<< 前へ次へ >>  更新
42/132

42:舞台裏-2

「見事な戦いぶりでしたね。オニオン・オガ・マスルロド・キドー」

「お褒めにあずかり光栄です。我らが主」

 炎精(サラマンドラ)巨人(ギガント)強欲堕落(グリドコラプス)との決闘終了後。

 自宅に戻ったオニオンの前に『煉獄闘技場』の主である神が姿を現す。

 なお、オニオンの自宅はハリとノノの部屋のような狭いものではなく、普通サイズの人間が数十人集まってホームパーティが出来るような立派なものである。

 また、この場にはオニオン、神の他にも、数人のドーフェや、ハリが知らない闘士や家事手伝いが何人も居た。


「しかしまあ、相手側も引くに引けないんでしょうが、また随分と大物を出してきたもんで。ノノの嬢ちゃんを苦しめるためだけに寄こすには、今日の俺の相手は強すぎるでしょうよ」

「そうですね。今日の相手は考えるまでもなく強すぎる。なので、今日に限っては相手側の思惑はこちら側の最高戦力を調べるのが目的だったのでしょう。ですから、少なくとも『煉獄闘技場』全体を巻き込むような戦争は起きない事が確定しましたね。相手視点では、勝ち目がありませんから」

「あらま、そうですか。じゃあちょっと失敗したかもなぁ……」

 神の言葉にオニオンは少し残念そうな顔をする。


「もう少し手を抜くべきだったわね。オニオン」

「あーあ、折角の稼ぎ時がなくなっちまったよ」

「オニオンの脳筋めー」

「そーでやんす! そーでやんす!」

「そんなんだからオニオンは凡人止まりなのよー」

「うるせぇ! お前らな、そう言うセリフは俺より強くなってから言いやがれ! 俺は凡人の到達点なんだから、超えられないとは言わせねえぞ!」

 が、その表情が長続きする事は無く、周囲からのヤジに半分笑顔半分作った怒りの表情で応える。

 なお、彼らの言う凡人の到達点とは、戦いについての特別な才能がなくても『煉獄闘技場』の仕様を理解して鍛え続ければ、誰でも行きつける強さと言う意味である。

 そして、オニオンの強さが中堅の上位と言う事は、更にその先があると言う事でもあるが……端的に言えば、そこは怪物の巣窟であり、超人・異常者・狂人の集まりとも言える。

 しかし、この事については、今回この場での集まりが行われた事とは無関係であるため、割愛する。


「まったく……それで、我らが主。我々の働きの評価は?」

「勿論満点です。12戦やって8勝4敗、相手が引くに引けない良い塩梅ですし、勝利の映像も高く売れる事でしょう。ですので、貴方たちには特別報酬も渡します」

「「「ーーーーー!」」」

 神の言葉に歓声が上がり、ハイタッチも交わされ、喜びを分かち合う。

 が、その中でオニオンとドーフェだけは神の前で真剣な表情のまま立っている。


「となると後はハリとノノの嬢ちゃんが上手くやるか次第って事ですか?」

「不安になる話ね。勝てない組み合わせになる相手は私たちに回されるけど、裏を返せば戦える相手は積極的にあの二人に回すと言う事になるわけだから」

「ええ、その通りです。ノノ・フローリィに呪いをかけた邪神は、己の在り方、信者の信仰、その他諸々の理由から、今の状況程度では彼女への攻撃を止めることは出来ません。これまでにこちらへと売りつけて来た存在がどんな相手と戦ったかを見る事で、どの程度の実力ならばノノ・フローリィと戦わせることが出来るかも予測したはず。なので、次からは向こうの要望もあって、戦える相手なら戦わせる他ないでしょう。ですから、私としては勝敗はどちらでもいいのですが、ノノ・フローリィの世界の主神としては、なんとしてでもハリ・イグサとノノ・フローリィに勝って欲しい所でしょうね。勝てば更なる攻撃材料になるでしょうし」

「実に楽しそうで。我らが主」

「実際楽しいです。と言うより、己の在り方を賭けた者同士の戦いを眺めるのが楽しくないわけないじゃないですか」

 対する神は笑顔で己の見解をオニオンたちに伝える。


「しかしまぁ、件の邪神はよく諦めないもんだ。俺だったら『煉獄闘技場』に魂が逃げ込んだ時点で諦めるけどな」

「だよなぁ。こっちに化け物を送り込んでいる辺り、知識や知性が無いわけでもなさそうだし」

「その辺は邪神だからなんだろうな。舐められたら終わりなんだろ」

「あーなるほど。信徒は獲物を仕留めたのに、神様は獲物を逃がしましたじゃ、面目丸潰れって事か」

「いやぁ、そうなると神様も大変だなぁ。はっはっは」

 神の言葉を受けてか、オニオンたち以外の闘士たちも好き放題に意見を言い始める。

 顔が元の肌色とは別に赤くなっている人物もいる事と、周囲に漂う匂いから分かる事であるが、若干お酒が入り始めているらしい。


「お前らな……あー、それで我らが主。実際のところ、ハリとノノの嬢ちゃんが、その邪神の手のものと戦う機会は何時ぐらいになりそうなんで?」

「そうですね……。後一戦か二戦は挟むことになりそうです。その頃にはちょうどいい相手も届き、二人もいい具合に成長している事でしょう。実に楽しみですね」

「まあ、そうですね」

「では、私はこの辺りで失礼させていただきましょうか。こちらに特別報酬とはまた別物として、NATO地区で作られた、おつまみ系の特製発酵食品を置いておきましょう」

「「「ヒュー! 流石は我らが主は分かってるうぅぅ!!」」」

 そうして神は去り、いつの間にか宴会と化している場はさらに盛り上がっていく。


「ハリとノノの嬢ちゃんは勝てると思うか? ドーフェ」

「本人たちの努力と……運次第ね。現状では何とも言えないわ。オニオン」

 その中でオニオンとドーフェは真剣な顔で酒を酌み交わしていた。

09/19誤字訂正

<< 前へ次へ >>目次  更新