25:基礎の訓練-6
「え、あの……」
「心配するなよ、ハリ。新人闘士の魔法なんざ寝ぼけている所に1ダース叩き込まれたって蚊ほども効きやしねぇ」
「でしょうね。しかもオニオンはタフさにかけてはこの層ではトップクラスでしょうし」
ノノさんの魔法がどの程度のものかは分からない。
俺たちは不老不死だから、万が一もないのだろう。
だがそれでも、オニオンさんが臆する様子を一切見せずに胸を張っている姿には、本当に大丈夫なのかと思ってしまう。
「ハリさん。たぶん大丈夫です。その、二人きりの間にドーフェ様に頼まれて、同じように魔法を撃ったんです。そうしたら……」
「そうしたら?」
「素手の突きで私の撃った魔法は壊されました。それで、私が見た限り、オニオン様の肉体はドーフェ様よりも明らかに耐久力に優れているので……」
「何も問題ない、と?」
「はい、下手をしなくても傷一つ付かないと思います」
が、本当に何も問題は無いらしい。
うーん、オニオンさんたちが自分たちよりもはるかに上であるのは分かっているのだけれど……いや、こうなればもう俺から言う事は無い。
俺は魔法に関しては素人なのだから。
「納得いったか? さあ、何時でもいいぞ!」
「……」
「行きます!」
俺は横に退き、ドーフェさんもオニオンさんから離れる。
ノノさんは杖を構え、オニオンさんは普通に立っているだけだ。
「魔よ、水となり、球となり、矢のように飛べ。『
ノノさんがまず使ったのは、俺が初めて見た魔法を矢のような速さで真っ直ぐに飛ばすものだった。
ノノさんの持つ杖の先に生成された水球はオニオンさんに向かって真っすぐに飛んで行き……。
「……。打撃力って意味では矢よりは強いな」
「ええっ……」
「ですよねー」
「まあ、オニオンに効くわけがないわよね」
衝突。
それなりの重さの物体がぶつかったような音と共に水球は弾けたが、オニオンさんの身体には傷一つ、痣一つない。
本人の様子からして、本当にまるで効いていないらしい。
「じゃあ次頼むぞ」
「は、はい! 魔よ、土となり、球となり、矢のように飛べ。『
続けて、水球と同じプロセスで小石混ざりの土の球が形成されていき、矢のように飛んで行く。
スピードは『水球』よりも少し遅いぐらいだろうか。
「なるほど。こっちの方が威力はあるんだな」
「はい。少しだけ重いですから」
で、オニオンさんに衝突したのだが、当然効果は無し、と。
ちなみに衝突で弾けて散った土と水だが、時間経過とともに消えて行っている。
俺の『ハリノムシロ』と違って、その場に残る力は強くないらしい。
「で、確かもう一つあるんだったな」
「はい。 魔よ、命となり、球となり、矢のように飛べ。『
最後に緑色に輝く球体が形成され、飛んで行く。
「ん? こいつは……ああ、純魔法攻撃なのか」
「あ、やっぱり効かないんですね」
「オニオンは物理的な防御力だけに見えて、魔法的な防御力も割としっかりあるのよ」
「??」
こちらもやはり効かず、弾けて消えた。
しかし、微妙に前二つと評価が異なるらしく、少しだけオニオンさんが首を傾げている。
うーん、もしかしなくても、今のは鎧とかを無視して、直接的に生命力や魔力を削るような攻撃だったのだろうか?
オニオンさんには変わらず効かなかったようだが。
「なるほど。だいたい分かった。新人闘士としては悪くない火力だな。でだ、ハリ」
「何でしょうか?」
なんだろうか、嫌な予感がする。
「『
「あ、はい!」
「ノノ。貴方も同格に対して魔法を撃ち込んだらどのぐらいのダメージになるのか、と言うのを理解する意味でも、ハリに撃ってみなさい」
「わ、分かりました!」
ですよねー、としか言いようがない。
ただ、必要性は分かるので、素直に受ける事にする。
「えーと、ノノさんの体調は……」
「後、一度か二度くらいなら大丈夫です。その、どうしてかドーフェ様と二人きりだった時よりも調子がいいくらいなので」
「分かった。じゃあ、遠慮なく撃ってみてくれ」
一応ノノさんの体調も確認。
魔法を撃つだけでも体力の消耗はあるようだが、まだ大丈夫なようだ。
「それではハリさん。行きます! 魔よ、水となり、球となり、矢のように飛べ。『
ノノさんから水の球が放たれる。
俺はそれを左手に付けた盾で防ごうと、腰を落とし、右手を左手に添え、受け止める事に専念した姿勢を取る。
そうして水球がぶつかって……
「っう!?」
「ハリさん!?」
腕ごと体が吹っ飛ばされそうな衝撃を受けた。
こう、感覚としては、バスケットボールぐらいの堅さを持った球体に水を満載して、全力でぶつけましたと言う感じなのだが、とにかく重く、痛く、痺れる。
「だい……じょうぶだ……」
腕の骨が折れている感じはない。
しかし、盾を貫通して伝わった衝撃で、青あざくらいは出来ていそうだとは思った。
そして同時に考える。
これは胴体に当たれば、当たり方次第では内臓破裂ぐらいは起こしそうだし、頭に当たれば脳震盪や脳挫傷くらいは起こして、きちんと命に関わりそうだと。
これが最低レベルの威力の魔法であると考えた場合、今後俺は魔法対策を早急に考えなければいけないと。
これを喰らって無効化しているオニオンさんの身体はどうなっているんだと。
とりあえず俺の攻撃の数倍の火力は間違いなくあるなと。
まあ、色々と考える。
「ほっ、良かった……」
俺はほっとしているノノさんへと視線を向ける。
顔色と声音から察するに、なんとなくだが、少し体調が悪くなっていそうな感じがある。
これが限界と言う事だろうか?
「「……」」
オニオンさんとドーフェさんはそんな俺たちの様子を静かに見ている。
「ノノ。もう一発。適当な方向でいいから魔法を撃ってみて」
「え? あ、はい。分かりました。そう言う事ですね」
「ええ、そう言う事よ」
と、ここでドーフェさんがノノさんに指示を出す。
ノノさんの限界は近そうだが、限界まで魔力を使った方がいいとか、そう言う話なのだろうか?
「すぅ……」
そうしてノノさんは魔法を使うべく杖を構え……。
「魔よ、水となり、球となり……っう!?」
「ノノさん!?」
魔法を使うために必要であろう詠唱の途中で倒れた。