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23:基礎の訓練-4

「三つ。求めるような力が出てきました」

「ほう……三つもか。ハリ、一つずつ説明してくれ。検索条件と名称、それに必要ポイントぐらいしか分からないだろうけどな」

「分かりました」

 検索の結果、三つの力が候補として出て来た。

 それぞれ違う検索の条件で出て来たので、三つとも検索で入れた条件は満たせるが、細かい部分は違うものになるのだろう。

 また、ポイント的に一つしか取得できないので、どれか一つを選ぶしかない。


「一つ目。敵を惹きつけるで検索して、『ハリノムシロ』と言う力が出てきました。必要ポイントは7」

「ふむふむ」

「二つ目。攻撃を防御で検索して、『ハリノカベ』と言う力が出てきました。必要ポイントは8」

「なるほど」

「三つ目。脅威の増大で検索して、『ハリノヤイバ』と言う力が出てきました。必要ポイントは10」

「ほーん」

 と言う訳で、出て来たのはこの三つだった。


「ハリ、この三つの力の名称はお前の生前の世界での言葉が使われているはずだ。どういう意味になる?」

「そうですね……」

 漢字で表すならば、それぞれ『針の筵』『針の壁』『針の刃』だろうか?

 いや、俺の魔法の性質の影響を受けていると考えると、針の部分は玻璃……ガラスと言う可能性もあるのかもしれない。

 と言う訳で、俺はハリの部分についての両方の可能性をオニオンさんに伝える。

 それと、付随する筵、壁、刃と言う言葉についても教える。


「針か玻璃ねぇ……いや、もしかしたら……なるほどこいつは難しいな……」

 オニオンさんは悩んでいる。

 どうやら、オニオンさんの知識と経験でも、判断が難しいらしい。


「とりあえず三つ目はないな。残存ポイントで次の相手対策が出来る可能性を捨てているし、脅威の増大っていうのも、潰しが利かせづらい」

「なるほど」

 とりあえず『ハリノヤイバ』は無いらしい。

 まあ、俺個人としても、これはどうかと思ってはいた。


「そもそも、今回の力の取得はお前の魔法の発動を促すと言うのもあるからな」

「そうなんですか?」

「ああ。さっきも言ったが、使えるポイントの都合もあって、今回出てきた力はハリの魔法の性質や才能の影響を受けている。ぶっちゃけて言えば、此処で取得しなくても、何か月か腕のいい師匠に師事すれば覚える事が出来る力だ。だが、そう言う力だからこそ、最初の感覚を掴むのに使える」

「なるほど」

「ちなみにだ。これは持論になるが、こう言うのは後の改変が多少難しくなっても、最初の感覚を掴む方が重要だ。最初の感覚を掴むってのはとにかく難しいからな。そこを楽できるなら、楽した方がいい」

「あー、それはなんとなく分かります」

 なるほど。

 ここで魔法を使う感覚を掴めば、今後は自分で磨いて、改良して、新しい力を作って、と言うのが出来るのか。

 それは確かに重要そうだ。


「んー、『ハリノムシロ』の方が良さそうか」

「と言いますと?」

「俺の経験上、壁系統は出力が十分でないと効果も十分なものにならない。力を使うタイミングをきっちり計る必要もあるし、力を何処に張るかも考えないと駄目だ。ハリの魔法の性質が分からないと言うのも不安な点だな。要するに、ハリのような初心者が使うには向かない」

「なるほど」

 そう言われてみると、確かに壁は使いづらそうだ。

 俺の魔法関係の力がどの程度なのかは現状では全く分からないわけだし。


「悪いな。消去法になってしまいそうだ」

「いいえ、大丈夫です。俺一人だと、もっと時間がかかった挙句に、変な力を選んでいたかもしれないですし」

「そうか」

 と言う訳で、消去法気味になってしまったが、俺は『ハリノムシロ』の取得を選択した。

 で、決定した瞬間。


「っう!?」

「あー、魔法慣れしていないときついんだよなぁ……」

 俺の脳内に電撃が走ると言うか、細胞と細胞の隙間にガラス片を刺し込まれると言うか、とにかく不快な感覚を覚えずにはいられなかった。

 だがそれと同時に頭の中に『ハリノムシロ』の使い方や性質が刻み込まれていき、生来備わっていた力のように、知っていた事を思い出していくかのように、扱い方を覚えていく。


「っううぅ、ぐううぅ……」

 そうして扱い方を覚えていくと、オニオンさんが魔法を扱えるようにするために『ハリノムシロ』を覚えさせた理由もよく分かる。

 『ハリノムシロ』の扱い方を知らなければ、魔法も、魔力も、その扱い方が分かるまでに多くの時間がかかる事が理解できたからだ。


「むぐぐぐぐ……」

 しかし、同時に気づく。

 『ハリノムシロ』の改変方法が分からない。

 表面部分しか分からない。

 スマートフォンに例えるなら、アプリとして扱うことは出来るけれど、それがどう動いているのかが分からないようにブラックボックス化されているように思える。


「おごごごご……」

 なるほど、これは神殿で、あの神様の力を借りて、とりあえず使えるようにした代償。

 俺の魔法の扱いが『ハリノムシロ』を十分に扱える域よりも更に上になるまで、『ハリノムシロ』は授かったままに使わなければいけないと言う呪いか。

 だが納得は行く。

 だから、何も問題はない。

 これは俺の選択である。


「ぶべぇ……」

「終わったか」

「ええ、なんとか……」

 そうしてようやく『ハリノムシロ』の取得は終わった。

 とりあえず、次に神殿で魔法を取得するときは、どうしてもと言うか、俺の性質にそぐわない力を無理やり取得したいと言うか、そういう時に限った方がいいとは思った。

 不快感がヤバい……。


「それじゃあ帰るか。ハリ。分かっているとは思うが、帰ったらどんな力か検証するぞ」

「はい」

「それと、次回以降はノノの嬢ちゃんと一緒に来て、この場で相談しながら習得するのが推奨だ。お前の相方はノノの嬢ちゃんだからな」

「分かってますとも」

 俺は何度か頭を振って、不快感を払う。

 そして、俺たちは神殿を後にして、部屋の前の糸通りに帰った。

08/31誤字訂正

09/01誤字訂正

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