35:休日の過ごし方-1
「さて、今日からはどうしようか……」
「オニオン様の勧めでは、今日一日くらいは休息に徹した方がいい。と言う話でしたよね」
「そうそう」
反省会を終えて、夜の時間が来て、食事などを済ませ、寝て、翌日である。
「だから、今日一日休むのは良いとして、何をしようかな、と思うんだが……いや、最初にやるべき事はある意味決まっているか」
「そうなんですか? ハリさん」
「ああ、行きたいところと言うか、行っておくべきところがあるのを思い出したんだよ。ノノさん」
朝食を済ませた俺とノノさんは、今日一日どうするかを考える。
なお、それぞれ一人で過ごそうと言う話になる感じはない。
ノノさんが、呪いの都合で一人歩き回るのは危険が伴うと言うのもあるが、こういう機会に単独で過ごしていると、決闘の時の連携に支障を来たしそうな気配を、俺が何となくだが感じていると言うのもある。
まあ、とりあえずやるべき事は見つけたので、自宅前の糸通りから、小通りに出よう。
「相変わらず沢山の人が居ますね」
「本当だよなぁ……」
小通りにはいつも通りに沢山かつ多種多様な人々が居て、思い思いに過ごしている。
そして、俺とノノさんが出て来た糸通りの出口のすぐ右の建物だが、幾つかの観葉植物とテーブルを店の外に出しているカフェが入っている。
「うん、ちゃんとやっているな」
「えーと、料理屋さん、でいいんでしょうか?」
「どちらかと言えばカフェあるいは喫茶店かな? がっつりとした料理よりも、スッキリしたり、落ち着いたりするためのお茶を出しているお店だと思う」
「なるほど、そう言うお店もあるんですね」
店の名前は『カコカティ』。
どうやらドアの前に出ている看板からして、既に営業中であるようだ。
「でもハリさん。ポイントの方は……」
「大丈夫。普通のカフェなら最低価格の1ポイントでも何かは注文できるし、そうでないカフェなら、そうである事を示されているらしいから」
「そうなんですか。なら大丈夫ですね」
このお店は言わば、俺たちの自宅から最も近い飲食店である。
となれば、必然的にこの店は、俺たちの日々の活動の範疇に入る事になり、利用する可能性が高くなる。
そんな利用する可能性が高い店がどんな店なのか知っておく事は悪い事ではないだろう。
と言う訳で、今日はまずこのお店、『カコカティ』に入ってみる事にする。
「お邪魔します、と」
「失礼します」
「いらっしゃい」
『カコカティ』の店内はとても落ち着いた雰囲気だった。
様々な場所に観葉植物が飾られていると共に、瓶詰にされた様々な植物が棚に収まっている。
店主さんと思しき男性が居るカウンター席には、昔ながらのコーヒーメーカーだろうか? たぶん、何かしらの茶を入れるための道具が置かれている。
そして、時間が時間であるためか、俺たち以外の客は今は居ない、と。
「おや、うちの横の糸通りに最近住み始めた子たちだね。初めまして。ようこそ『カコカティ』へ」
「あ、はい。初めましてです」
「初めまして、おはようございますです」
『カコカティ』の店主さんは、どうやら俺とノノの事を把握しているらしい。
まあ、当然と言えば当然か。
こういう個人店舗では多くの場合、店舗の二階や地下に店主の住居があって、そこに住んでいるらしいから。
ならば、俺とノノさんの事を見かけたことがあっても不思議ではない。
「さて、それじゃあ折角だから自己紹介もしておこうか。僕は此処、植物茶専門のカフェ『カコカティ』を経営している、サウザーブ・ブレボールと言う。君たちは?」
「……。俺はハリ・イグサと言います」
「ノノ・フローリィと申します」
「ハリ君とノノ君だね。うん、覚えたよ」
『カコカティ』の店主、サウザーブ・ブレボールさんは、簡単に言い表すならば金髪碧眼のイケメンエルフだった。
うん、本当に美形で、体つきや声などから男だと断言できるのだけど、それでも男の俺が一瞬見惚れそうになるようなイケメンだった。
たぶん、生前の世界なら美形アイドルとしてやっていけると思う。
「では、立ち話もなんだし、カウンターの方へどうぞ。この時間帯なら、お客さんはほぼ来ないし、『カコカティ』がどういうお店なのかを説明しておこう」
「ありがとうございます」
「はい、分かりました」
俺はサウザーブさんの招きに応じる形で、カウンター席の一つに腰かける。
しかし、本当にイケメンだ。
嫉妬する気も起きないレベルのイケメンって実在したんだなぁ……。
そして、何故ノノさんはサウザーブさんを目の前にしても、動揺の欠片も見せないのだろうか。
どうやれば、そんな精神状態に持っていけるのか、その方法が気になって仕方がない。
「此処『カコカティ』はさっきも言ったが、植物茶専門のカフェになる。常に千を超える数の植物の葉、実、花、根などを用意していて、客の要望に応じてブレンド、特製のハーブティーとして提供しているお店になる」
「なるほど。ハーブティーですか」
「だから薬湯に近い匂いを感じるんですね」
薬湯? ああなるほど、ノノさんの生前的にはある意味飲み慣れたものになるのか。
「そうだね。注文があれば、薬湯に近い形でも出せる。ちなみに値段はピンキリで、二人のような新人闘士でも複数杯の注文をできるように、1ポイントで数杯の品から、一杯で100ポイントするようなものもあるよ」
「な、なるほど……」
「……」
一杯100ポイントのお茶……いったいどんなお茶なんだ……。
ちょっと気になるな。
「さて、此処で一つ私の趣味を明かしておこう」
「趣味?」
「どういう事ですか?」
と、ここでサウザーブさんが笑顔で、俺たちの前に立ち、腰を折る。
明らかに長話の体勢だ。
「私の趣味はこの店を初めて訪れたお客さんから、生きていた世界の話を聞く事なんだ。もちろん、タダで聞く訳ではなく、聞いた情報に応じてお茶を振舞わせてもらうと言う対価を支払う形でね」
「「……」」
どうやらサウザーブさんは、俺とノノさんがどんな世界でかつて生きていたかを知りたいらしい。
さて、どうしたものだろうか?
09/12誤字訂正