95、アンデッドダンジョンの圧迫面接
パキパキと音を立てながら勢い良く燃え上がる焚火がダンジョンの壁を仄かに照らす。
その脇でリュックを枕に横たわっているのは、子供と見紛うほどの小柄な人間……いや、人間ではない。尖った耳に緑色の皮膚、そしてその顔はくたびれたおっさんそのもの。そいつが人間でないことは火を見るより明らかである。
パッと見野宿をしている旅人といった風であるが、ここはダンジョン。俺たちの職場であり家なのだ。知らないおっさん魔物が火を焚いてくつろいでいるというのは色々と不都合があるし、なにより気分が悪い。
俺は暢気に横たわっている魔物の前へ進み、恐る恐る声をかける。
「ええと、ここで寝泊まりされると困るんだけど」
すると魔物はビクリと体を震わせて半身を起こし、見開いた眼をこちらへ向けた。だが俺の顔を見るなり魔物は大きくため息をつき、肩の力を抜く。「驚かせるなよ」とでも言いたげな表情だ。そして彼は次に渋い表情を作り、頭を掻きながら面倒そうな視線を俺に向ける。
「なんだよ、別に良いだろ。迷惑かけねぇよ」
「いや、ここにいる事自体が迷惑っていうか。この通路冒険者通るし」
「だったら俺を雇ってくれよ。冒険者ぶっ殺してやるからよ」
「いや、急にそんなこと言われても……」
俺は人としての生を終え、アンデッドとなった。とはいえ俺の姿は生前とほとんど変わらず、少し体が透けて足がなくなった程度の変化しかない。他人を圧倒させるような技もないし、おまけに強面な方でもないのだ。
だからきっと舐められているのだろう。魔物は俺の言葉に耳を貸そうとしない。どうしたものかと困っていると、狙いすましたかのように威圧感の塊のようなアンデッドが現れた。
「チッ、また侵入者か」
不機嫌そうな表情を浮かべてこちらへ歩いてくるのは我がダンジョンのボス、吸血鬼である。
彼は地べたに座り込む小柄な魔物に鋭い眼光を向け、威嚇するような低い声で言う。
「ここがどこか分かっているのか」
その威圧感に圧倒されたのだろう、魔物はあからさまに顔を引きつらせてやや怯えたような色を瞳に浮かべる。俺のときとはえらい違いだ。
とはいえ、やはり魔物も素直に出ていこうとはしない。
「わ、分かってるに決まってんだろ、ダンジョンだよ。ダンジョンに魔物がいて何が悪――」
「そうだ、ここはアンデッドダンジョンだ。首を飛ばされても元気に動けるぐらいでなくては、我がダンジョンで働く資格はない。貴様はどうだろうな、試してみるか」
「く……チッ、分かったよ。ったく、アンデッドってヤツは……」
魔物はブツブツ悪態をつきながらも手早く荷物をまとめ、俺たちに背を向けて小走りに去っていく。そのただでさえ小さな背中がさらに小さくなっていくのを眺めながら、吸血鬼が吐き捨てるように言う。
「全く次から次へと」
「今日だけでもう4組目だよ。一体どうしたんだろう」
「恐らく近隣のダンジョンが潰れたんだろう。住処を失った魔物たちが瘴気に誘われて入ってきてしまうんだ」
「ダンジョンが潰れる? そんなことあるの?」
「滅多にあるものじゃないが、なくはないだろう。自然災害で物理的に潰れたか、冒険者に壊滅状態にされたか、内紛でもあったか、それともなにか別の理由か……詳しいことは分からないが」
「ふうん……まぁ可哀想な気もするけど、うちでは雇ってあげられないしねぇ」
「ああ、当然だ。面倒だが、しばらくはこうやって辛抱強く追い出していくしか――」
吸血鬼の言いかけた言葉は、地響きにも豪雨にも似た音によって掻き消された。
音に引き寄せられるように顔を上げると、黒い波のようなものが押し寄せてくるのが目に飛び込んでくる。近付いてくるにつれ、それが魔物の集団であることに気が付いた。
