31:絡繰穿山甲との決闘-2
「ハリさん。これは……」
「そうだな。少し変わったと思う」
コロシアムに転送された俺とノノさんは周囲を見る。
コロシアムは特に変わりないように見えるが……少しだけ広くなったように見える。
これまでが直径10メートルくらいの空間だったのだが、直径20メートルくらいには広がっているように思える。
恐らくだが、俺とノノさんの二人が一緒に戦うと言う事情から、空間を広げたのかもしれない。
≪決闘相手が現れます。構えてください≫
「ノノさんは俺の後ろに」
「はい」
紫色の光が集まっていく。
そして、十分な光が集まったところから、実体化していく。
鋭い鉤爪が生えた四本の脚で地面を捉え、背には棘のように鋭い甲殻を生やし、先端に矢じりのようなものが見て取れる舌を収納した頭が現れ、俺が覚えているものとは少し違う形状のセンザンコウが出現していく。
大きさは……立ち上がれば、俺と同じくらいの大きさになりそうか。
だが、見た目以上に異なるのはその材質。
「やっぱり機械の類か。ありゃあ、俺だとどうしようもないな」
「それなら私が頑張ります」
「頼んだ。代わりにノノさんの事は何としてでも守るから」
「お願いします。ハリさん」
絡繰穿山甲の名にふさわしく、現れたそれの全身は鉄か何かで出来ているようだった。
正確な材質は不明だが、少なくとも俺の棒で殴って壊せるような物質ではないだろう。
よって、予定通りと言えば予定通りだが、攻撃はノノさん頼りになりそうだ。
「さて……」
俺は魔力を棍の先に集めて、地面と接触させておく。
決闘開始前なので、これ以上は出来ないが、これで決闘開始と同時に『ハリノムシロ』の展開が可能になる。
「魔よ、水となり、球となり、構えられた矢のように留まれ。『
同時にノノさんも杖の先に水の球を作り出し、浮かせる。
これで後は杖で飛ばしたい方向を指せば、通常と同じように飛んで行くらしい。
後、ここでキャンセルすれば、消費もほぼ無いそうだ。
「……」
「ん?」
「ハリさん?」
さて、絡繰穿山甲の行動は……顔の向きからして、こちらを認識しているとは思う。
しかし、絡繰り……機械仕掛けの存在だからだろう、感情はないようだし、そもそもどこまで本来のセンザンコウを模しているのか。
とりあえず鉤爪の破壊力は十分にありそうだし、棘だらけの甲殻でタックルされたら酷い事になりそうだし、矢じり付きの舌が勢い良く伸びてくるぐらいまでは想定しても良さそう……いや待て、絡繰り? 機械仕掛け? そう言えば、絡繰穿山甲の足裏は……見えてない?
≪決闘を開始します≫
「ヤバい! 起動せよ。『ハリノムシロ』!」
嫌な予感を覚えた俺は決闘開始の合図と同時に『ハリノムシロ』を発動。
周囲の地面から無数のガラス片が出現して、敷き詰められていく。
「ーーーーー!」
「!?」
同時に凄まじい吸気音、何かが回転する音、大きな砂ぼこりが絡繰穿山甲から発せられる。
その音にノノさんは驚きすくみ、俺は『ハリノムシロ』の発動を確かめると同時にノノさんの方へと駆け出し、担ぎ上げる。
「ーーーーー!!」
「ハ、ハリさん!?」
「くそっ! やっぱりそう言う事か!!」
そうして俺がノノさんを担ぎ上げ、走り始めた瞬間。
絡繰穿山甲も突っ込んでくる。
だが四本の脚を動かしてではない。
足裏に備え付けられているであろう車輪を回転させてだ。
人はそれを走るとも言うが、走行と呼ぶものの方が多い事だろう。
「!?」
「持っててよかった『ハリノムシロ』!」
しかし、俺とノノさんが居る場所の周囲には大量のガラス片が、尖った面を表に出した上で散らばっている。
それは無数のスパイクが敷き詰められているようなものであり、材質は不明であるが、どちらかと言えば柔らかい素材によって作られていたらしい絡繰穿山甲の車輪に突き刺さり、パンクさせ、転ばせる。
だが、突っ込んできた勢いが勢いであるため、俺とノノさんが初めに居た位置にまで転がってきて、背中の棘のような甲殻で以って地面を抉り取っていく。
うん、ノノさんを抱えて移動する訓練をしておいて、本当に良かった。
「な、なんで足を動かしてないのに!?」
「そこはそういう物で流しておくんだノノさん! それより攻撃!」
「は、はい! 飛んで行って!」
「!?」
で、転んだ絡繰穿山甲に向けてノノさんの『水球』が飛んで行く。
矢のような勢いで飛んだ『水球』は絡繰穿山甲の頭部に直撃。
大きな音が響くと共に、絡繰穿山甲は何回転もしつつ転がっていく。
「た、倒しましたか?」
「いや、まだまだっぽいな」
俺はノノさんを『ハリノムシロ』の範囲外へと降ろすと、盾と棍を構えながら、絡繰穿山甲へと近づいていく。
その間に絡繰穿山甲は立ち上がり、周囲の状況を確認する。
そして、『ハリノムシロ』の効果か、俺が一番近くに居るからか、あるいは車輪での移動が出来なくなったからか、後ろ足で立ち上がると、俺の方を向いた上で、前足を上げ、威嚇のポーズらしき姿を取る。
「ノノさん。相手は惹きつけるから、攻撃はよろしく頼む」
「はい」
「ーーーーー!」
さて、ここからが決闘の本番になるようだ。