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32:絡繰穿山甲との決闘-3

「さあ、どう来る……」

「……」

 威嚇のポーズらしき姿を取る絡繰穿山甲は少しずつこちらへと近づいてくる。

 それと何となくだが、口の先端を動かす事で舌の狙いを付けようとしているようにも思える。


「セ……」

「むっ」

 絡繰穿山甲の上げられている両腕の内、右腕側が僅かに引かれた。


「ザンコォ!!」

「!?」

 それを見た俺が距離を離せるようにと動き出した瞬間。

 絡繰穿山甲の右腕が振り下ろされ、その先端に付いた鋭い鉤爪が俺の目の前を通り過ぎていく。


「ザザンコォ!」

「待て!? 何だその鳴き声!?」

 俺はその光景に驚きつつもさらに一歩後退。

 すると直ぐに、今度は絡繰穿山甲の左腕が振り下ろされ、地面を抉る。

 もしも直撃していたら……魔法による強化が出来ていない俺がどうなるかなんて考えるまでもないだろう。

 後、鳴き声。

 機械仕掛けだから、そんなものを発する必要性はなく、趣味かこちらの注意を逸らさせるためなのだろうけど、それにしてもその鳴き声はどうなんだと思わずにはいられない。


「こ……のっ!」

「……」

 が、それはそれとして、戦わなければいけない。

 なので俺は、絡繰穿山甲が体勢を崩し、一時的にとは言え動きを止めた事を確認した上で、棍を横に薙いで絡繰穿山甲の頭を殴りつける。

 そして、伝わってきた感触から、俺は理解する。

 絡繰穿山甲は中身まできっちり機械の塊であり、しかも戦闘用か、そうでなくとも過酷な環境での運用を前提としたものであり、俺の攻撃程度ではよほどいい場所を殴りつけなければ、注意を惹く事は出来ても、有効打にはなり得ないだろう。

 この点についても魔法による強化が出来ていればと思うが……出来ないものを望んでも仕方がないので、当初の予定通りに注意を惹きつける事を第一にするとしよう。


「魔よ、土となり、球となり、矢のように飛べ。『土球(ソイルボール)』」

「ーーー!?」

 と、ここでノノさんの放った土の球が絡繰穿山甲の頭に直撃する。

 やはり俺の攻撃とは比べ物にならない威力と衝撃があるのだろう、絡繰穿山甲は当たった衝撃で仰け反り、少しだけ動きを止める。


「せいっ!」

「……」

 だから俺は追撃を仕掛けるが……やはり注意を惹きつけるのがやっとのようだ。

 土が落ちた後の絡繰穿山甲は頭が少し歪んでいるが、俺の攻撃ではこっちを向かせるだけだ。


「フォ……」

「むっ」

 その絡繰穿山甲が俺の方ではなくノノさんの方を向く。

 どうやら、俺が脅威ではないと認識されてしまったようだ。

 おまけに口の先を向けようとしているように思える。

 あの口の中には先端が矢じりのようになっている舌が収められていたはずだ。


「ノノさん!」

「はいっ!」

 俺は直ぐに盾を構えながら、立ち上がった絡繰穿山甲とノノさんの間に割り込む。

 ノノさんも、俺の移動距離が少なく済むように、無理をしない範囲で移動をする。


「リドータァ!!」

「!?」

「ハリさん!?」

 直後、盾に何かがぶつかって、鋭い衝撃が腕の方にまで伝わってくる。

 見れば、絡繰穿山甲の口から舌が伸ばされ、その先端が盾に突き刺さっているようだ。

 貫通はしていない。

 これならば、同じ場所を何度も撃たれなければ、大丈夫だろう。


「だい……じょうぶだ!」

「……」

 絡繰穿山甲の舌が引き戻される。

 その際に僅かだが腕が引っ張られる感覚があったが、それぐらいだ。


「ふんっ!」

「!?」

 そして、その舌を引き戻す姿は隙だらけだった。

 なので俺は絡繰穿山甲の方へと踏み込み、立ち上がった絡繰穿山甲の喉を全力で突く。

 これは流石に効果無しとはいかなかったのか、仰け反り、バランスを崩しそうになる。


「魔よ、水となり、球となり、矢のように飛べ。『水球(アクアボール)

「ーーー!?」

 すかさずノノさんの追撃。

 水の球が絡繰穿山甲の頭部に直撃し、完全に背中から地面へと倒れていく。


「……」

「よ……そう上手くはいかないのか」

 が、体を捻る事で絡繰穿山甲は四つ足で地面を掴む体勢になり、こちらに備えている。

 腹を見せてくれるなら、効果がなくても追撃を仕掛ける事は一応出来たが、棘だらけの甲殻が相手では殴りつける事も出来ない。


「ハリさん……」

「分かってる」

 さて、これでノノさんは3回の魔法を使った。

 現状のノノさんは4回魔法を使えば、次に魔法を使えるようになるまでは、少なくとも多少の休憩を取る必要がある。

 絡繰穿山甲を倒すのにどれだけの魔法が必要になるかは分からないが……。


「ノノさんは少なくとも3回の魔法を使えるようになるまで、休憩に専念していてくれ。その間はこっちで何とかする」

「はい、よろしくお願いします。ハリさん」

「……」

 これから暫くは俺がどうにかするしかない。

 絡繰穿山甲に壊れかけの状態になった時に暴走するような性質がないとも限らないし、ノノさんにはギリギリ倒せるレベルではなく、十分に体力を回復してもらいたいところだ。


「セザンコォ!」

「起動せよ。『ハリノムシロ』」

 絡繰穿山甲が立ち上がって、俺に向かって爪を振り下ろそうとしてくる。

 対する俺は『ハリノムシロ』を再展開した上で、絡繰穿山甲の攻撃を避けて、時間を稼ぐ事に専念し始めた。

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