住処を失った魔物の集団に違いない。職と住処を求め、我がダンジョンにやってきたのだ。
俺たちは蒼い顔を互いに見合わせ、ポツリと呟く。
「……辛抱強く追い出していける?」
「……何か策を考える必要があるな」
*********
吸血鬼は鋭い視線を待機させていた魔物たちに向け、高らかに宣言をする。
「今から貴様らが我がダンジョンにふさわしい魔物かどうか見極める。合図があったら一人ずつ入って来い」
吸血鬼の軍曹のような厳しい説明の声を聞きながら、俺はパイプ椅子の置かれた小さな部屋でゾンビちゃんに優しく今後の説明をする。
「いい? 今から魔物たちに面接をしていくよ」
「ウン」
ゾンビちゃんはパイプ椅子にちょこんと座り、俺の言葉に小さく頷く。
俺たちが頭を絞って考え出した策、それは「面接を行う」である。
彼らにただ出て行けと言ってもなかなかいうことを聞いてはくれない。集団ならなおさら彼らは強気になる。なら逆に一度チャンスを与えてみたら良いのではないか、という結論に至ったのだ。チャンスを与えられた上で失敗したとなれば、彼らも素直にダンジョンから出ていってくれるのではないかと踏んだのである。
まぁそんな事をゾンビちゃんに言っても仕方がないので、取り敢えず今後行う事の説明だけを噛み砕いて教える事とする。
「俺たちは部屋に入ってきた魔物の粗探しをして、なんとか不採用にする」
「フサイヨウ? ナンデ?」
「新しい魔物を雇ったらゾンビちゃんの肉の取り分減っちゃうよ。嫌じゃない?」
「ヤダ!」
「だよね、だから不採用。分かった?」
「ウン! 分カッタ!」
ゾンビちゃんは力強く頷き、強く拳を握り締める。
俺がゾンビちゃんへの説明を終えたのと同じように、吸血鬼もまた面接者への説明を終えたらしい。
吸血鬼はゾンビちゃんを見下ろし、ため息混じりに口を開く。
「そいつに説明したってどうしようもないだろう。いいか小娘、お前は何も言わずそこの扉から入ってくる魔物を睨んでろ。指示があるまで何もするなよ、良いな」
「ムー……」
目の前の簡素なパイプ机に突っ伏し頬をつけ、不服そうな表情で吸血鬼を見上げる。
その視線を無視し、吸血鬼もパイプ椅子に腰を下ろした。
「じゃあ入れてくれ。あれだけの人数いるからな、早くしないと日が暮れる」
スケルトンは頷き、ドアを開けて長い列の先頭を手招きする。
扉から入ってきたのは、蛙やカメレオンに似た巨大な爬虫類魔物である。緊張しているのか、黄ばんだ目でギョロギョロと落ち着きなく辺りの様子を伺いながら部屋の中心へと進む。
「あ……えっと、ども」
魔物は目をギョロギョロさせながらぎこちない動きでペコリと頭を下げる。
その不慣れな挨拶を吸血鬼は見逃さなかった。
「は? なんだって?」
「え……その……」
吸血鬼の放つ威圧感に魔物はだらだらと汗を流し、ますます激しく目を動かす。その様はまるで蛇に睨まれた蛙だ。
吸血鬼は赤い目で魔物を睨みつけながら、吐き捨てるように言う。
「ろくに敬語も使えないのか。論外どころの話じゃない、社会人失格だ」
「う……」
「不採用だ、去れ」
魔物はガックリ肩を落とし、何も言い返さず俺たちに背を向ける。その背中は来た時より一回りほど小さくなっているようだった。
魔物が部屋を出て扉が閉められると同時に、俺はこの重苦しい空気に耐えきれなくなり大きく息を吐いた。
「はー……な、なんか割と厳しいね。もうなんか、俺まで胃が痛くなってきたよ」
「仕方ないだろう、なにせ人数が多いんだ。サッサと進めないと。さぁ次だ」
吸血鬼の合図に応じ、スケルトンが扉を開いて次の犠牲者……もとい魔物を招き入れる。
