39:強化魔法の習熟-1
「すぅ……」
サウザーブさんのお店『カコカティ』でゆっくりした次の日。
俺とノノさんは自室前の糸通りで訓練を始める事にした。
「はぁ……」
期間はとりあえず四日間。
勿論、四日間の訓練を終えたら直ぐに次の決闘に臨むのではない。
四日間現在の状態で鍛え、それから神殿に行って装備を整え、装備を更新した状態で更に四日間鍛え、それから休養権を切って、決闘の日取りを決めてもらう、と言う流れである。
「むんっ!」
では、この四日間でまずは何をやるのか。
俺が目指すのは、魔力による身体強化と装備強化の習得であり、まずは静止状態での強化が出来るようになる事が目下の目標である。
それではどうやって魔力による身体強化と装備強化をするのか。
参考にするイメージは、昨日サウザーブさんに淹れてもらったお茶を飲んだ時の感覚。
血管とも神経とも違う、第三の管、非実体の流れに魔力を流し込み、骨、筋肉、皮膚、装備へと魔力を纏わせていき、その状態をイメージする。
「むむむ……」
結果は……たぶん出来ているとは思う。
今の俺は中腰に近い姿勢で、左手の盾を前に構えている。
俺の感覚としては魔力の鎧を纏い、耐久力を伸ばせていると思うのだが……。
やはり、客観的な評価が欲しいな。
「ノノさん、どうだろうか?」
「そうですね……」
俺は魔力をナイフ……と言うよりは刃の形に変えて、形を維持しつつ、ゆっくりと回転させているノノさんへと話しかける。
ノノさんのこれは魔法の威力を高めるための訓練であり、ノノさん曰く、これを出している状態で話すぐらいのことは出来ないと、実戦ではとても使えないとの事である。
「ハリさんは魔法による強化は出来ていると思います。ただ……」
「ただ?」
「どうして微かに光っているんでしょうか?」
「ん?」
俺は改めて自分の身体を見る。
まあ、確かに光っている。
光っていると言っても、ライトとか照明と言うほどではなく、体に光に反射する粒子のようなものがくっついていて、それが光っていると言う感じだが。
「あー、理由は分からないな。俺としてはこういう物としか言いようがない」
「ハリさんの魔法の性質でしょうか?」
「どうなんだろうなぁ……今度神殿で調べてみるのも手かもしれないな」
原因は不明。
ノノさんの言う通り、俺の魔法がそういう物なのか。
サウザーブさんのお茶の影響でも受けたのか。
俺の中で魔力は光るもの的なイメージを気づかない内に持ってしまったか。
相手の注意を惹くのに使えそうなので、あって困るものではなさそうだが。
「調べられるんですか?」
「たぶん出来る。どこまで詳しく調べるかで、かかるポイントも変わりそうな気がするけど」
「なるほど……」
俺は一度強化を止める。
そして何度か呼吸を挟んだ後、再度強化を行う。
ちゃんと強化が出来たと自覚できるまで……5秒か6秒くらいか。
おまけにちょっと体を動かそうとすると、直ぐに揺らぐ、と。
「さて、ノノさん。目標は1秒以内。だっけ」
「はい。お父様が前に言っていたのですが、咄嗟の事態に対処しようと思うのなら、1秒以内に対処できなければ選択肢にも上げるべきでない。だそうです。相手によっては1秒でも遅いぐらいだとも」
「なるほどな。参考になる」
うん、現状ではやはり使い物にならないだろう。
強化を使った状態で動けなければ、相手の攻撃の前に割り込んで強化を使うしかないのだが、そこで5秒だの6秒だの……そんな時間があるわけがない。
ノノさんの父親の言う通り、1秒以内に展開できなければ選択肢にも入れられないだろう。
「じゃあまずは安定して1秒以内。それに展開しながら動けるように、だな」
「頑張ってくださいね。ハリさん」
「ああ、勿論だとも。ノノさん」
俺は再び強化を解除。
それから三度強化を発動する。
「むううぅぅっ……」
そして、強化を発動した状態で、纏っている魔力が揺らがない程度の速さで動き始める。
最初はただの歩きからだ。
正直に言って、一定の姿勢を保持し続けるような筋肉の使い方になって、単純な筋トレとしても効果がありそうな感じがある。
とりあえず……うん、脚がプルプルする。
「魔よ、水となり、刃となり……」
ノノさんの方も……大変そうだ。
生み出そうとしているものは分かるのだが、刃としては微妙に分厚いし、その状態を維持するのも難しいらしい。
やがてゆっくりと回転をさせ始めるが、回転をしている間に球に近づいて行っているようにも見える。
「この手の訓練は一日してならず、か。うーん、筋肉関係と同じで、『煉獄闘技場』の神様の力で習得が早まっていたりはするんだろうか?」
「そうですね……多少は早まっているとは思いますよ。ハリさん」
「そうなのか?」
「はい。ハリさんのしている訓練も、私の世界だと何年もかけてやるものなので、サウザーブ様のお茶を考えても、ハリさんの習得スピードは早いと思います。私の方も同じですね」
「なるほどなぁ……」
ただ、これでも習得は楽になっているらしい。
きっと、ある程度は実力があった方が、見応えのある決闘になるとか、そんな感じの理由でそうなっているのだろうけど、恩恵を受ける側としては嬉しい限りである。
「とりあえず四日で歩くぐらいは出来るようになりたいな」
「私も刃の魔法を完成させたいです。矢の魔法も出来れば作りたいですから」
俺とノノさんは雑談を交わしつつ、その後も訓練を続けた。
強化魔法発動中のハリが微かに光っているのは、当然ながらハリ自身の影響です。
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