19:大蜥蜴との決闘を終えて-1
「ハリさん!」
「ノノさん!?」
決闘の場から戻ってくると同時にノノさんが俺に駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!? 今お怪我を……」
そして手に魔力を集めて何か……恐らくは回復魔法の類を使おうとする。
が、その前に俺はノノさんの顔の前に手のひらを向けて、ノノさんの行動を制止する。
「大丈夫だ。決闘が終わると同時に怪我や損耗の類は全部回復されているから」
「え、あ……」
理由は簡単。
回復する必要がないからだ。
今の俺は一切のだるさも痛みも感じていないし、確実に青あざになっていたであろう場所も何も残っていない。
それどころか大蜥蜴の血で赤く染まったはずの棍や防具も新品のような状態に戻っている。
これが肉体の再構築であり、俺は狼との決闘で既に学んでいた事だが、ノノさんは知らなかったか……あるいは知っていても気遣わずにはいられなかったと言うところだろう。
「気遣いありがとうな。ノノさん。嬉しいよ」
「はいっ! ハリさんが無事で良かったです!」
うん、でもそうだ。
肉体面での損耗は回復されるが、精神面の損耗はそのままであるのだし、ノノさんの気遣いのおかげで精神面が癒されたのは確かなので、ちゃんと礼を言っておこう。
さて、それはそれとしてだ。
「そう言えばノノさんの初めての決闘の相手って……」
「普通の雄鶏でした。生きていた頃に訓練の一環としてシメたことがあるので、捕まえる事さえ出来れば後は簡単に倒す事自体は出来たんですけど、走り回られたり、暴れられたりして、捕まえるまでが大変でした」
「発作も?」
「感覚的な話ですけど、起こる直前にまではいったと思います」
「なるほどなぁ」
一応ノノさんが知らなかった場合も考えて、初めての決闘相手という形で少し聞いてみた。
で、聞いた感想としては……。
あの神様、流石に魔法が使えない状態で体力的にもよろしくない純後衛なら、それに相応しい相手にするんだな、とか。
ノノさんの世界では男爵令嬢でも何かの訓練の一環……恐らくは命を奪う訓練の類で鶏をシメるんだな、とか。
ノノさんの怯えている様子から、発作と言うのはやはりきついんだろうな、とか。
この辺だろうか?
「……」
「ハリさん?」
「いや、何でもない」
いや、一番の感想としては……もしかしなくてもノノさんの基準で言えば、俺は相当頼りない存在なんだろうなと言う点か。
病弱であると判断されていたノノさんでも鶏をシメる世界なのだ。
そんな世界で戦いを専門としている男性と言うのを考えた場合には、俺など比べものにならないような強さを持ち、その強さに相応しいだけの頼れる姿と言うのも持っているに違いない。
そう考えたら……俺は本当に頼りないだろうなぁ。
ノノさんを不安にさせたり、不快にさせたりしないためにも、口にも顔にも出さないが。
「さて、これから……ん?」
まあ、この話については俺の心に秘めておくとしてだ。
今日の予定はこれで終わり。
では、この後はどうしようかと口に出そうとしたところ、俺の視界の端にPSSにメールの着信があった事を知らせるアイコンが浮かび上がる。
「どうかしましたか?」
「誰かからのメールが……オニオンさんか」
俺は相変わらずの技術に感心しつつ、PSSを出現させて、差出人を確認。
オニオンさんからのメールだったので、開いてみる。
「えーと、決闘を終えた後の行動についてのアドバイスだな。ノノさんも一緒に確認するように書いてある」
「なるほど。どんな内容ですか?」
「そうだなぁ」
ざっと内容を確認。
うん、確かにこれはする必要がありそうだ。
「一つ、休養権が行使されているかを確認する事」
「私は大丈夫です」
「俺も大丈夫だな」
休養権は大丈夫だ。
ちゃんと行使されているので、この後いきなり決闘を組まれて大慌てなんてことは避けられるようだ。
「一つ、PSSで闘技場にアクセスして、自分の決闘ログを回収する事。えーと、これか」
「私はもう貰っているので大丈夫です」
「見ていてくれてありがとうな。ノノさん」
「はいっ!」
決闘ログの回収は闘技場の公式サイトから出来た。
どうやら直近数日以内のログであれば無料で、無料公開期間を超えると1ポイントではあるが費用が掛かるらしい。
ログの内容から検索をする事も出来るようであるし……後で、自分より少し強そうな人のログを確認してみてもいいかもしれない。
遥かに強い人のログ?
それは見世物としては楽しいかもしれないが、自分の参考には出来ないと思うので、後回しだ。
「一つ、明日の朝一で訪ねるから、得たポイントは残しておくように」
「何かアドバイスをしてくれると言う事でしょうか?」
「たぶんそう言う事だと思う」
これは素直に待とう。
オニオンさんのアドバイスなら、信用できると思う。
ちなみに今回の決闘で得たポイントは10ポイントだった。
少ないが、まあ、あんな戦いをしているのなら、仕方がないと思う。
「以上が終わったら、ノノさんと一緒に決闘ログを見返して、二人だけでも出来る範囲の反省会をするように、だそうだ」
「反省会ですか……」
「正直、反省点しかない気がするんだよな……」
「ハリさん……」
その後、反省会はやった。
やったのだが、正直自分の決闘ログを流し、第三者視点から自分の動きを見ると言う行為は、顔から火が吹き出そうなほどに恥ずかしかったと言っておこう。
ノノさんはニコニコ笑顔で見てくれたが、いや本当に恥ずかしかった。
そうして、その日は終わった。
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