次に入ってきたのは鮮やかな羽毛を纏った鳥のような魔物である。
先ほどの魔物ほどは緊張していないらしく、長い脚を優雅に動かしながら俺たちの前まで歩み寄る。そして長い脚を器用に折り曲げ、可愛らしくお辞儀をする。
「わたくし北東にある闇の祠から参りました。どうぞよろしく――」
「黙れ。言われたことにだけ答えろ」
「う……」
吸血鬼のつっけんどんな対応に、魔物の表情も僅かに引き攣る。
張り詰めた重たい空気が、重力に囚われないはずのこの透明な体に伸し掛かってくるのを感じる。胃が押し潰されそうだ。
とはいえ、先ほどの魔物のように無礼を理由に不採用にはできまい。
吸血鬼は不採用の理由を探すべく、さらに空気の重量を増すような低い声で尋ねる。
「貴様を雇うことで我がダンジョンに何の得があるのか、答えてみろ」
「あ……ええと、体力には自信があります! 闇の祠で培った経験と体力で冒険者を粘り強く殲滅させたいと思います!」
「ほう、勇ましいな。で、どの程度動けるんだ」
「どの程度というのは?」
首をかしげる魔物を見据え、吸血鬼はさも当たり前であるかのように答える。
「四肢がもげた場合どうだ、素早く動けるか? どの程度の出血で意識を失う? 頭蓋骨の強度はどの程度だ。首を飛ばされた場合、どの程度の時間で回復できる?」
「えっ……と……す、すみません。アンデッドではないので首を飛ばされたら恐らく回復はできないかと……」
狼狽えながら、魔物はやっとそう答える。
予想通りの魔物の言葉を、吸血鬼は性格の悪さを見せつけるように鼻で笑って見せた。
「その程度で体力に自信がある、粘り強い……か? 笑わせるなよ」
「あ……う……」
「話にならないな。出口は向こうだ、どうぞお引き取りください」
それ以上口を開くことはなく、魔物は俺たちに背を向けいそいそ帰っていく。ふかふかだった羽毛が湿って潰れ、体が一回り小さくなったようだ。
魔物が部屋を出て扉が閉まった瞬間、俺は机に突っ伏してたまらず声を上げた。
「恐いよ! なんかもう、いたたまれないよ!」
吸血鬼は俺の言葉で眉間にしわを寄せ、バツが悪そうな表情を浮かべる。
「な、なんだよ。仕方ないだろう、不採用にしなくてはならないんだから」
「だからってあんな嬲るみたいにしなくてもさぁ」
「分かった分かった。次はもっとあっさりやるよ」
「頼むよほんと、こっちの胃がもたないよ」
「じゃあ次のを呼んでくれ」
吸血鬼の合図により、三人目の面接者が室内へと招き入れられる。
今度の面接者は目つきの悪い豚のような顔をした魔物、オークだ。魔物はのそのそした動きで部屋へと入り、俺たちの前へと歩いてくる。
だが彼が俺たちの前へたどり着くより早く、吸血鬼が口を開いた。
「顔が気に入らない、帰れ」
「雑だよ!」
*********
「……あのさぁ、もう少しいい感じに面接できないの? いくらなんでもあんな仕打ち、酷すぎるよ」
肩を落として部屋を出ていく魔物が扉を閉めた後、俺はとうとう耐え切れずに声を上げた。
すると吸血鬼は大きくため息をつき、パイプ椅子の背もたれに体を預ける。
「文句が多いな……なら選手交代と行こう。次は君がやってみてくれ」
「お、俺?」
「ああ、僕だって心苦しいんだ。疲れるし」
吸血鬼はそう言いながらわざとらしく肩を回す。
あまり自信はないけど、仕方ない。俺は背筋を伸ばし、スケルトンに合図を送りながら扉の向こうに声をかける。
「次の方どうぞ」
スケルトンに誘導されて入ってきたのは、怯えたような表情を浮かべた年端も行かない少女である。
いや、ここにいるという事は魔物に違いないのだろう。しかし一目見ただけだと人間の少女にしか見えない。
「あ、えっと……よ、よろしくお願いします」
