41:オニオンの決闘-1
「始まりましたね」
「だな。しかし……闘技場の広さが全然別物だな」
「本当ですね……」
オニオンさんの決闘が始まろうとしている。
舞台はいつものコロシアムだが、広さが直径100メートル以上はありそうな感じで、かなり広い。
これはつまり、それだけの広さがオニオンさんか決闘相手には必要だと言う事だろう。
また、客席には結構な人数が入っているように思える。
『さて、どんな相手が来るのかね』
『『『ーーーーー!』』』
「凄い歓声ですね」
「流石はオニオンさん」
オニオンさんが闘技場に現れると同時に、客席から歓声が響き渡る。
で、オニオンさんの格好だが、どうやら決闘専用の格好であるらしく、全身を覆うウェットスーツのような服の上に、数珠、虎柄の腰巻、金属製の脚甲などを身に着け、腰には幾つかの筒も提げられている。
どの程度の装備なのかは分からないが、少なくとも俺とノノさんが身に着けているものとは比べ物にならないような高級品だろう。
『ヒヒッ……』
『来たか』
「これは……」
「炎……」
決闘の相手である
その姿を一言で表すならば、炎の巨人だろうか。
だが、頭髪が炎で出来ているだとか、肌が真っ赤などと言うレベルではない。
炎が、身長20メートル近い巨人の姿を象っている。
しかもこの炎の巨人の炎は純粋な炎ではなく、何かが混じっているようで、妙な黒と言うか嫌な感じが時々漂っている。
一応、実体はあるらしく、足が地面を踏むような音は聞こえているが……いやこれ、こんなものどうすればいいんだ?
≪決闘を開始します≫
俺がどう攻略すればいいのか、糸目も見つけられずに困惑する中、決闘開始のアナウンスが響く。
『行くぞおらぁ!!』
「!?」
先手を取ったのはオニオンさんだった。
オニオンさんが地面を蹴り、姿が消え、次の瞬間には炎の巨人の目の前に腕を振り抜いた状態で現れていた。
そして、腕を振り抜いたと言う事は攻撃したと言う事であり、顔面を勢いよく殴られた炎の巨人は大きく仰け反っていた。
『はっ、この程度かよ!』
オニオンさんが追撃をする。
当たり前のように虚空を踏みしめて炎の巨人に接近し、俺の目でもギリギリ追えるスピードである代わりに、恐ろしいと感じる量の魔力を両方の拳に込めて、炎の巨人に叩き込んでいく。
オニオンさんの攻撃の連打に炎の巨人は堪らずと言った様子で、背中から転倒し、大きな音と砂煙を上げる。
「……。なんというか、次元が違い過ぎる」
「そ、そうですね。ハリさん」
オニオンさんが強いのは知っていたが、これほどとは……。
いやでも、オニオンさん、以前何処かで自分は闘士としては中堅くらいだと言っていたような……。
深く考えないでおこう。
今の俺が考えるには遠すぎる。
『ヒヒヒッ』
『うおっ!?』
と、ここでこれまで殴られるばかりだった炎の巨人が爆発。
爆風によってオニオンさんが吹き飛ばされる。
いや、爆心地周辺が火の海になっている事を考えると、ワザと飛んだ?
