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44:二人での購入-2

「さて、ノノさんが改善する点となると……魔法の連続使用が出来るようになる事か、一回一回の魔法の威力を高める事か?」

「そうなると思います。でも、後者の威力については、刃の魔法と矢の魔法が完成すれば、十分に補えると思いますから、魔力の補給手段や効率を上げるのがいいと私は思ってます」

「なるほど」

 ノノさんの強化については……やはり魔法関係になるだろう。

 ノノさんは呪いの都合上、重い防具を身に付けたり、武器を振り回したりが出来ず、魔法に専念するのが正解と言う立場だ。

 また、俺が前衛として敵を惹きつける事が出来ているのなら、ノノさんには補助や防御ではなく、攻撃に専念してもらう方が、俺としても楽になる。

 で、魔法の火力を向上させる目途も付いている。

 となれば、ノノさんの言う通りに魔力の補給手段の確保や、使用時の効率の向上、これを補うようなものが良い事になるだろう。


「魔法の効率と言うと、今使っている杖を改良する感じか? いやでも、あー、この辺とかちょっと危ないか」

「そうですね。この時は少し転びそうになっていて、杖のおかげで大丈夫でしたけど、杖を落としてしまう感じもありました」

「ふむふむ」

 それを踏まえた上で、俺とノノさんは絡繰穿山甲との決闘を見直してみる。

 すると、俺が絡繰穿山甲とのやり取りに集中している間、少し慌ててしまったのか、俺の視界に入らない場所でノノさんが転びかけている姿が見えた。

 で、この時のノノさんは杖を支えにする事で転倒を防止したが、もしもそれが間に合わず、それどころか杖を手放してしまっていたらと考えると……中々に怖い場面でもある。


「ノノさん。確か、魔法を使うのに杖は必須じゃないし、杖の形に拘る必要もなかったよね?」

「はい、その通りです。だから実を言いますと、こう言うのを考えてみたんです」

 ノノさんが画面を弄り、一つの物体を提示する。

 それはシンプルなデザインの腕輪で、杖に付いているのよりもサイズを小さくした水色の宝石のようなものが填め込まれている。


「腕輪型か……一緒に使えば、杖で狙いを付けて、腕輪の方で細かい調整をするとかも出来る感じ?」

「あ、その発想はありませんでした。少し調整しますね。ハリさん、他には何かありますか?」

「うーん、そうだなぁ……相手の知性次第では、ノノさんが杖を落とした時に不意打ちを狙ったりも出来そうだけど……腕輪そのものに何かを付けると言うのは、他には特に思いつかないかな」

「そうですか。でも、ハリさんのおかげで、このサイズとポイントにしては良い感じの補助になりそうです」

 どうやら二つ目の発動補助の道具のようだ。

 発動補助の道具をある程度分散しておくのは悪い事ではないし、役割を分ける事で性能の向上を図れるのも悪くないだろう。

 デザインに関しては……俺のセンスではいい感じのは思いつかない。

 ちなみにお値段は10ポイントであり、ノノさんが強化に回す予定のポイントは、これで残り2ポイントである。


「残りの2ポイントは魔力の補給手段?」

「はい、魔力を直ぐに回復できる薬みたいなものがあれば、先日のようにハリさんがただ耐えるだけの時間を生まなくてよくなると思うんです」

「それは確かにそうだな。ただ……」

「ただ?」

「んー、とりあえず支払いはしないで、購入予定の薬の外見と言うか詳細を見せてみて」

「えーと? 分かりました。ハリさん」

 残りの2ポイントは、今回は魔力の回復薬に回すらしい。

 瞬間火力、継続火力、どちらの面で見ても即時回復は重要だと思うし、決闘の勝敗を分ける可能性も少なからずありそうなので、それ自体は確かに必要だろう。

 しかし、だからこそ気にするべき点がある。


「あー、やっぱりか」

「やっぱりと言うと?」

 表示されたのは瓶詰めされた青色の液体。

 粘性はさほどなく、画面の中でちゃぷちゃぷと揺れている。

 コップ一杯分程度の量がありそうな、これを飲むことによって、ノノさんの魔力が空っぽの状態から満杯になるまで回復できるようだ。


「ノノさん。どうやら薬関係はかなり細かい部分まで弄れるっぽいぞ」

「?」

「そうだな。例えばだ」

「これは……」

 では、ここで必要ポイントは2ポイントのまま、薬の状態を液体から固体に変えてみる。

 すると表示されたのは、パッケージングされた8個ほどのタブレットだった。

 この状態だと8個一度に使えば、先ほどの液体と同じだけ回復するが、1個ずつ使ってもいいようだ。


「他にも気体の薬もあるし、お札? とりあえず破れば使えるタイプ、軟膏の形になっているもの、粉薬、カプセル、パッチ……液体であっても、注射、体にかけても使えるもの、瓶の素材を敢えて脆くする事で他者に投げつけて使えるようにしたもの、色々とあるみたいだな」

「え、えー……」

「包装の素材も当然のように弄れるし……おっと、使用期限の設定まで出来るのか。いや、味に匂い、食感まであるな。使い捨てアイテムだからこそなんだろうけど、何処まで設定できるんだ、これ」

「その、ハリさん、良く気づきましたね」

「うんまあ、何となく気になってな。状況によっては使えない形式の薬もあるだろうと思ったから、調べてみたんだが……これは想像以上だな」

 どうやら『煉獄闘技場』では薬と言うものは、拘ろうと思えば徹底的に拘れる道具であるらしい。

 これはどういう状況で使う事になるか、その状況にどれぐらいの可能性でなり得るか、他にも色々と思いつく範囲内に存在する設定の全てをきちんと考えた方がいいのかもしれない。


「どうする? ノノさん」

「どうしましょうか……魔力の回復が素早く出来れば良くて、使わずに駄目になっちゃうと困りますし、ハリさんに使う事も考えた方がいいんでしょうか?」

「んー、俺に対して使う事は考えなくてもいいと思うけど、場合によっては飲まなくても大丈夫と言うのは割と大事だし、相手の攻撃で駄目になる可能性を下げておくと言うのも大切だよな」

 俺とノノさんは悩んだ。

 悩んだ結果として、値段は2ポイントで、魔法を三回使える分くらいの魔力を回復、使用期限なし、攻撃によって駄目になる事もなし、飲む以外にもかけても使う事が出来る水薬に落ち着いた。

 なお、この結論に行きつくまでに、俺の強化とノノさんの腕輪、二つ合わせたよりもなお長い時間がかかった事は言うまでもない。

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