27:基礎の訓練-8
「すぅ……はっ……すぅ……はっ……」
「だいぶいい感じに走れるようになってきたな。ハリ」
訓練開始から五日。
いつの間にやら俺はフル装備のまま10キロメートルくらいならばランニングできるようになっていた。
生きていた頃から考えると、明らかに異常な早さで体力が伸びている。
が、これが『煉獄闘技場』の仕様であり、闘技場を運営している神からしたら、この程度の体力は無ければ、マトモに決闘をする事も出来やしない。
という事なのかもしれない。
「この分なら次の段階に進めるのもそう遠くはないか」
「武器である棍の使い方についてですか?」
「いや、そっちは俺が教えるのは無理だ。戦い方の方針が違い過ぎるからな。適当にPSSで参考資料を探すか、良い師匠を自分でその内見つけろ」
「……。分かりました」
が、この五日間で付いたのは体力だけだ。
武器と魔法の扱いについては、ほぼ変わらずと言っていい。
一応、こうして走りながら『ハリノムシロ』を発動する練習だけはしていて、10回に6回か7回くらいは成功するようになったが、それぐらいである。
まあ、こちらについてはまだまだ先の話と言う事なのだろう。
「ただいま。今戻ったよ。ノノさん、ドーフェさん」
「戻ったぞ、と」
「お帰りなさい。ハリさん、オニオン様」
「お帰り。オニオン、ハリ」
と、そうしている間に俺とオニオンさんのランニングは終わり、自宅前の糸通りに戻ってくる。
ノノさんは……ドーフェさんと一緒に魔法の練習をしているようだ。
「ドーフェ、そっちの進捗はどうだ?」
「悪くはないと思うわ。次の決闘までに間に合うかどうかは保証できないけれど」
「そいつは仕方がないな。自分の故郷とは違う魔法の扱いなんて、分かるはずもない」
「そうね。まあ、幸いにして分かり易い方の魔法だから、私でもアドバイスはできるけど」
ただ、ノノさんの魔法の練習は数を撃つものではない。
それはノノさんの体力と呪いの都合上、出来ないからだ。
故にノノさんの魔法の練習とは、一発の精度や威力を上げる事、あるいは新しい魔法の開発と言う事になる。
そして、そのために必要なのか、ノノさんの前にはドーフェさんの持ち物であろう武器が何本も置かれていて、ノノさんは俺への挨拶を終えると、真剣な眼差しで武器を見つめている。
「それでオニオンさん。帰る時に言っていた次の段階と言うのは?」
さて、ノノさんの邪魔をするのは悪いので、オニオンさんに話を聞こう。
「ああ、そのことな。簡単に言えば、連携の問題だ」
「連携の問題?」
「ハリとノノの嬢ちゃんは、お互いに何が出来るかは知っている。これはいい。実戦でどう動くべきかも話し合っている。これもいい。実際に戦った時に、その話し合い通りに動けるかは分からない。これは決闘で試すしかないから、仕方がない」
「それは……そうですね」
俺とノノさんはこの五日間で確かにそう言う話はしている。
お互いの訓練の合間に、そう言う時間を設けさせてもらって、基礎的な連携の訓練をしているのだ。
何故そう言う訓練をするのかと言えば、俺とノノさんはペアで決闘に臨む事が義務付けられている。
それは即ち、俺とノノさん、二人で協力して戦わなければ対処できないような相手と戦わされる可能性があるからだ。
「が、今の時点でも出来る事がまだある」
「と言いますと?」
「オニオン様、何の話ですか?」
だから、俺とノノさんの連携を深める上で何か出来る事があると言うのなら、それは確かにやるべき事だろう。
たぶんそれは勝率に直結してくるからだ。
なので、俺はオニオンさんに話の続きを促す。
ノノさんも自分に関係のある話だと思ったのか、こちらに寄ってくる。
「ハリ。お前はノノの嬢ちゃんを抱えて走れるか?」
「ノノさんを……」
「私を……」
「そう、抱えて走れるか?」
「「……」」
そして思ってもみなかった言葉に俺もノノさんも沈黙した。
「……」
「た、たぶん、私は重くないので、大丈夫です! ハリさん!」
「あ、うん。そこは心配してない。身長差とか筋力差から考えて、そこは心配してない」
うん、冷静に必要性を考えてみよう。
俺がノノさんを抱えて走る必要性は……腐るほどあり得るなぁ……。
「気づいたか。そうだ。どう考えても、お前らには今後必要になる。理想を言えば、ハリが全力疾走の状態でノノの嬢ちゃんを抱え、そのまま全力で走れるようになる事だな」
色々と必要なシチュエーションは思いつく。
俺ではなくノノさんに攻撃が向いてしまった場合が一番分かり易いが、俺に向けられた攻撃の範囲や向きによっても必要性は生じるだろう。
あるいはノノさんが相手に近づいて、魔法を接射するような状況もあり得るか。
他にも色々と必要な場面はあるだろうし……うん、絶対に必要だ。
「と言う訳でだ。残り五日間。ハリにはノノの嬢ちゃんを抱えるなり、おんぶするなりした状態で、走ってもらう。ノノの嬢ちゃんには逆にハリに運んでもらっている状態で魔法を使う訓練だな」
「はい、分かりました!」
「よ、よろしくお願いします。ハリさん!」
と言う訳で、翌日から俺はノノさんを抱えた状態で走る事になった。
そして何故かオニオンさんはドーフェさんを四人抱えた状態で走る事になっていた。