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33:絡繰穿山甲との決闘-4

「セザンコォ! ザザンコォ!!」

「っ、ふっ……」

 絡繰穿山甲の爪が振り下ろされるが、俺は斜め後ろに飛び退く事によって攻撃を避けていく。

 だが、直線的に逃げ続ければ、直ぐに絡繰穿山甲が『ハリノムシロ』の外に出てしまって、ノノさんの下へと向かいかねない。

 なので俺は弧を描くように逃げて、『ハリノムシロ』の効果範囲内に絡繰穿山甲が留まるように調整し続ける。


「ザザザンコォ!」

「そこっ!」

 そして、効果は見込めなくても、絡繰穿山甲の隙を見つけて攻撃は仕掛ける。

 『ハリノムシロ』だけではこちらに惹きつけ続ける事が出来ないからだ。

 なので、爪を振り下ろし終え、動きが止まったタイミングで、棍を突き出す。


「……」

「他よりはマシ、か」

 突いた先は絡繰穿山甲の頭。

 ノノさんの攻撃が三度直撃したことで、多少の損害が出ており、そこへ追撃を仕掛けて上手くいけば、多少のダメージは望めると判断しての事だ。

 そうでなくとも、頭部には舌の射出口や目のように見えるセンサーと思しき部位もある。

 他の部分より効果は望め……実際気は惹けているようだ。

 そうして、これを何度も繰り返して、時間を稼いでいく。


「フォリドータァ!」

「っ!?」

 と、此処で不意に舌が伸びてくる。

 慌てて顔を逸らしたが、頬が浅く切られた。

 だがそれだけだ。

 痛みがあるだけで、手足の痺れの類はなく、毒の心配はしなくて良さそうだ。

 じゃあ、問題ない。


「コオオォォウ!」

「ちっ、受け止めるしかない……」

 続けて絡繰穿山甲は背中を向けて、バック走に近い形でのタックルを仕掛けてくる。

 逃げれば『ハリノムシロ』の外に逃げられ、ノノさんを襲われると判断した俺は姿勢を低くし、盾で受け止めようとする。

 幸いにして、絡繰穿山甲のスピードはそこまで速くない。

 これならば受け止められると思って受け止め……。


「ぐうっ……!?」

 凄まじく重かった。

 棘の鋭さがそこまでではないので、防具で受け止め、スピードを落とせば突き刺さる事は無いが、そんな事がどうでもよくなるほどに重く、押し潰されそうになる。

 少しずつだが、押されていく。


「ハリさん!?」

「大……丈夫だ!」

「コオオォォ……」

 だが、ここで押し負けるわけにはいかない。

 歯を食いしばり、脚と棍で地面をしっかりと捉え、絡繰穿山甲の身体を押し留める。

 幸いにして、絡繰穿山甲に絡め手を仕掛ける様子は見られない。

 このまま力の勝負に挑み続けてくれるようだ。


「……。行きます! 魔よ、土となり、球となり、矢のように飛べ。『土球(ソイルボール)』」

「!?」

 ここでノノさんが動く。

 ノノさんの杖の先から土の球が放たれ、絡繰穿山甲の頭を撃ち、破壊する。

 これで絡繰穿山甲が普通の生物であるなら、これで決闘終了なのだろうが……相手は生物ではなく機械だ。


「ハリさん! そのまま抑え込んでください!」

「分かった!!」

 そして、これで倒せていない事はノノさんにも分かっているらしい。

 直ぐに次の魔法の準備を始めようとする。


「……」

「ぐっ……」

 絡繰穿山甲が無言のまま動き出そうとする。

 目標は俺ではなく、ノノさんだ。

 ノノさんの方を向き、攻撃を仕掛けるべく、俺から離れて行こうとしている。


「魔よ、水となり、球となり、構えられた矢のように留まれ。『水球(アクアボール)』」

「させるかよぉ!」

「……」

 なので俺は直ぐに絡繰穿山甲の正面へと回り込み、正面から全力のタックルを仕掛け、その上で抑え込みにかかる。

 問題は……


「魔よ、土となり、球となり、矢のように留まれ。『土球(ソイルボール)』」

「この……重い……」

「……」

 邪魔をする俺を排除するべく、絡繰穿山甲が鉤爪が付いた腕を振るい、それが体に食い込んできている点か。

 皮が裂け、血が流れ出ていくのが分かる。

 既に棍は手になく、意地と根性で相手をただ押し留めているような状態だが……これで何も問題はない。


「飛んで行って!」

 俺の役目はノノさんを守り、攻撃するための時間を稼ぐ事なのだから。


「……」

 ノノさんの杖の先から、水の球と土の球、その二つが僅かな時間差を伴って一緒に飛んで行き、絡繰穿山甲の破壊された頭部から見える、絡繰穿山甲の胴体の内部へと向かっていく。


「これで……」

 絡繰穿山甲の首に土の球が着弾して、礫混じりの土が食い込む。


「終わりです!」

 そして、水の球が食い込んだ土をさらに奥へと流し込んでいき、絡繰穿山甲の胴体の内部へと破壊をもたらしていく。


「ーーーーー!?」

 声はない。

 けれど絡繰穿山甲はまるで悲鳴を上げるように仰け反り、引き攣り、それでもなお俺と言う障害を排除した上でノノさんの方へと向かおうとし……。


「ーーー……」

 そこで仰向けに倒れ、そのまま動きを止めた。


≪決闘に勝利しました≫

「はぁはぁ……」

「ハリさん」

 決闘に勝利したことを告げるアナウンスが響く。

 それと同時に警戒を解いたノノさんが俺の方へとゆっくりと近づいてくる。


「俺たちの勝利だ。ノノさん」

「はい、私たちの勝ちです。ハリさん」

 力が抜けて、俺はその場でヘタレ込む。

 だがそれでも力を振り絞って笑みを浮かべ、ノノさんに向かって手を伸ばす。

 そしてノノさんも俺の手に重ねるように手を乗せ、微笑んだ。


≪肉体の再構築後に所定の場所へと転送いたします≫

 その後、俺たちは光に包まれて、その場から消え去った。

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