100:PvP-光-3
「行きます……よっ!」
「来なさい」
俺はセフィルーラさんに向かって真っすぐに突っ込んでいく。
対するセフィルーラさんは俺を迎撃するように剣を振るう。
魔力が込められた剣はマトモに受けられないので、俺はそれをギリギリのところで避け、セフィルーラさんの懐に潜り込もうとしたが……。
「っ」
「ちっ」
その前にセフィルーラさんが半歩引いて、俺の拳の範囲外に出てしまう。
そして、返す刃が俺の方に迫ってきたため、俺は一歩引いて剣の範囲外に出る。
「せいっ!」
合計一歩半の距離を詰めるように前に出る。
ただし、大股にはなっても、直ぐに別の動きが出来るように脚を可能な限り浮かせず、前に出る。
「甘い!」
が、これもまたセフィルーラさんの素早い体と剣の動きによって制されてしまい、俺は紙一重で剣を避けつつも、距離を詰められない。
「だったら……」
「近づけさせる気は無いわよ!」
このやり取りを俺とセフィルーラさんは何度も繰り返す。
基本的には俺が前進し、セフィルーラさんが後退する形で、時には立場を逆転させつつ、何度も何度も繰り返す。
中には俺の頬や腕の薄皮が切れると共に、セフィルーラさんの腕を打てるような場面もあったが、お互いに有効打とは言い難い程度の攻撃だ。
うん、分かってはいたが、やはり格上相手に棍と言う武器を失ったまま立ち回るのは厳しいものがある。
周囲の石柱を利用して、剣の振りを制限する事が出来ないかとも考えたが、セフィルーラさんはその辺をきっちりと理解しているらしく、そう言う場に誘導されないようにうまく逃げている。
「『
「甘いわよ! ノノ!」
「くっ」
で、俺も俺でノノさんに近づけさせないように誘導することは出来ている。
だが、そこが限界だ。
ノノさんが機を見て魔法を撃ち込んでくれているが、ノノさんの詠唱だけでなく、俺の視線や魔力の流れからも動きを読んでいるらしく、俺の牽制をしつつ剣で迎撃している。
「はぁはぁ……」
「ふぅ……すぅ……息が荒くなってきているわよ。ハリ」
「すぅ……かもしれませんね」
さて、これまでのやり取りの感じからして、俺が死兵になって無理矢理接近すれば、セフィルーラさんを数十秒程度拘束する事は可能だと思う。
が、その数十秒でノノさんがセフィルーラさんを削り切れるかと言うと……割と怪しい気がする。
高機動型とはいえ、身に着けている鎧の効果もあってか、最低限の防御力はあるようだし。
「では、続きと行きましょうか!」
「来なさい!」
ではどうするか。
決まっている。
魔法を絡めるなどして、セフィルーラさんの虚を突き、死兵にならずに抑え込むのだ。
「『ガラスノクモ』!」
「っ!?」
まず放つのは『ガラスノクモ』。
先日のゴーレムのように周囲の魔力を利用していたり、その前のゴブリンのような格下の放出魔法が相手でなければ、効果は見込めない魔法だ。
だが、効果を見込めないのをセフィルーラさんは知らない。
だから、魔法の効果範囲から逃れるように、これまでよりも大きく避ける。
「貰った!」
「なら……」
大きく避けると言う事は、それだけ長く跳ぶと言う事で、立て直しに時間がかかると言う事でもある。
なので俺は横に跳んだセフィルーラさんを追いかけるように、魔力を垂れ流しにしつつ跳び、拳を振りかぶる。
その俺の前で、セフィルーラさんの折れてない方の翼に通っている魔力の輝きが増していく。
「こうするだけよっ!」
セフィルーラさんの身体が横回転する。
地面に足を着くことなく、空中で、支えも動力も腰の捻りもなしに、急加速し一回転し、伸ばされ始めている俺の腕目掛けて剣の刃が振るわれてきている。
なるほど、空を飛べるほどの出力は出せなくても、こういう使い方は出来ると。
その事を認識した俺は咄嗟にそれ以上腕を伸ばす事を止めると共に、腕へ一瞬で集められるだけの魔力を集めて強化魔法を発動。
また、小手の金属部分で受けられるように微調整もする。
こうして、可能な限り防御力を上げた上で……
「ぐうっ!?」
「なっ!?」
受ける。
受け、足裏に生じさせたガラスのスパイクによって、吹き飛ばされるのも防ぐ。
小手が砕けたかヒビが入ったか、その下の胴体に痺れと痛みを伴うだけの破壊力が伝わった感覚はあるが、とにかく無事に受けた。
「とっ……」
このまま完全に抑え込む。
そう判断した俺は左手を伸ばし始める。
指先にはガラスのスパイクが存在しており、服の切れ端ですらしっかりと掴める状態の手だ。
「『
また、この状態を好機だと判断したノノさんは既に土の刃を複数本放っており、しかもその刃は俺の魔法を吸収して威力を増しながら向かっている。
俺が拘束に成功すれば完全に詰み、成功しなくても避け切れるとは限らないタイミングだ。
「『光の結界!』」
「っう!?」
「そんなっ!?」
だがセフィルーラさんの動きも早かった。
俺が剣を受け止めた瞬間には、既に剣を持っていない方の手に光の球を作り出し、それを球状に展開。
俺の身体がその球状の光に触れると同時に、俺は強く弾かれるような衝撃を覚え、セフィルーラさんの身体は大きく吹き飛び距離を取る。
そのため、俺の左手は虚空を掴み、ノノさんの魔法も虚空を切る事になった。
「仕切り直し用の魔法、と言うところですか」
「ええ、そんな所よ。いざと言う時のために用意はしてあったの」
「ハリさん。分かっていますか?」
「ああ、分かってる」
俺の推測通り、仕切り直し用の魔法だったようだ。
その効果は仕切り直しとしては十分なもので、たった一手で、俺とセフィルーラさんの間には、三歩分の距離が開いてしまっている。
だが、緊急事態にも対応できるようになっているからこそだろう、セフィルーラさんの持つ魔力の量は目に見えて減ったように感じる。
たぶんだが、使えても後一度か二度と言うところだろう。
「仕切り直しが出来ると言うなら、出来なくなるまで攻め続けるだけだ!」
「そう簡単に出来ると思わないで欲しいわね!」
俺は周囲に魔力を放出しつつ、セフィルーラさんに向かって再び駆け出す。