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10:部屋の外へ-4

「この度は神殿のご利用ありがとうございます。ハリ・イグサ。ノノ・フローリィ」

「「……」」

 部屋の中は簡単に述べるならば、留置場や刑務所の面会室と言った感じだろうか。

 こちら側には椅子が三つ、正三角形に近い形で配置されており、透明な仕切りの向こう側には一人の女性が笑顔で居る。

 その女性は茶色の髪に金色の瞳の女性で、蘇芳色の飾り気のない衣装を身に着けており、何となくだが、これまでに何度も聞いたアナウンスに声が似ているように思える。


「さて、まずはそちらの椅子におかけになってください」

「は、はい」

「わ、分かりました」

 そして、これもまた何となくだが、絶対に逆らってはいけない相手とも感じた。

 なので俺は仕切りに近い方の椅子に座り、少女……ノノさんも俺の横で椅子に座った。


「悪い。遅くなったな。ハ……リ……」

「オニオンさん」

 と、ここでオニオンさんが部屋の中に若干慌てた様子で入ってくる。

 で、俺の名前を言い終わる前に仕切りの向こうにいる女性に目を向け……唖然としたようだった。


「何か?」

「イエ、ナンデモアリマセン」

「そうですか。では、オニオン・オガ・マスルロド・キドー。貴方もそちらにおかけになってください」

「ハイ、ワカリマシター」

「「……」」

 やっぱり、逆らってはいけないお方であるらしい。

 オニオンさんが明らかに棒読みと言うか、目も合わせたくないと言う雰囲気を出している。

 そして、その事実に気づいて、俺もノノさんも自然と背筋が伸びる。


「では、必要事項について順に説明していきましょう。まず、ハリ・イグサ。ノノ・フローリィ」

「「は、はい!」」

「貴方たち二人には、今後一緒に闘士として活動していただきます。これは『煉獄(コロッセオ・)闘技場(プルガトリオ)』の運営の決定事項です。拒否権はありません」

「「……」」

 あの、どう聞いてもその決定を出した運営と言うのは……いや、考えないでおこう、表情にも出すべきではない。

 相手が悪すぎる。


「決定の経緯については……そうですね。貴方たちが闘士として十分に成長した後で、希望したならばお伝えしましょう」

「はい……」

「分かりました……」

 それよりも気にするべきは、これからどうなるのかとこれからどうするかだ。


「では次にこの場で出来る事をお伝えしましょう」

「はい」

「神殿では、様々な方法で手に入れたポイントを使って、物品と権利の入手が可能です。その範囲の幅は広く、貴方が思い浮かべただいたいの事柄は可能であると断言しましょう。もちろん、求めたものに相応しいだけのポイント(対価)は必要になりますが」

「なるほど」

 どうやら神殿ではポイントさえあれば、おおよそ何でも出来るらしい。

 たぶんだが、ポイントさえ足りれば核爆弾だとか、反物質爆弾だとか、防御不可能な即死魔法だとかも手に入るのではないだろうか?

 後は、庭付きの一戸建てとか、ドラゴン肉のステーキだとか、未知の超金属なんかもあり得そうか。

 なんとなくだが、目の前の女性が言うだいたいの事柄とやらには、これぐらいは普通に含まれている気がする。


「そして、最終的にはここで転生のための権利を取得し、貴方たちには転生をしてもらいます」

「転生……」

「元の世界との縁次第では復活もあり得ますし、様々な事情から現世での肉体を得た上での転移と言うのもあり得ますが、基本的には転生になります」

「なるほど……」

 そして、此処で十分なポイントを払えば、閻魔様らしきお方の言っていた次の生を良くすることも出来ると言う事か。

 と、此処で俺はノノさんが何か聞きたそうな顔をしている事に気づく。


「ノノ・フローリィ。貴方の治療も此処でなら可能です。もちろん、相応のポイントは必要ですし、運営の決定事項として、貴方の該当事案については、貴方が闘士として得たポイントでの支払いしか認めませんが」

「っ!?」

「ふふっ、一応言っておきますが、これでも譲歩はした方です。ですので、後で必要なポイントを確認して頑張ってくださいね」

「はい……」

「……」

 どうやらノノさんには何かしらの事情があるらしい。

 死後の世界である『煉獄闘技場』でなければ解決できない話となると……魂関係だろうか。

 それにしても闘士として得たポイントでなければ駄目って……ノノさんの見た目からして荒事が得意とは思えないし、しかも俺なんて言う戦いの素人と強制的に組ませてもいる。

 これは相当厳しい条件ではないだろうか?

 なんだろう、俺が厳しい立場に置かれるのは別に構わないんだが、何も悪い事をしてなさそうなのにノノさんがそういう立ち場に置かれるのは無性に腹が立つと言うか、理不尽に思えると言うか、とにかく頭に血が昇って……。


「ハリ・イグサ。そう思うなら、貴方が支えなさい。姫を助けるべく艱難辛苦を乗り越えるのは戦う者の誉れであり、貴方のような人間には相応しい立ち位置ですよ」

「っ……」

「ハリさん!?」

 急に意識が朦朧としたと言うか、散逸すると言うか……これまでの思考をバラされると共に、感情が薄れる感じがした。

 たぶん、目の前の女性に何かされたんだと思う。

 と言うか、もしかしなくても心は読まれているし、これまでの言動からして、明らかに神様じゃないか。

 それが分かっていてもなお憤るのは止められないし、向こうもこの憤りそのものは止めようとしていない感じだが。

 とりあえず、話の邪魔はするな、と言う事なのだろう。


「その内だが、貴方の想像の上を行ってやる。とか言ってもいいか……」

「ふふふ、楽しみにさせていただきますね。では、最後に二つだけ教えましょう」

 後、とりあえずだが、この神様は敵ではない。

 どちらかと言えば味方寄りであるし、もっと正確に述べれば、観覧席からこちらを見ている女王様だ。

 だから、敵対するのではなく、想像以上の働きを見せる事で、意趣返しをするのが正しいと思う。

 俺如きにそんなことが可能かと言われたら、とても怪しいが。


「一つ。『煉獄(コロッセオ・)闘技場(プルガトリオ)』では強者を尊びますが……『強者が弱者を虐げる事は許さない』。これは、この世界における基本ルールであり、そちら側に居る限りは絶対です。よく覚えておくように」

 そんなことをする気は毛頭ない。

 ノノさんも同じなのだろう、強く頷いている。


「一つ。貴方たちに与えられた期間は100年です。その100年で『煉獄(コロッセオ・)闘技場(プルガトリオ)』を後にする権利を得る事が出来なければ、貴方たちは消滅する事になります。まあ、100年と言うのは相応に長いので、今はまだ気にもならないでしょうが」

 100年……部屋のホログラムに出ていた数字は、やはりそう言う事だったらしい。


「さて、これで私から説明するべき事は終わりです。では、オニオン・オガ・マスルロド・キドー。闘士として生きるためにまず必要なものを教えるようにお願いしますね」

「オーセノママニー……はぁ」

 そうして言いたいことを言い終わったのであろう。

 女性は全身を炎によって隠すと、その場から消え失せる。

 そして、それまで仕切りのようにしか見えなかった壁は、ホログラムによる画面が浮かび上がる壁に変わっていた。

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