22:基礎の訓練-3
「ぜぇ、はぁ……ぜぇ、はぁ……あの、今更なんですけど……オニオンさん?」
「ん? どうした、ハリ」
神殿の近くは相変わらず混雑している。
神殿に来る目的は神殿でしか果たせないと言うのもあるだろうが、それにしても人が多い。
何故こんなに多いのだろうか?
まあ、その辺は後でPSSで調べてみよう。
それよりも今はだ。
「俺たちって一応死人ですよね。その、そんな俺たちが普通に体を鍛えて、その成果が出るってどういう理屈何ですか?」
「あー、その事か。昔、酒の肴に聞いた事があったんだが、小難しい話が多くて、理屈までは覚えきれなかったな」
こうして体を鍛える行為がどうして意味があるのかについてだ。
ただ、オニオンさんも詳しい理屈については分からないらしい。
顎に手を当てて、首を捻っている。
「そうだな……要点だけまとめて言えば、『煉獄闘技場』の内部に限っては、種族や身に着けている装備品、戦いのスタイル。そう言ったものから、普通のレベルぐらいまでの筋力なら鍛えられるようになっているらしい」
「オニオンさんの言うところの我らが主の力、と言う事ですか?」
「そうなるな。そんな訳だから、俺ぐらいの筋力になると話は変わってくるが、今のハリぐらいならいい感じに筋力が付くはずだ」
「なるほど……」
どうやら毎度おなじみの超技術であるらしい。
まあ、俺としても成果が出るなら、問題はないか。
「さて、そろそろ大丈夫そうだな。神殿の中に行くぞ」
「あ、はい」
俺の呼吸が整ったと言う事で、神殿の中へと入っていく。
≪本日は『
「ん?」
「どうした?」
「あー、その、前回とはアナウンスが違うと思って……」
「その事か。まあ、前回は色々と特別だったんだろうよ」
「なるほど」
神殿の中に入って聞こえたアナウンスは前回と色々違った。
どうやら前回はノノさんと引き合わせるために、色々と調整が入っていたらしい。
納得がいったところで、9番ポータルに入り、手近な部屋に入る。
「じゃあ、ハリ。お前が何を取得するべきかと言う話に移るぞ」
「はい」
部屋の中だが、前回と違って女性が居たりはしない。
女性が去った後の状態になっている。
「大蜥蜴との決闘は覚えているな。あの決闘、お前の背後にノノの嬢ちゃんが居たらどうなっていたと思う?」
「途中で間違いなく大蜥蜴はノノさんの方に襲い掛かっていたと思います。俺の攻撃は殆ど効かない。その気になれば無視してもいい。ノノさんの方が耐久力が低そうなどの条件が重なっていますから」
「その通りだ。最初はお前の方を優先するだろうが、少なくともノノの嬢ちゃんが魔法を使い始めた時点から、相手の攻撃はノノの嬢ちゃんばかりに向かう事だろう」
オニオンさんの言葉に俺は静かに頷く。
それは大蜥蜴との決闘中にも少し考えた事だ。
「で、これで相手が大蜥蜴ではなく、もっと頭の回る奴なら、初手すらお前を狙ってくれないだろうな。集団を相手にする際の基本は耐久力が劣る相手から優先して落とし、数的有利を手にする事だからな」
「分かります。素人の俺でもそれは考えますから」
そして、これからノノさんと組んで戦うとなれば、必ず起きる事態でもある。
しかもノノさんの場合、例の事情から、狙われたからと言ってむやみやたらに走り回り、逃げ回るわけにもいかない。
「よって、最低レベルでもいいから、対策は早急に考える必要がある。そのために今回は神殿に来た」
「はい」
なのでオニオンさんに言われるまでもなく何処かで対策は考えるべき話だった。
問題はどんな対策を採用するか。
採用してから、効果がありませんでしたでは、堪ったものではない。
だから、その対策が有効か否かを、俺よりも実力が上の闘士であるオニオンさんが判断してくれるこの状況は非常にありがたいとも言える。
「方向性は……そうだな、三つくらいあるか」
「三つですか」
「細かく分ければそれこそもっとあるが、大まかには三つだ。惹きつけるか、防御するか、より脅威に思われるか。これだな」
「……」
惹きつけ、防御、脅威度の更新、だろうか?
「惹きつけるって言うのは、直接的に相手の攻撃を吸い寄せるものや、意識を自分へと釘付けにする奴だな。要するにノノの嬢ちゃんに矛先が向かないようにする。所謂、囮役って奴だな」
「なるほど」
囮か。
ノノさんに攻撃が向かないから、その分だけノノさんも攻撃に集中しやすいだろうし、これが第一候補だろうか。
「防御するって言うのは、ノノの嬢ちゃんの周囲に壁のようなものを張る事だな。これによってノノの嬢ちゃんに攻撃が向いても防ぎ、ハリの攻略を優先するしかないようにする。壁役って奴が近いか?」
「ふむふむ」
壁か。
個人的にこれは一つ目の囮と組み合わせるのが良いのではないかと思う。
基本は囮でこちらに引き寄せ、引き寄せきれなかった攻撃を壁で防ぐと言うのは、守るものとしては鉄板ではないかと思う。
今回はそこまで得られる余裕があるとは思えないが。
「最後のより脅威に思われるは、見た目の打撃力だけでも構わないから、ノノの嬢ちゃんよりもお前の方が強そうに思わせる事だな」
「それは無理では?」
「まあ、これについてはお前の性質次第だな。正直、俺も出来るとは思っていない」
一種の幻覚と言うか……幻術だろうか?
あるいは本当に攻撃力を高めると言う事だろうか?
うん、口で無理と言ったが、本当に無理だと思う。
イメージすら思い浮かばない。
「とりあえずこの三つのどれかに関係するような力を10ポイントで取得したいと検索をかけてみろ。まだ魔法をまともに扱えないとはいえ、ハリの魔法の性質や才能、そう言ったものの組み合わせ次第では、手に入るはずだ」
「分かりました」
さて、どんな力が手に入るのだろうか?
俺は検索をかけてみた。