34:絡繰穿山甲との決闘を終えて-1
「ナイスファイトだったぞ。ハリ、ノノの嬢ちゃん」
「ありがとうございます。オニオンさん」
「ありがとうございます。オニオン様」
決闘の場から戻ってくると、オニオンさんが小さく拍手をしながら、俺とノノさんに声を掛けてくる。
どうやら待っていてくれたらしい。
俺はその事を嬉しく思いながら、小さく頭を下げ、礼を言う。
「さて、お前ら二人とも決闘を終えたら何をするべきかは分かってるな」
「はい」
「分かってます」
では、決闘後の処理を進めていこう。
まず休養権は問題なし。
次に自分の決闘ログの回収も完了。
得たポイントは……。
「26ポイント……大蜥蜴より分かり易く多い……と、ノノさんは?」
分かり易く増えている。
「あ、私は25ポイントです。1ポイントの差は活躍の差、という事でしょうか?」
「えーと……」
「ま、そう言う事だな。お前ら二人とも自分の役割は果たしていたが、たぶん、相手の初動をハリの行動で的確に潰した部分で評価に差が出たんだろ」
「なるほど」
「そうなんですか。でもそれならハリさんの方がもっと多くてもいい気がしますけど……」
「いや、ノノさんも十分活躍してたから」
「そうだな。ノノの嬢ちゃんの活躍もきちんと評価されている数字だ。これは」
うーん、十日間の訓練を積んだだけで、得られるポイントが2.5倍か。
何処かで頭打ちになる場所はあるのだろうけど、それにしてもこの伸びは大きい。
まあ、それはそれとしてだ。
「ノノさんは攻撃を一度も外さず、前衛の危険度を無暗に上げずで、良い動きをしてた。アレは評価してもらえて当然の動きだと思う」
「そうだな。ノノの嬢ちゃんは良い動きをしてた。理想的な後衛の動きに近いとも言えるぞ」
「そ、そうですか。二人ともありがとうございます」
ノノさんは褒められて然るべきだろう。
冷静に考えて、一度も攻撃をミスっていないと言うのは、それだけで素晴らしい事だし、絡繰穿山甲へと無暗に近づいたりするような事もなかったのだから。
おかげで俺は時間稼ぎに専念していればよくなったのだから。
「でもハリさんも凄かったですよね。最初とか、矢を防いだのとか」
「そうだな。あの辺のハリの動きは良いものだった。魔法の効果範囲外に出さないように立ち回ろうとしていたし、アレは評価していいだろう。ただ、最後のはなぁ……アレはあんまりよくなかったぞ」
「あーはい、そこは分かってます。武器も手放してましたしね」
対する俺の評価は……加点箇所もあるが、減点箇所もあると言う感じか。
まあ、オニオンさんに言われなくても分かる。
最後のタックルと言うか、ノノさんに向かう動き。
あそこで俺が取るべき行動は、絡繰穿山甲の動きを止める事よりも、ノノさんの下に向かい、ノノさんを抱え、逃げ回る事だったと思う。
足の速さとか、押し留める能力とかから考えて。
「自分で分かっているならいい。とりあえず二人ともログをよく見て、きちんと反省会はしておけ。第三者視点だと、また違ったものが見えるのはよくある事だからな」
「はい」
「分かりました」
まあ、その辺の反省会については、後でやる事にするとしよう。
「後俺が教えるべき事と言うと……そうだな。ポイントの割り振りについてか」
「ポイントの割り振りですか?」
「先日の適度に趣味にも使った方がいい、と言うのですか?」
「それもあるな」
話は変わってポイントについて。
最初の100ポイント、前回の10ポイントと違って、今回のポイントからは、強化、貯蓄、趣味に使う分で分けて行った方がいいらしい。
また、それを支援するPSSの機能もあるようだ。
「うわっ、本当に財布を三つに分けられる……」
「これなら無駄遣いはせずに済みそうですね」
「本当に便利な機能だよなぁ。これ。帳簿とかも勝手に付けてくれるから、重宝してる」
まあ、PSSの機能についてはおいておくとしてだ。
ポイントの使い道を分けた方がいい理由については、そう深く考えなくても分かる。
「それで、強化は得たポイントの半分くらいが目安何ですね」
「今のハリたちならそれぐらいだな。いずれは割合を変えたり、溜め込んだりと言った形にもなるだろうが、そんなのは当分後だ」
まず強化。
俺はここに13ポイント……それに『ハリノムシロ』習得時の余りである3ポイントも入れておいて、16ポイントにする。
このポイントで自分を強化して、次の決闘で勝利した時により多くのポイントが得られるようにしましょう、と言う事だ。
「貯蓄は3割から4割……出来ました」
「おう、きちんと溜め込んでおけよ。転生費用とか、部屋のアップグレードとか、そう言う方向に使うのが基本ではあるが、急に特定の対策が必要になった時とかにも使うからな」
次に貯蓄。
こちらは7ポイント入れておく。
まあ、今はまだ、本当にただ溜め込むだけだ。
「で、最後に趣味と。とは言えなぁ……」
「何に使えばいいんでしょうか。私、そう言うのにはあまり詳しくなくて……」
「ま、その辺の気晴らし手段はそれぞれが自分で見つけるしかないからな。明日一日くらいは訓練せずにただの休養でその辺を歩き回ってみるのも手だ」
最後に趣味。
ここには6ポイント入れておく。
とは言え、『煉獄闘技場』で趣味にするような物はまだ見つけていないし……まあ、その内でいいか。
「じゃ、俺はこの辺で帰るわ。今後何か用事があったら、PSSで俺かドーフェに連絡をしてくれ」
「分かりました。ありがとうございました。オニオンさん」
「ありがとうございましたオニオン様。ドーフェ様にもよろしく伝えておいてください」
「おう、これからは出来る限り二人で協力して頑張るようにしろよ」
そうしてオニオンさんは去っていった。
これでこの場に残ったのは俺とノノさんだけ。
ある意味では、この時からが、俺とノノさんの闘士生活の本番となるだろう。
「さてノノさん。まずは反省会からやっていこうか」
「はい、しっかり見ていきましょう。ハリさん」
だが、これまでに教わった事と、ノノさんが居るのであれば、きっと何とかなるはずだ。
俺はそんな事を考えつつ、PSSで先程の決闘のログを流し始めた。
ある意味、ようやくチュートリアル終了とも言えます。