントを払いましょうね。ハリさん」
「勿論だとも」
結局、俺は服を3セットと最低レベルの無限サンドバッグを1体。
ノノさんは服を3セットとこの先訓練中の看板を1つ。
それぞれに購入した。
なお、購入の際には無限サンドバッグの購入費用を1ポイント分ノノさんも払うと言う申し出があったが、そこは俺が固辞しておいた。
ノノさんは貯められるポイントは少しでも貯めておくべきである。
ちなみに、こちらの購入物は部屋にお届けしてもらえるとのこと。
相変わらずの便利さである。