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36:休日の過ごし方-2

「サウザーブさん。先輩の方から、生前の事を尋ねるのは基本的にマナー違反であると窺っています。それは知っていますか?」

「勿論知っているとも。だから、聞いた分の対価は払うし、ハリ君たちが話す事を拒んでも、その後の対応は一切変える事はしない。世界の主に誓ってもいい。ただそれでも、いや、だからこそかな? 出来れば話して欲しいな。僕は個々人の過去にはさほど関心はないのだけれども、それぞれがどんな世界で生きていたのかという点については、非常に興味があるんだ。うんそうだね。僕としては、この趣味を満たせるのであれば、今日一日の売り上げぐらいどうでもいいぐらいなのさ」

「は、はぁ……」

 か、顔が近い。

 そして、凄く興奮している。

 なんだろうか、此処までのサウザーブさんはイケメンエルフとしか言いようがない姿だったのに対して、今の笑顔だが興奮しているサウザーブさんを見ると、頭に残念とか付けたくなってしまう。


「そうですね……」

 まあ、それはそれとしてだ。

 此処でサウザーブさん、それに俺の隣の席に座って何かを期待しているノノさんに、俺の生前について話をする価値があるかを冷静に考えてみよう。

 まずサウザーブさんに話すメリットはお茶を貰える事で、上手く歓心を買えれば、今の俺では手を出せないようなお茶を貰えるかもしれない。

 デメリットは……サウザーブさん経由で何処かに俺の情報が流れ、何かしらのトラブルが起きる事。

 まあ、『煉獄闘技場』のルールや、サウザーブさんの様子からして、デメリットは大丈夫そうか。


「……」

 ノノさんに話すメリットは分かり易い。

 今後も考えた場合、俺だけがノノさんの過去を知っているよりも、ノノさんも俺の過去を知っている方が何かと良いとは思うのだ。

 デメリットは……ある種の幻滅と言うか、話したからこそ信頼関係が崩壊する可能性があると言うところか。

 とは言え、生前の事を話した程度で壊れる信頼関係なら、どうせその内壊れる信頼関係でもある。

 そう考えたら……話した方がいいか。

 ただしかしだ。


「分かりました。話します。ただ、質疑応答形式でいいですか? サウザーブさんがどのような情報を求めているのかが俺には分からないので」

 サウザーブさんの求める話がどんなのかは分からないので、質疑応答の形式を取らせてもらう。


「なるほど。分かった、ではそうしよう。ああ、これはある種の手付金、あるいは私の腕を示すためのものだが、喉を潤すためのお茶だ。もちろん、お代は結構だし、話の報酬ともまた別だよ」

「あ、はい」

「ありがとうございます」

 とりあえず俺とノノさんに対してお茶が出されたので飲んでみる。

 うん、すっきりしていて、とても飲みやすく、美味しい。

 これならば、良い話が出来た時の報酬は期待できると思う。


「では聞こう。ハリ君の世界に魔法はあったかな?」

「物語の中にはありました。ただ、俺の知る範囲では現実にはなかったです」


「電子機器はどうかな?」

「そこら中に溢れていましたね。PSSに似た機械も日常的に扱ってました。まあ、仕組みとかは全くの別物でしょうけど」


「星々の世界は?」

「星々の世界……ああ、宇宙ですか。そっちは極一部の方が、星のすぐ近くだけ、と言う感じですね」


「戦争はどうかな?」

「世界規模でみるなら、戦争も紛争も幾らでも。俺が居た国は不穏な気配こそありましたが、戦争はしていなかったです」


「神々はどうかな? 神話でもいいけれど」

「死後の世界の神様……ような存在に会った覚えはありますけど、生きている間は特にと言う感じですね。世界全体でみると、世界規模のものから、地域に根差したものまで、色々と宗教はありましたね」


「君の国の治安は?」

「良好の部類でしたね。まあ、犯罪が全く無いわけではないですし、変なのが居ないわけでもないですけれど」


「教育はどうだった?」

「そっちも割と良好でいいのかな? とりあえず俺の居た国で生まれたなら、ある程度の教育は年齢に従って受ける事が出来ましたから」


「食事はどうかな?」

「とても良いと言えると思います。少なくとも飢えとは無縁と言っていいような国でしたから。まあ、何でもかんでも魔改造して、自国の風土に合わせた料理にすると言うか、何故それを食べようと思ったと言われるような食材も扱いますけど」


「なるほどなるほど。ハリ君の世界は所謂近代、現代と呼ばれる世界で、その中でもだいぶ平和な世界だったようだね。うらやましい限りだ」

「そうですね。少なくとも俺が生きていた国は平和で豊かな国に分類されるでしょう。そこは疑わなくていいと思います」

 一段落だろうか?

 とりあえずサウザーブさんはニコニコ笑顔で、こちらを見ている。

 俺はお茶を一口含み、喉を潤す。

 ノノさんは……とても不思議そうな顔をしている。

 まあ、異世界の詳細な話などそう聞けるものではないだろうし、分からない反応ではない。


「サウザーブさん、何か他に質問はありますか?」

「そうだね。娯楽の類についても聞いてもいいかな? こっちにも色々な娯楽があって、こっちに来てから作っている人もいるのだけれど、生前の世界だからこその娯楽もあるだろうから」

「娯楽ですか。そうですね……」

 さて、サウザーブさんはまだまだ聞き足りないらしい。

 これは長引きそうだと思いつつも俺は話し続け……結局2時間ほど話し続ける事となり、そこでようやく解放される事になった。

09/14誤字訂正

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