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40:強化魔法の習熟-2

「むー……むん、ふっ、せいっ!」

 三日経った。

 俺とノノさんの魔法を扱う訓練は割と順調に進んでいると思う。

 俺に関して言えば、強化魔法を発動するのにかかる時間は2秒ほどになり、歩いたり、軽く腕を振り回したりぐらいなら、纏っている魔法が剥がれないようになってきた。

 また、何となくだが、俺の強化特有の仕様として、手足の滑りが抑えられると言う性質があるのも分かってきた。

 どの程度使い物になるかは分からないが、足が滑って転んだり、手が滑って武器を落としたりは抑えられそうだ。


「魔よ、水となり、刃となり、竜巻のように……回れ! 『水刃(アクアエッジ)』!」

 ノノさんについても、長さ数十センチ程度の三日月状の水の刃を作り出して、作り出したそれをその場で高速回転させることが出来るようになっている。

 アレの威力は今はまだ試していないが、俺ぐらいなら、魔法による強化込みでも普通に切られるぐらいの威力はあるだろうと思っている。

 それと、試した回数も少ないが、あの刃を回転させたまま飛ばす事も出来るようだし、ノノさんの強化は確実に進んでいると思う。

 後、魔法を使える回数そのものについても、少し増えている。


「ノノさん。だいぶ安定してきた感じ?」

「そうですね。だいぶ安定してきたと思います。これなら、決闘にも使えると思います。ハリさんの強化も安定してきた感じですよね」

「そうだな。訓練を始めた当初よりは、明らかに安定してきたと思う」

 俺は魔法については素人であるが、俺もノノさんも驚異的なスピードで習熟が進んでいると思う。

 たぶん、サウザーブさんのお茶の効能を込みで考えてもなお説明がつかない速さでだ。

 となると、この件についても体力関係と同じで、『煉獄闘技場』の神様による一般的なレベルに達するまでの補助が入っているのかもしれない。

 ただ、そうなるとだ。


「ただ、2秒から1秒に縮める。走る、跳ぶ、戦うと言った動作をしつつの強化となると、まだまだ心もとないし、成長スピードが落ちているようにも思える。たぶん、ここら辺からが訓練の本番になるのかも」

「そうなんですか。でも、ハリさんの言う事も分かります。私も変形させてその場で動かすまでは簡単だったんですけど、その先からは明らかに難しくなりました。たぶん、此処からは私の努力次第、と言う事なんだと思います」

 此処から先の強化は時間がかかるかもしれない。

 まあ、一番最初の暗中模索になるような部分を抜けるところでブーストをかけてもらい、早々に抜けられるようにしてもらっていると言えるのが俺たちなので、文句を言わずに地道に訓練するしかないか。


「うーん、価格次第だけど、やっぱりこの糸通りの私有地化と攻撃の試し撃ち用のターゲットは欲しくなってくるな」

「そうですね。私とハリさんで攻撃を打ち合う訳にも行きませんし、かと言って壁に撃ち込むと言うのも気が引けますし……欲しいですよね」

 ちなみにだが、共用の訓練場と言うのも存在はしている。

 が、きちんとした訓練場は利用するのにどんなに安くても1回1ポイント必要で、もう少しポイントに余裕があるならともかく、現状の俺たちが手を出すには少し敷居が高い。

 では、複数の闘士が集まって自然と訓練場になった場所はどうかと言われれば、あちらはあちらで流れ弾の類や野良試合の類が絶えず、今の俺とノノさんでは色々とリスクが高いのが現状である。


「まあ、本当に価格次第なんだけどな」

「世知辛いってこういう事なんですかね?」

「かもしれない」

 なお、この糸通りに踏み込んでくる人は少ない。

 現状では俺とノノさんの部屋しかなく、別の小通りに行く道にもなっていないからだ。

 ただそれでも時々入ってくる人は居て、そう言う人はだいたい俺とノノさんが訓練している姿を見て、何かに納得したような顔をして去るか、一声応援してから去るか、簡単なアドバイスをしてから去るかである。


「まあ、世知辛いと言っても生前の世界に比べると相当優しいと言うかなんというか……」

「皆様、出し惜しみなく教えてくれますよね」

「不思議な話だよな」

 うん、優しい。

 アドバイスの的確さもかなりのもので、俺の強化魔法が2秒に到達したり、ノノさんの魔法の効率が上がったのも、野生の師匠たちのおかげである。

 これは後に知った話であるが、神殿でアドバイス権と言うのを購入した上で、後輩闘士に的確なアドバイスをすれば、少量だがポイントが貰えるようになっているらしい。

 つまり、困っている相手を助ける事に、ちゃんとメリットが生じるようになっているのである。

 まあ、それでもこの世界の住民が全体的に優しい事に変わりはないのだが。


「さて、そろそろ一度休憩するか」

「そうですね。そうしましょうか」

 魔法の訓練がある程度出来たところで、俺たちは一度休憩する事にする。

 ただ、休憩と言っても、ただただ体を休めるわけではない。


「誰かいい人の動画が……」

「ハリさん、オニオン様の決闘がもう間もなくだそうですよ」

「オニオンさんが? あ、本当だ。じゃあ、今日はこれだな」

「はい、一緒に見ましょう」

 PSSで自分以外の闘士が決闘する様子を見て勉強をする時間でもある。

 そして、今日俺たちが見つけたのは、『PvE:オニオン・オガ・マスルロド・キドー VS 炎精(サラマンドラ)巨人(ギガント)強欲堕落(グリドコラプス)』と言う、今まさに、これから行われようとしている決闘。

 オニオンさんの本気の戦いが見れるかもしれない、俺たちとしては注目せずにはいられない戦いだった。

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