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17:大蜥蜴との決闘-2

≪決闘相手が現れます。構えてください≫

「……」

 家の前の糸通りからコロシアムへと俺の身体が転送される。

 舞台は前回から変化無し。

 相変わらず良く乾いた地面で、それなりの広さで、人の居ない観客席だ。

 広さが変わっていないのは良い事だ。

 昨日テレビで流れている決闘の様子をチラ見した限りだと、相手が大きくなればそれだけ決闘の舞台も広がるようだったし、それならば逆に舞台が広がっていないなら、相手の大きさも想定の範囲内であろうと察する事が出来るからだ。

 とりあえず棍を何時でも突けるように構える。


「……シュル」

 俺から離れた場所に紫色の光が集まって、一つの形を作っていく。

 大きさは……、体長は頭から尻尾の先までで恐らくは3メートル無い程度、体高は四つの脚で地面を掴んでいる状態で俺の膝下ぐらいまで。

 襟巻、角、棘の類はなく、極々一般的な蜥蜴を単純に大きくしたような姿をしている。

 念のために魔法の有無も少しだけ確認してみたが、存在は確認できず。

 純粋な動物と思ってよさそうだ。


≪決闘を開始します≫

「おう」

「ジュル……」

 決闘開始のアナウンスが鳴り響く。

 が、相手を警戒する俺は当然のように、大蜥蜴もまたこちらを警戒してか、お互いに一歩も動き出すことなくその場に留まる。

 やはり純粋な動物だと、初手は見慣れぬ相手への警戒からで安定するのだろうか?


「特別な能力がないなら、注意するべきは牙と尾。主な負け筋は足に噛みつかれての引き倒しか、尾で足を薙ぎ払われての転倒か? まあ、当たり所と状況次第では、ただの踏みつけだって死ねるだろうけど」

 俺は少しずつ接近していく。

 何時でも棍を突き出せるように、あるいは横へ飛べるように心身両方で構えつつ、詰めていく。

 なんと言うか消極的な戦いだとか言われそうだが、こちとら自分の実力を正しく把握できているかも怪しい素人なので、これぐらいは勘弁してほしい。


「すぅ……はぁ……」

 仮の話になるが、これで俺の後方にノノさんが居て、ノノさん目掛けて大蜥蜴が一目散に駆けだすと言うのなら、こちらも積極的に動くのだろう。

 けれど今回はまだノノさんは居ない。

 だから慎重に動く。

 この戦いで俺が学ぶべきは、蛮勇に身を任せて突っ込むことではない。

 学ぶべきは、この装備一式でどう戦うかだ。


「「……」」

 十分に距離が詰まった。

 彼我の距離は1メートル程で、俺はあと一歩踏み込めば攻撃できるし、大蜥蜴も駆け出して噛みつける距離だろう。


「リザァ!」

「っ!」

 緊張に耐えられなくなったのか、大蜥蜴が突っ込んでくる。

 狙いは俺の右足首。

 結構速いが……狼ほどではない。


「引いて……せいっ!」

「ジュッ!?」

 だから俺は冷静に一歩引き、十分な距離を取り、相手の噛みつきをしっかりと避け切った上で、その鼻先に向けて棍を突き出す。

 突き出された棍は大蜥蜴の鼻先から少しずれた場所を直撃。

 大蜥蜴は痛みを覚えてか、少しだけ怯み、退く。


「「……」」

 そうして、お互いに十分な距離がある事によって、また安易には動けない緊張状態になった。

 だから少しだけ考える。

 今の一撃は、たぶんそこまで効いてはいない。

 まったく効いていないわけではないだろうが、相手の行動に支障を及ぼすものではなく、生命に支障を来たさせるにはもっと強力な一撃が必要になるだろう。


「すぅ……」

「ジュル……」

 俺は棍を振り下ろすための姿勢を取る。

 大蜥蜴はこちらを警戒しつつも、再度噛みつきの姿勢。


「リザァ!」

「せいっ!」

 再び大蜥蜴が突っ込んでくる。

 だから俺はそれを横に動いて回避すると、棍を振り下ろす。


「ジュ……」

「ちっ」

 だが今度の大蜥蜴は噛みつこうとした勢いそのままに俺の横を駆け抜けていこうとしていた。

 そのために俺の棍は大蜥蜴の頭ではなく、背を叩く事になる。


「ドオァ!」

「っう!?」

 そして大蜥蜴は素早く頭の向きを俺が居るのとは逆の方向に変え、その変える勢いで以って鞭のような勢いで尾を振るう。

 振り下ろしが狙いを反れた事で、一瞬思考が詰まった俺はそれを避けられず、脚の片方に強い衝撃が走る事になる。

 それはまるで大きな丸太を叩きつけられたような衝撃であり、脚甲を身に着けていなければ骨にひびぐらいは入っていたかもしれないと思うような攻撃だった。

 同時に、今回は咄嗟に食いしばり、踏ん張ったが、油断すれば足を払われて、倒されそうな攻撃でもあった。


「距離を……取って」

 そんな攻撃を受けた俺は、平静を保つために直ぐに距離を取る。

 大蜥蜴も距離を取りたいのか、追ってはこなかった。


「構えを取る」

 幸いにして足は痛いだけだ。

 これぐらいならば、少し耐えれば気にならなくなる。

 そして大蜥蜴もきっと同じような状態だろう。

 だから、仕切り直しぐらいの気持ちで居ればいい。

 間違っても、破れかぶれに仕掛けてはいけない。

 狼の時のような一か八かでなんて考えてはいけない。

 アレは、これから先の俺がやっていい動きではないのだから。


「泥臭くても勝つ。華がなくても構わない。素人なんだから、冷静に、着実に、相手の命を取る事だけに……集中する」

「シュル……」

 俺は再び距離を詰め始める。

 大蜥蜴もゆっくりと近づいてくる。

 そして、十分に距離が詰まったところで、三度目の攻防が始まった。

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