酷く緊張しているようだ。声が震えてしまっている。
もしかすると、先ほどの面接の声が扉の外に漏れていたのかもしれない。
やはり吸血鬼と交代して良かった。こんな薄幸そうな少女が痛めつけられるところなど見たくはない。
「じゃあ自己PRをお願いします」
できるだけ優しい声でそう声をかけると、少女は体を震わせながらも少しずつ話し始めた。
「……私、ええと突然こんな事になって、あんまりその、心の整理が付いてないんですけど……家族もバラバラになっちゃって……行くあてもなくて……」
少女の大きな目から大粒の涙が零れ落ちる。
悪いことを聞いてしまったかもしれない。いまさらながら罪悪感に胸が重くなるのを感じる。
そうだった、魔物とはいえ彼らも住処を失った身。彼らのダンジョンで何があったのかは分からないが、きっと辛い思いをしてきたはずだ。
少女は嗚咽を抑えながら、涙の滲んだ目でこちらをじっと見つめる。
「私、みなさんみたいに強くないけど……でも一生懸命頑張ります。強くなります。生きてさえいれば、いつか家族とも会えるかもしれないから……」
こちらまで目頭が熱くなってくるようだ。
この少女をこれ以上不幸にしてはならない。俺は思わず目を押え、大きくうなずく。
「うん、うん……分かった。採よ――」
「ま、待て待て!」
吸血鬼が慌てたように声を上げ、俺の言葉を強引に掻き消す。
そして俺の透けた頭に手刀を叩き込み、噛み殺すような勢いで耳打ちする。
「何言ってるんだ、君は馬鹿なのか?」
「ご、ごめん、つい……でも可哀想でさぁ……」
「可哀想なものか。見てろ」
吸血鬼はそう言うと足元に落ちていた石をおもむろに拾い上げ、無慈悲にも少女に投げつけた。しかも吸血鬼が狙ったのは幼気な少女の顔。
俺は目を見開き、思わず声を上げる。
「うわっ!? な、なにす――イッ!?」
俺は目の前に広がる光景に、言いかけた言葉を飲み込んだ。
石の当たった少女の顔が、ぐにゃりと歪んでいるのである。まるで色のついた雲を棒か何かで掻き回したかのよう。
少女は無事だった口を三日月のように歪め、ぺろりと舌を出した。
「ちぇっ、バレてたか」
「確かに素晴らしい能力だが、うちじゃ幽霊を誘惑するくらいしか使い道がないぞ。その力はもっと他の場所で発揮するんだな」
吸血鬼は平然と少女――いや、魔物にそう言い放つ。
すると魔物は少女の姿をやめ、嵐の前の雨雲のような正体を現す。そしてそのまま文字通り煙のように消えてしまったのだった。
********
「あんなのに騙されるとは、情けない」
俺は吸血鬼の視線から逃れるように机の上に突っ伏す。
「うう……そんなに責めないでよ。それにしても、やっぱり面接って難しいなぁ。どうしたら良いんだろ……」
やはり吸血鬼のように厳しい面接をしなくてはならないのだろうか。もっといい方法はないのだろうか。
必死に考えていると、面接室の張り詰めた空気を一気に緩ませるような明るい声が上がった。
「ツギ私ヤル! 私ノ番!」
そう言って元気いっぱいに手を上げたのは、言われた通りに今まで大人しく座っていたゾンビちゃんである。
「ええっ、ゾンビちゃんも面接やりたいの?」
「ヤリタイヤリタイ!」
ゾンビちゃんはそう言いながらパイプ椅子の上で子供のように手足をバタつかせる。
なんと言ってゾンビちゃんを宥めようか迷っていると、吸血鬼が意外なほどあっさり頷いた。
「ああもう、分かったから静かにしろ」
「えっ、良いの?」
「放っておけ。その間にもっと効率の良い面接方法を考えるぞ」
吸血鬼は諦めたようにそう言うと、椅子に体重を預けて大きく背伸びをする。もっともらしい言い訳をしてはいたが、休む気満々だ。