うーん、判断が付かない。
『ヒーッヒッヒッヒ!』
『はっ、そう来なくちゃなぁ!!』
炎の巨人がその巨体からは想像がつかないような速さでオニオンさんに接近していく。
そして、不自然なほどに長く伸びる腕で以ってオニオンさんを殴りつける。
が、オニオンさんはこれを拳で迎撃、弾き飛ばす。
それから直ぐに反撃に転じようとオニオンさんは前に出ようとするが、炎の巨人は少しだけ下がり、伸びる両腕を振るう事で、オニオンさんを近づけないようにする。
「やっぱり……」
「やっぱり?」
と、此処でPSSの画面を覗くノノさんが何かに気が付いたらしく、何かを言いたそうな顔をしている。
「ノノさん、何がやっぱりなのか話してもらっても?」
「あ、はい。ハリさん。たぶんですけど、この魔物は私の世界に居た魔物です」
「ノノさんの世界の魔物?」
どうやらこの炎の巨人はノノさんの世界の魔物であるらしい。
その証拠と言えるかは分からないが、炎の巨人の周囲をよく見てみると、ノノさんが魔法を使う時と同じように、周囲の魔力を活用する形で自分の身体を構成する炎を増やしているように見える。
また、炎を槍にして飛ばしたり、炎を剣の形にした上で握ってさらに射程を伸ばしたりもしているのだが、こちらの炎の発生にしてもノノさんの魔法によく似ているように思える。
「はいそうです。でも、何て言えばいいんでしょうか? 私の世界に居た魔物なのは間違いないのに、何か妙なものが混ざりこんでいると言うか、嫌な感じがするんです」
「ふうむ……」
嫌な感じ、か。
となると、ノノさんを呪った邪神関係だったりするのだろうか?
いや、それだったらノノさんに向けて直接送り込んでくるか?
うーん、その辺は分からない。
分からないので、ノノさんが言うところの嫌な感じによって何が起きているのかを見る事に集中しよう。
『ほー、なるほどな。そう言う手合いか。多少は面白くなってきたじゃねえか』
『ヒホホホホッ』
「ん?」
「ハリさん?」
「いやその、何となくだが、相手が大きくなってきているように……まさか、こいつ、オニオンさんの魔力を吸っているのか?」
「!?」
そうして見た結果として、何となくだが、炎の巨人が大きくなり、オニオンさんの纏う魔力が少なくなっているように思えた。
なるほど、周囲の魔力を利用するの中には、相手の魔力を吸収すると言うのもあるのか。
その事実にどうしてかノノさんが驚いているが……どういう事だろうか?
『ヒッホホホノオオオオォォォ』
『!?』
「オニオンさん!?」
「オニオン様!?」
と、ここでオニオンさんとの殴り合いを演じていた炎の巨人が、炎のブレスを放つ。
そのブレスはオニオンさんの全身を瞬く間に飲み込む規模を持つと同時に、地面を溶かしてガラス状にするほどの高温を持っていた。
そのような炎に耐えられるわけもなく、ブレスが終わった後にオニオンさんが立っていた場所にあったのは人型の炭の塊だった。
「くっ、オニオンさん……ん?」
「そんなオニオン様……あれ?」
『ヒホホホホホッ』
オニオンさんが負けた。
俺とノノさんがそう思い、炎の巨人が嘲笑を響かせる。
が、決闘終了のアナウンスが響かない。
『おう、やってくれたじゃねえか』
『ヒ……ホッ? ブビャッ!?』
「えー……」
「ほへー……」
その事に気づいた次の瞬間。
炎の巨人は頭の上から何かに殴られて、地面に転がっていた。
いつの間にか、空中には全身真っ黒の炭と化した肌の間から、筋肉の赤を覗かせるオニオンさんが立っていた。
炭と化した肌が崩れ、代わりに赤い肌が現れて全身を覆っていく。
どうやら、再生魔法の類であるらしい。
『それじゃあ今度はこっちの番だ。さ、存分に食らってくれ。食べられるものならなぁ!』
『ヒ……ヒヒヒッ……ヒギャアアアァァッ!?』
オニオンさんが虚空から何かの瓶を取り出し、その中身を自分の両手にかける。
そして、その状態で最初の時と同じように連打を行い、最初の時とは違って文字通りに相手の身体を消し飛ばしていく。
『これで終いだぁ! 『鬼暴の一・キィガタラオーゴケン』!!』
『!?』
「「!?」」
そうして最後の一撃として、もはや恐ろしいとしか表現できない量の魔力を右腕に集め、金色に輝くそれを炎の巨人に叩き込み、完全に消し飛ばした。
気のせいかもしれないが、俺たちが居る辺りまで揺れたように思えた。
『ふははははっ!』
唖然とする俺たちに向けるかのように、オニオンさんの高笑いがPSSから響いた。
なお、オニオンさんは『煉獄闘技場』全体で見れば、中堅上位程度の実力者です。
09/19誤字訂正