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4:始まりの死後の決闘-3

本日四話目になります。

「え? 俺は死んで……」

 ベッドで横になっていた俺は上体を起こし、周囲を見回し、自分の身体を見回し、全てが決闘が始まる前の状態に戻っている事を認識する。


「うっ……」

 そして、認識すると同時に、先ほどまでの狼とのやり取りを……ズタボロにされた上で首を噛み砕かれた感触を思い出し、吐き気を覚え、気分が悪くなっていく。


「夢だった? いいや、そんなことはない」

 そうだ、俺は何もかも覚えている。

 脚に噛みつかれてパニックに陥った事も、手に噛みつかれてナイフを落としたことも、噛みつかれたまま引きずり回されてボロ雑巾にされたことも、首を噛み砕かれて死んだことも……そして、そうなった原因が俺の行動の拙さにあった事も。

 断じて夢なんかではない。

 俺は確かに狼との決闘に臨み、無様な死体を晒したのだ。


「ああそうか。一応ここは死後の世界なんだよな……」

 ではそんな俺がどうして今ここに居るのか。

 深く考えるまでもないだろう。

 此処は死後の世界で、俺は一応だが死人だ。

 きっと死者がもう一度死ぬ事は無いとか、そう言う理屈で以って俺は生き返ったのかもしれない。

 本当は違うのかもしれないが、今はそう言う事にしておこう。


≪決闘が設定されました。決闘の開始は一時間後になります≫

「っ!?」

 機械音声っぽいアナウンスが鳴り響く。

 まるで俺がある程度落ち着いたことを察したかのようなタイミングだ。


「……」

 先程と同じようにホログラムが表示される。

 だから俺は何と戦うのかを見た。

 表示されているのは……『PvE:ハリ・イグサ VS 狼 』。

 どうやら次の相手もまた狼であるらしい。


「ああなるほど、そう言う事か……」

 きっとこれが俺が乗り越えるべき最初の苦難であり、この苦難すら乗り越える事が出来ないのであれば、何も得ることは出来ない。

 そう言う事なのだろう。


「考えないといけないな……」

 戦いから逃れることは出来ない。

 どれほど怖くても、恐ろしくても、手足が震え、呼吸が早まり、動悸がしても、他の選択肢はない。

 俺はあの時……閻魔様らしきお方の質問に対して、苦難を受け入れた。

 より正確に言えば、より良い来世を望み、その為であれば苦難を受け入れると決めた。

 苦難の途中で自分が命を落とす事も受け入れた。

 それが何度も起こりえる事であると思ってはいなかったが、それでも……それでも俺は受け入れたのだ。

 その選択をなかった事には出来ないし、なかった事にはしたくない。

 だから、俺が今この場に居る事は後悔しないし、受け入れる。

 受け入れた上で考える。

 どうやって、あの狼に勝つかを。


「いや、実のところ、考えるまでもないのか」

 狼は強い。

 野生動物の中でも狩猟者に属するだけあって強い。

 牙は鋭く、顎の力は強く、身のこなしはしなやかで軽やかだ。

 今回は使われなかったが、単純な体当たりや、爪、蹴り、そういったものであっても、俺の命を奪うには十分ではないかと思う。

 そんな狼に対してまともに正面から挑みかかったのでは、俺程度ではどうにもならないだろう。

 なにせこちとら生前はただのアルバイトで、争い事とは無縁の生活だったのだから。


「俺は素人だ」

 だがそれでも俺は勝たなければいけない。

 勝たなければ先には進めない。

 先に進むためには何としてでも勝たなければいけない。

 手持ちの手段の全てを費やしてでも、勝利を掴まなければいけない。


「戦いの素人なんてレベルじゃない。喧嘩すらマトモに出来るか怪しいレベルだ」

 では具体的にどんな手札が俺にはある?

 まずはナイフ。

 現状の俺が持つ手札の中で、狼を傷つける唯一の手段のはずだ。

 ただの打撃では当たっても怯ませるのがやっとだろうし、下手をすれば先程と同じように引きずり回される事になるに違いない。


「そんな俺が野生の狩猟者に勝つ方法なんて限られている」

 次に健常な肉体。

 今の俺の肉体は生前の35歳の肉体ではなく、18歳前後の一番筋力も体力もあったころの肉体になっている。

 その上で、決闘で敗北したからなのか、あるいは決闘が終われば自動的に治るのかは分からないが、死ぬような傷を負っても、元通りになる。

 だから、多少の怪我は……負っても構わない。

 そう思えるのであれば、きっとやりようがある。


「すぅ……はぁ……」

 俺は呼吸を整えて、イメージを固めていく。

 狼がどう動くのか、どう仕掛けてくるのか、今さっきの死に伴う光景を必死になって思い出しながら、どうすれば素人でも勝てる可能性がある状況に持っていけるかを考えていく。


「こうするべきだな」

 考えた上で、準備を整え、少しでも体に染みつくように、狭い部屋の中でイメージした動きを繰り返していく。


「……」

 もしこれで駄目だったら?

 もしこれで駄目なら、出来るまで繰り返すしかないだろう。

 なにせ他の方法を取りたくても、その元手がないのが現状なのだから。

 だから駄目だった場合は考えない。

 上手くいくことだけを考える。

 例えズタボロにされようとも、勝つ事さえできればいいと気持ちを切り替える。

 そして、決闘の開始時間が来た。

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