だがそんなことは気にもかけず、ゾンビちゃんは目を輝かせながらウキウキ気分で扉の向こうに声をかける。
「ツギの人、ドウゾ!」
部屋に足を踏み入れたのは筋骨隆々、屈強な肉体を持った一つ目一本角の青肌の鬼、サイクロプスである。
今までの魔物と違い、見るからに強そうだ。
だからだろうか。先ほどまでの魔物と比べても明らかに自信ありげである。
「よろしく」
「オオ、デッカイ」
ゾンビちゃんはもともと大きい目を零れ落ちんばかりに見開き、サイクロプスを見上げる。
小柄なゾンビちゃんの前に来ると、サイクロプスの大きさがますます際立つようだ。
サイクロプスは自らの太い腕に力こぶを作り、胸を張ってゾンビちゃんに見せつける。
「ふはは、どうだ素晴らしい肉体だろ?」
ゾンビちゃんはおもむろにパイプ椅子から立ち上がり、サイクロプスの力こぶをぺたぺた触る。
「カチカチ」
「鋼の肉体と評される筋肉だ。俺はこれを武器に戦ってきた」
「ほー。走レルの?」
「ああ。腕力にも自信があるが、同じくらい体力にも自身があるぜ。走りも任せろ」
「へー」
二人のやり取りを見守りながら、俺は吸血鬼にそっと耳打ちする。
「なんか、割と真面目に面接してるね。今までで一番それっぽいんじゃ」
「ああ、これは驚きだな」
ゾンビちゃんは相変わらずぺたぺたとサイクロプス自慢の筋肉を触っている。
だがその力はどんどん強くなっていき、やがてサイクロプスの青い体には赤い小さな手形がいくつも浮かびあがる事となった。
最初は満更でもない表情で筋肉自慢を繰り返していたが、ゾンビちゃんの猛攻にさすがのサイクロプスも険しい表情を浮かべてゾンビちゃんの細い腕を掴む。
「痛ッ……くはないが、お嬢ちゃんなかなか力強いなぁ。あんまりお転婆だと男の子にモテねぇぞ」
冗談交じりに言っているようだが、その大きな目は全く笑えていない。
だがゾンビちゃんはサイクロプスの腕を易々と振り払い、またバシバシとその青い体に手形を増やしていく。
さすがに限界が来たのか、サイクロプスは後退りをしながらたまらず声を上げた。
「ちょっ……な、なんだよ! なにがしたいんだよ!」
「叩くとニク、柔らかくナルって聞イタ」
「え?」
ゾンビちゃんは舌なめずりをしながらその大きな目でサイクロプスをじっと見つめる。
そしてゾンビちゃんは背伸びをし、サイクロプスの厚い胸板に手を置いた。
「肺モ心臓モ健康ソウだねー、内臓もオイシソ……ジャナクテ元気ソウだねー」
「ひっ……」
ゾンビちゃんは満面の笑みを浮かべて、顔を引き攣らせるサイクロプスの腕を掴む。ミシミシと軋む腕を引き寄せながら、ゾンビちゃんは無邪気な子供のように尋ねる。
「ねぇイツカラ勤務デキル? 夜ゴハンに間ニ合ウ?」
「ひ……ひいっ!? や、やっぱり結構です!」
サイクロプスは情けない声を上げながら部屋の外へと逃げ出す。
屈強な大の魔物が裸足で逃げ出すのを目の当たりにし、面接待ちをしていた魔物たちもにわかにざわついた。
「ちぇー、逃ゲチャッタ」
「あーあ……これじゃ面接って言うより品定めだよ」
「……これは使えるな」
吸血鬼は腕を組み、意地の悪い笑みを浮かべる。
「小娘、これからお前が面接をやれ」
「えっ!?」
「ウン、分カッタ!」
困惑する俺をよそに、ゾンビちゃんは意気揚々と頷いた。
これより魔物たちへの面接はすべてゾンビちゃんに一任される事となったが、結論から言うとこの作戦は大成功であった。彼女の不気味な質問は魔物をも震え上がらせ、辞退が相次ぐだけでなく面接希望者まで減っていったのである。
気付くと我がダンジョンを訪れる侵入者はゼロになっていた。
……噂が思ったより広まり、ダンジョンを訪れる温泉客まで減ってしまったのは予想外であったが。