<< 前へ次へ >>  更新
30/132

30:絡繰穿山甲との決闘-1

「ハリ、そしてノノの嬢ちゃん、十日間よく頑張った!」

「「はいっ!」」

 オニオンさんとドーフェさんによる訓練開始から十日が経った。

 と言う訳で、今日は俺の部屋前の糸通りで、オニオンさんから話を受けている。

 なお、本日ドーフェさんは用事があるとかで、この場には居ない。


「ぶっちゃけ、お前ら二人の元の実力と十日間の訓練程度じゃ、二人揃っていても闘士の卵から卵の殻を被ったヒヨコぐらいにしかランクアップはしていない」

「あ、はい……」

「そうですよね……」

 ヒヨコ扱いは……仕方がないと思う。

 訓練の合間にPSSを使って闘技場で行われている戦いを幾つか覗いてみたのだが、殆どの闘士が俺たちよりも動きは鋭く、攻撃は重く、防御は堅く、技巧に凝った戦いをしていた。

 あれらと比べたら、ヒヨコ扱いは当然だ。


「そんなしょぼくれた顔をするんじゃねえよ。殻付きとはいえ、卵の外には出て、自分の脚で歩き始めてはいるんだ。世の中には卵の外にすら出られない奴らだっているんだから、そいつらに比べればお前らはよくやっている」

「……。はい」

「……。分かりました」

 だがうん、オニオンさんの言う通りだ。

 殻付きと言えども、自分で歩いてはいるのだから、自分たち自身の工夫や訓練で、幾らでもどうとでも出来る可能性はあるはずだ。

 そう考えれば、悪くはない。


「さて、この十日間で得た力を確かめる為には、実戦に臨むのが一番都合がいい。勝てるかどうかについては相手との相性や、その場での立ち回り次第だが、我らが主が設定した決闘なら、開始時点で勝てる可能性が0と言う事だけはあり得ないから、決して諦めるな。いいな」

「「はいっ!」」

「ようし、それじゃあ二人とも休養権を切れ、我らが主の事だ。きっと直ぐに決闘を組んでくれるに違いない」

「分かりました」

「やってみますね」

 では、訓練の成果を出すために。

 そして、ポイントを得るために。

 決闘に臨めるようにしてみよう。

 と言う訳で、俺とノノさんは自分のPSSで休養権の行使を一時停止する。


≪決闘が設定されました≫

「来ましたね」

「ああ」

「……」

 オニオンさんの予測通り、休養権を二人揃って停止すると同時に、決闘が設定されたと言うアナウンスがPSSから流れた。


≪決闘の開始は10分後になります≫

「ええっ!?」

「ぶっ!?」

「あー……」

 そして、決闘の開始が10分後だと告げられた。


「あの、オニオンさんこれは……」

「どうやら我らが主はマジでお前らの決闘を待ち望んでいたらしいな……まさか10分後とは……」

 俺は口の端を多少引き攣らせながらオニオンさんに問いかける。

 オニオンさんは天を仰いでいる。


「ど、ど、どうすればいいんでしょうか。ハリさん、オニオン様」

「10分しかないからなぁ……水分補給と落ち着くぐらいしか……」

「そうだな……」

 明らかに慌てた様子のノノさんが話しかけてくる。

 いやうん、けれど10分ではどうしようもない。

 俺は少しだがポイントを余らせているが、10分ではポイントの使用どころか、神殿に行くことすら出来ない。


「ハリ、ノノの嬢ちゃん、とりあえず相手の情報だけでも確認しておけ。相手の正体が分かっているだけでも気分が楽になりやすいし、決闘の場で特殊な対応を求められる相手であった場合の勝率が大きく変わる事になるからな」

「分かりました」

「は、はい。えーと……」

 では、何が出来るかだが……水分補給と落ち着く以外にも出来る事があるらしい。

 さて、肝心の相手についてだが……。

 PSSにはこう表示されている。


 『PvE:ハリ・イグサ & ノノ・フローリィ VS 絡繰穿山甲 』


「絡繰穿山甲、という名称になってます」

「私のPSSだとマシーナリーフォリドータと言う名前になってます」

「まあ、意味するところは同じだろう。後はどういう存在かを調べるのと、お前らの知識にあるなら、そこから情報を出す事だな」

 絡繰穿山甲あるいはマシーナリーフォリドータと言うのが、次の決闘の相手であるらしい。


「んー……見た目はセンザンコウそのままか?」

「ハリさん、センザンコウと言うのは?」

「俺も詳しくは知らないが、毛皮の代わりに鱗や甲殻を持っている哺乳類、だったかな。見た目は本当によく似ている。けれど絡繰と付いているから、動物ではなく機械仕掛けと言うか、何かがあるのかもしれない」

「なるほど」

 俺はPSSで絡繰穿山甲について検索してみる。

 うん、情報が馬鹿みたいに多い。

 ただ、見た目については、俺が知っているセンザンコウによく似たものから、見るからにロボットですと言うものまで幅広い。

 だが、いずれにしても中身は機械そのものであることは変わりなさそうだ。

 さてこうなってくるとだ。


「これ、攻撃についてはノノさん頼みになるかも。たぶんだけど、俺の攻撃は急所に当たっても碌に効果がないと思う」

「……。分かりました。頑張ります」

 たぶんだが、俺とノノさんはそれぞれの役目として想定してきた内容を順当に、堅実に、確実にこなしていく事を求められそうだ。


「ノノさん。頑張ろう」

「はい、ハリさん。頑張りましょう」

 そうして俺とノノさん、二人で挑む初めての決闘が始まる事になった。

?「直ぐに組めと言われたから組んだだけですが?」


09/07誤字訂正

<< 前へ次へ >>目次  更新